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森と林業と田舎の本

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2021/10/11

不眠症に『荒くれ漁師をたばねる力』

このところ、不眠症である。寝付きがやたら悪くなった。七転八倒して、最後は酒飲んでも寝ようとするが、それでは翌朝の体調が悪くなる。

で、寝つけない夜は読書するが、そこで手にとったのが『荒くれ漁師をたばねる力』(坪内知佳著 朝日新聞出版)

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これ、著者がテレビなどにも出ているし、政府の町おこし系のイベントにも引っ張りだこらしいので知っている人も多いのではないか。
内容は表紙カバーや帯文にもあるように、24歳の女性が漁師の船団を束ねる会社の社長に就任して、漁業の建て直しを図る実話である。大学中退のシングルマザーだから社長といってもお飾りで、事務仕事させよう……ぐらいの感覚で就任させたら、既存の漁業の慣習というかシステムをガラガラポンしてしまった。

ただ方法は、わりとシンプルで、サバやイワシなど量の獲れる漁獲は漁協に任せて、混獲してしまう雑魚(実は高級魚)を自前の産直でレストランなどに送る(鮮魚BOX)というシステムだ。当然、産直の方が圧倒的に高くて利益率がよい。いわゆる6次産業化という農水省の大好きな仕組み。これで、建て直しをする計画だったが、外からも内からも既成の勢力の猛反対と妨害、分裂が続き……と、この辺はだいたい読めるパターン(^o^)。だが彼女は、その度に恐るべき胆力と努力で乗り切るのだ。

漁労長の言葉が面白い。「最初はきれいな人だな、私たちを救いにきた天使に見えた。でも悪魔に変わった。

これ、そのままテレビドラマにもなりそうな話なのだが、そうしたオモロイ具体的なエピソードは本書を読んで知っていただきたい。

私がウッとうなったのは、最後の方にサラリとあった実情。それはスタートが2011年で、本の出版したのが2017年だから6年経っているのだが、そこで「魚の水揚げは自家出荷を始めた頃の半分まで落ち込んでいる。」という1行なのだ。6年で半減!

日本の水産業、半端ない危機である。山口県の玄界灘に面した萩大島の漁業の場合だが、おそらく全国で起きているのだろう。これは、とにかく魚が獲れないうえに、魚価がどんどん落ち込んでいるからだ。

だが、著者は言うのである。鮮魚BOXの売上が10倍に伸びている、と。だから漁師の収入は以前と同じ額を保てているのだと。そして漁獲が10分の1になったとしても、鮮魚BOXを10倍の値段で私は売る、と断言する。営業の仕方も含めてド迫力である。

だが、その意味するところは何か。出荷時の価格は落ちているが、最終価格が10倍になっても買ってくれる消費者はいるのだ。

ちょうど読んだ水産業のレポートでも、興味深い発言があった。

今は流通と生産が分断されている。漁獲して市場に出荷する段階と、市場で魚を買って流通させる段階に大別される。結果、情報も断たれる。誰がどの魚をどれくらい欲しがっているかという情報を基に、オーダーを受けて取りに行く漁業に変えたい。漁獲できる魚の情報を事前に提供して、消費ニーズに沿った水揚げを行う仕組みだ。(和田雅昭・公立はこだて未来大学教授)

ようは林業で嘆いていることと同じだ。材価が落ちて手取り収入が減る、山元と流通が分断されていて情報が断たれている。だが両者を結び、消費者ニーズに沿った木材商品にすれば、価格は上げられる。それこそ10倍にでも。

でも、決定的に違うのは、林業界に坪内知佳さんに相当する人がいないことだなあ。。。

ちなみに本書の欠点は、タイトルだ。ハウツウ本じゃないんだから。「荒くれ漁師」というのもバイアスがかかっているし、「たばねる力」というのも違う。彼女の実力の根源と彼女がしたかったことは何か……というようなことを寝床で考えていると、朝を迎えていたりするのだよ。。。

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