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2021/09/17

騙された?書評『外来植物が変えた江戸時代』

『外来植物が変えた江戸時代 里湖里海の資源と都市消費』(佐野静代著 歴史文化ライブラリー・吉川弘文館)。

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ちょっと驚いたというか、騙された気分にさせられる本だ。

タイトルから外来植物が江戸時代にどんな影響を与えたのか、という思いで手にとったのだが、まずここで騙された。まずサブタイトルに里湖里海とあるように主な対象は湖や海の沿岸部。里山ならぬ沿岸部に人々の暮らしが生態系を変えたことを示している。まあ、その程度の勘違いはいい。
しかし、外来植物というのは何だか今風のヘンな雑草が繁茂するイメージではなく、具体的には、綿、サトウキビ、サツマイモ……など作物なのである。たしかに外来ではあるが、人が有用と思って栽培したのだから、ちょっとニュアンスが違うではないか。

とまあ、タイトルに文句を付けても仕方がない。

そこで描かれるのは、驚きの栽培法なのだ。まず、これらの作物には肥料が必要だ。とくに綿やサトウキビはたっぷり栄養がないと育たない。ちなみにサトウキビは琉球や奄美だけでなく、江戸時代は本土で広く栽培されていたらしい。和三盆の讃岐もだが、遠州などでも盛んだった。そして肥料としていたのが、海草や海藻だったのだ。せっせと池や湖、そして海からアマモやキンギョモ、ホンダワラ……などが採集され、それが畑に入れられたらしい。里山の草木はすでに田畑に取られていたから、足りないのだ。

さらにシジミやアサリも、身はもちろん食べ物だが貝殻は焼いて粉にしたら石灰肥料。これも重要だった。

里山がはげ山になって土砂が流出すると、海が砂地になり、そこにはアマモが繁る……という生態系もあったらしい。山の栄養分が、海に流れ出たのを海藻などの形で陸地に返されるという物質循環があったという。だからホンダワラが商品として取引もされた。

大坂の町では、四国や九州の薪が運ばれて売られたという江戸時代のエネルギー事情は私の問題意識の中にあったのだが、そこに海の産物も加わっていたのである。

ネタばれ的な本の内容はこれぐらいにするが、江戸時代の生態系を見る目が変わった……いうより広がった。鎖国して日本列島の陸地の中の生態系ばかりを考えていたが、そこに水圏が加わり、拡張した生態系の姿が浮かび上がる。それはより複雑になり、巨大な物質循環を築いていたとなると……それを破壊してしまったのは、やはり明治~大正以降なのか。
そして、大きな歴史の断絶をつくってしまった。この本には遠州地方のサトウキビ栽培の資料がなかなか見つからずに困った逸話が記されている。日清戦争後、砂糖生産は領有した台湾になり、本土のサトウキビ栽培は一気に廃れたそうだが、ほんの100年ほど前の繁栄した地場産業が忘れられていた。

今頃、SDGsなんて言って新しがっていられない。温故知新、過去を調べることで新しき社会システムを発見できる。

 

 

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コメント

 ここ50年ほどでさまがわりしましうたが、自家消費用のサトウキビ栽培は岡山県南では広くおこなわれていました。1970年代までは砂糖がお中元お歳暮にきていましたから、そのへんまでは砂糖が貴重品だったなごりがあったのでしょう。本土向け品種もあったと思われます。

 アサガオの品種改良にみられるように江戸時代の園芸はすごいものなので、西欧化以前のものをあまり軽視することはないように思われます。

 トウモロコシやトマトは1492時点では少なくとも1500年以上品種改良されていたようです。

岡山でもサトウキビ栽培をしていたことは、この本にも書かれていますが、なんと1970年代まで! それはすごいなあ。品種も含めてまだ記憶している人もいるだろうから、伝承してほしいですね。

トウキビとトウモロコシをいう地域はサトウキビが差異ばいされなかった地域ではないかと思っております。岡山ではトウモロコシはナンバと言っていました。

作物というのは意外とすぐ変わりますね。同じ農地でも、時代とともに変遷します。もう、農地の持ち主でも全部は覚えていないんじゃないか。
今は森林でも、少し前は草原だったり、その前は田畑だったり。「自然は不変」という思い込みが、政策も曲げている気がする。

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