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森と林業と田舎の本

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2021/11/10

奈良知事の本『このくにのかたちを考える』

荒井正吾奈良県知事が本を出版した。

このくにのかたちを考える 時評社刊 2640円」

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私も知事の激務さは知っていて、平日はほとんど分単位で、土日もほぼイベント出席のスケジュールが組まれているから、いつ本を書いているんだ、私なんぞ、ヒマでもなかなか書けない(書かない)のに……といぶかしがったのだが、どうやらコロナ禍で土日に出席しなくてはならないイベントが激減したおかげで余裕ができたようである(^o^)。

内容はなかなか濃い。奈良という土地の歴史(つまり大和王権から現代まで続く、ほとんど日本史)をひもときながら、外交も産業も、交通、文化……などが時空を越えて語られる。それこそ天智天皇から田中角栄まで登場して、権力の在り方、危機管理、国土の計画のデザイン……など多彩に論じている。

ここで本の内容を事細かく紹介しても興味がないかもしれないし、別に知事をヨイショしようという意図もない。ただ、なぜ本書が私の手元にあるのか、という点を知ってほしい。「国土づくり」の章の中に、「国土の大きな部分を占める森林の在り方」節がある。

そして語られるのが、昨年成立した奈良県の「新たな森林環境管理制度」条例のことだ。当初、村尾行一氏の「森林業」を読んだことから始まり、奈良県に新たな森林業を起こす目標として条例づくりに取り組んだ経緯が語られる。そして今年開校の奈良県フォレスターアカデミーまで。この審議会に私も参加していた(ちなみに私は本には登場しません)だけに、3年間もああだこうだと議論したことを思い出して懐かしくもある。

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実は新森林条例の制定やフォレスターアカデミーを設立した意図は、奈良県内でも、林業家でも、さほど明確に理解されていないかと思う。恒続林もわかってもらえていない。よくある観念的な森林の条例ではない。アカデミーも、他県にあるような単なる林業従事者を養成する大学校ではない。ここで意図の一端を知ってもらえたら、と思う。国の森林関係の法律の隙間をいかに埋めて現実の森林と国土づくりに落とし込むかを議論したのだから。

たいした枚数ではないし、ちょっとした裏話ながら、新たな息吹を感じてほしい。

 

ちなみに、ほかに興味を引いたのは、知事の前職である海上保安庁長官時代の話。警察と軍の違い、海上保安庁と海上自衛隊の違いを説くのだが、驚いたことに長官時代は、北方領土を巡る違法操業に関して、ロシア側の長官とツーカーだったらしい。それどころかロシアは北朝鮮の不審船対策に協力的だったし、実際、この時期に日本の漁船の拿捕はなかったのだ。もっともそこにアメリカのCIAが介入してきて……ロシアン・マフィアも……とさながら国際スパイドラマのような話か登場する。

さらに中国が尖閣列島へ漁船を送り込んでくるときは、中国の公安部から今から何隻の船が行くから、と通告?があったという。お互い、大事にならないよう、裏で情報交換をしていたわけだ。さらに韓国ともつきあいがあって……。海上の国境線を巡る外交は現場で展開されていたのである。まさに表一面だけで「くにのかたち」は語れない。

おそらく現在のロシアや中国とは、こんな芸当はやっていないだろう。よりこれらの国々との関係はシビアになっているから。しかし、表の外交の裏で、こんな外交があった話をサラッと触れているところが面白い。国同士が角突き合わせるときは、地方行政なり民間なり、別のパイプを築く必要を強く感じる。

全体としては、結構小難しい哲学書みたいなのだが、意外やするすると読めてしまう。

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