ウシ一頭買いの林業
サガリステーキを食した。
最近は、牛肉も細かく部位の名を示すので面白い。サガリとは、横隔膜の一部でハラミより腹側なのだそうだが、内臓肉に分類される。
別にサガリステーキについて解説しようというわけではない。これまで内臓肉はホルモンと一括されることも多かった。それが個別に分けるとステーキになるのである。またミスジとかサンカクとかザブトン、イチボ、カイノミ……と分けて稀少部位だと言われると、なんだか美味しそうに感じて買ってしまう。業者側からすると、個別の命名によって、これまで売りづらかった部分を好む人に届けることができる。すると単価は上がるし、無駄を出さない効果もある。
ちょうど、先日リモートで取材を受けたのだが、そこで今後の林業の在り方について語らされた。絶望している私に何を聞くんだ(笑)と思わぬでもないが、それでも新しい傾向の一つとして、林業家とビルダーが結びつくことで、家づくりに必要な木材を注文に合わせて出すことで無駄を省くビジネスモデルの登場を紹介した。
すると取材者は、「焼き肉店の“ウシ一頭買い”みたいですね」という。
なるほど、大手焼き肉チェーンなどではウシを丸ごと購入して、各部位の肉に切り分けてすべてを商品化する方法が登場している。
それなら、寿司屋の漁船1艘買いもありますね、と私も応じた。マグロのトロだけを買うのではなく、水揚げした雑魚も全部買って、それぞれを調理によって商品化する。それによって全体の利益も増やせるし、ロスも減らせる。
分業が進んでいる業界では、業者によって求める部分が違うので、無理な買い方になりがちだ。マグロのトロだけを買い占める寿司屋は、マグロの赤身やアラは買わない。それらはロスになり漁師は儲からない。またトロを大量に仕入れようと思えば高値になる。また供給側も量を仕入れないといけないので、売れにくい部分は避けてしまう。それが無駄を出して全体の価格を下げる。
それを、より大規模にやっているのが林業だ。建材、合板、製紙チップ……と業者が違うので仕分けが必要だが、往々にして面倒なので全部チップにしてしまう業者もいる。だからバイオマス燃料のチップの中に銘木や立派な柱を採れる材が混じっていることも多くなる。山の木を全部伐って、全部燃やしてしまう林業が横行する。
林業も、樹木そのものを売って、その1本の木を細かく分けて(製材するなりして)、すべてを商品化することを考えるべきだろう。たとえば柱と板と造作材、家具を1本の木から得る……。さらに枝葉をインテリアにする。
もちろん量では売らないで、利益を確保する。そのためにはエンドユーザー(工務店や家具メーカー、製紙会社……)などの情報を一元化しなくてはならない。加工には製材やプレカットの業者も加わるべきか。
いやいや森林丸ごと買いも考えられないか。木材だけでなく、森林空間の商品化も視野に入れる。環境創生もビジネスに加えたスマートな森林ビジネスを描くべきだろう。
これが、本当のスマート林業だよ。今の日本の林業は、大間のクロマグロを全部ツナ缶にしているようなもの……いやキャットフードにしているようなものだろう。
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