カイワレの作り方・「やりがい搾取」の農業論
新潮新書の『「やりがい搾取」の農業論』(野口憲一著)を読む。
本書は、著者の前著『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』の続編だ。「レンコン」本の第1章が、「やり甲斐搾取が農業を潰す」だから前著の1章を拡大したと言えるかもしれない。でも、このタイトルでなんとなく内容がわかったような気になってしまう(^^;)。
目次を紹介。もっと詳しいものは新潮社のサイトへ飛んでくれ。
で、私が目を見張ったのは、3章だ。植物工場のカイワレ生産を紹介しているのだが、これが感動的なのだ。なんとなくイメージにあるような無人の工場で大量生産……という世界ではない。担当者のあくなき努力が見事なカイワレを生み出しているのである。
実際、写真を見てもらったらわかるが、伸びたカイワレ(ダイコンの芽)の長さがほとんど揃っている。これはボタン押せばできる代物ではなかった。徹底的な観察ときめの細かな対応があってこその品質維持なのであった。(取材しているのは三和農林。)
そして農業の本質は「変化への対応」であり、育つ環境へどのように対応するか……決してLEDの人口光だけで育つわけではなく、自然光が大切という。種子一つ一つの性質も違う。だからカイワレと「会話」できる感性が必要なのだ。いかに美しい野菜をつくるかという気持ちがないと駄目だという。そして失敗する植物工場とは、そんな感性によるソフトがない工場だそうである。
その姿勢を褒め称えているかと思いきや、この章の最後の1行で「このような農家と消費者が共有する価値観こそが、実は農家にやりがい搾取をしてしまう原因なのです。」と結ばれる。
その後は一気にマーケティング哲学的?な章に移る。そこでは消費者は味なんかよりブランドを買っていることを示す。だからレンコンが5000円(その後1万円とか、5万円のレンコンづくりもしているそうだ。)で飛ぶように売れるのだ。
著者は農家でありつつ、民俗学者だとあるが、むしろ社会学者、哲学者かもしれない。その理論は読む価値が大いにあるよ。
林業、木材もまったく同じ構造に陥っている。私が木材の価値は情報だ、見た目が9割(以上)だと言い続けているのにピタリと符合する。
改めて、農林業のあり方を考えるのにぴったりだろう。
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「やりがい搾取」の農業論」さっそく読んでみました。
カイワレ大根のスプラウトの話面白いですね。
さて、長さをそろえるには、やや温度を低めに栽培しておいて、最後に少し温度を上げるとか、光の量をやはり、最後に少し弱くするとかなどと、技術的なことをあれこれ考えました。まあ、いろいろあると思います。
植物工場で、太陽光を取り入れるということは、かなり以前から、そこが植物を育てるには肝心なことと思っていました。まあそれが、「工場」になるかは別として。
それよりも、「豊作貧乏」については、今まであまり考えなかったことなので、あらためて考えなおしたいことの重要な課題と気が付かされました。
農家として最近思うことは、マスコミがいいことを取り上げてくれて、農業がかっこいいというイメージが最近出来つつあるように感じます。企業が農業を始めた例も見てきていますし、その人たちと話をしたこともありますけど、肝心の「植物生理」についての知識が無いというのが、おいらの感想です。
スマート農業の欠点も、そこにあるとみています。
本の中で、ミカンの選定の話が出てきますけど、その技術をプログラミングに書けるかどうか。そのようなことがカギのような気がします。
剪定の事が出てきますけど、おいらは選定はやったことはありません。ですけど、ミカンの話を読んでおそらくは、木の持つ糖度をどうするかの技術かと思います。葉が強い光を浴びて成長すると空気中の二酸化炭素を固定する能力が高くなります。そうするにはどういう風に選定をしたらいいのかを経験で分かっていらっしゃるのでしょう。もちろん、二酸化炭素の固定だけではなく糖度の分散など他にもいろいろなことがあると思います。
おいら自身まだプログラミングはつまずいてばかりで少しも前に進めない状況なのでえらそうなことは言えませんけど・・・挫折するかも・・・(笑)
投稿: 雑草 | 2022/02/10 14:23
早いですね。昨日の今日ですよ。。。
鉄腕DASHの功罪はいろいろありますね。まあ、農業とか手づくりの良さを伝えたことは功です。経営感覚抜きのところは罪でしょうか。
企業でものすごく有能で、デカい仕事をしてきた人が農業に手を出すと、なぜか急に「やりがい」だけで突っ走って自滅するケースもあります。
高い技術を磨いて、それに見合う報酬を受け取ってください。
投稿: 田中淳夫 | 2022/02/10 16:13