土砂流出を止めるのは樹ではなく草
ネイチャー系の学術誌「サイエンティフィック・レポート」誌に出た論文、「花崗岩地域山林における下層植生率による土砂生産率のリスク低減効果」によると、土砂の流出防止に効果のあるのは下草だそうだ。
執筆は、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの水野敏明さん、専門員の小島永裕さん、京大大学院地球環境学堂助教の浅野悟史さん。森林の地面が下草に覆われている割合が、60%以上、30~60%、30%未満の場所で比べてみると、60%以上ある場所は、30%未満のところより土砂流出量が97%少なかったそうだ。その間では63%少なかった。72時間雨量が400ミリを超える豪雨でも、同じだったという。
これ、言い換えると樹木より下草の方が大切ということか。
実は、これと同じことを来月出版する本に書いたのだ。「虚構の森」では、土壌を守るのは樹木ではなく草であり、樹木だけなら逆に表土を抉りかねない……と。ああ、今回の論文の話を書き足したかったな。かなり具体的な研究成果ではないか。でも、再校が終わったばかりだから、もう手が出せないのだよ。。。
ところで、森林はあるけど、つまり樹木は繁っているけど下草の被覆度が違うとは、どういうことだろうか。
一つには、樹冠が鬱閉した森林だ。スギやヒノキ林でも間伐をしなければそうなるのはよく知られるが、実は天然林、とくに広葉樹が繁っている場合もそうなりがち。
写真は生駒山の照葉樹林内。下草がほとんどない状態。もっとも、落葉は結構積もっていたが。
そしてもう一つ。それはシカが下草を全部食ってしまった場合。
こちらは奈良・春日大社の境内。お見事というほど林床には何もない。残された樹木の皮まで食べないように金網で防御しなくてはならないほど。下草がここまでなくなると危険だねえ。ただし、平坦なので流出しづらいと思うが。
逆に考えれば、樹木がなくても草が繁っていたら、少なくても土砂流出を心配する必要はあまりないことになる。たとえばゴルフ場とか。
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いつも拝読させて頂いております。
私もとても興味深い論文なので、読んでいるのですが、understoryの訳なのですが、「下草」というより「下部植生」と解する方が妥当だと思います。いかがでしょうか?
投稿: | 2021/10/22 18:43
正確を期するとそうかもしれませんが、ある程度意訳ということでご了解ください(^o^)。
できる限り一般人に通じる言葉とすると、下草の方がピンと来るかと。
投稿: 田中淳夫 | 2021/10/23 12:46
シンプルに言うと雨がそのまま土に降り掛かるかどうかってだけだと思います。
表層崩壊で調べたらすぐわかると思います。
投稿: 山師10年目 | 2021/11/03 19:47