日本では過熱しない「カーボンクレジット」
今、世界中でカーボンクレジットが“過熱”しているそうだ。ようするに二酸化炭素の吸収源として森林が注目され、排出枠を取引する動きが進んでいるわけである。環境貢献は、今や企業の一大戦略となりつつある。だから森林取得を含む森林への投資が盛んになってきた。
たとえば、アメリカのJPモルガン・アセット・マネジメントは21年、運用額53億ドル(約6100億円)に上る森林投資専門の米キャンベル・グローバルを買収した。世界に約69万ヘクタールの森林を管理する同社を買収し、ESG(環境・社会・企業統治)投資を進める。
温暖化ガスの排出と森林などによる吸収との差し引きでマイナスまで落とす「カーボンネガティブ」の実現に向け、業種の垣根を越えた様々な大企業が希少資産としての「森林」に触手を伸ばす。
(日経新聞 森林崩壊 第1回荒ぶる放置林)
この記事は、3回連載だそうで、主に国内の林業を扱う予定のようだが、ここで海外の動きに触れている。まあ、ちょっと国内林業の描き方には気に食わないところもあるが(笑)。
ともあれ、世界中では森林に投資が集まっているのである。
そして日本の住友林業も、国内外の森林運営に投資するファンドを設立する。ファンドを通じて取得した自然林や人工林を保護・運用して、出資分に応じてカーボンクレジットを配分する仕組みを構築するために動き出した。事業で大量の二酸化炭素を排出する航空会社や海運大手などの出資を見込む。
住友林業は、国内に森林4.8万ヘクタールを保有するが、実はインドネシアやパプアニューギニア、ニュージーランドなどに計23.1万ヘクタールの森林を管理・保有している。それを30年までには50万ヘクタールまで引き上げる計画だという。新たに取得する森林の資産規模は1000億円程度で、欧米の航空会社やエネルギー企業の出資と購入が見込まれている。
自然林として保護するためには、違法伐採や農園への転用をさせないで、その面積や樹種などに応じて二酸化炭素吸収量と炭素固定量を正確に測定しなけれはならない。そこで認証機関と提携するほか、IHIと人工衛星からの画像や気象情報、地上の観測機器のデータなどを基に森林を管理するシステム構築をして、本当に排出量削減の実効性があるクレジットするという。
……という状態なのだが、住林という日本の会社ながら、ほとんど日本国内の森林が話題にならない。国内に持っている山でカーボンクレジットは進んでいない。
なぜだろうね。ここで私の推測を書くのは面倒だから止めるが、ようするに日本は国土の7割を森林だと自慢しつつ、使い物にならないわけだ。前述の日経の記事にも、こんな一節がある。
国際的な基準に従うと、手入れがなされ一定の日照などを確保できる森林でなければ、実は「二酸化炭素(CO2)吸収源」としても認められないのだ。「すでに国内の人工林約1000万ヘクタールのうち、2割程度は吸収源に算入できない」。
伐採後の造林が計画的に進んでいない「造林未済地」は17年度に約1万1400ヘクタールとなり、3年前から3割増えた。
それにしても、この記事の中のグラフは面白い。こんなに騒ぎながら、実際の森林の吸収量は落ちているんだから。林野庁は、これを高樹齢化した森林のせいにしたがるが、そりゃないだろう。たかだか60年程度で高樹齢も糞もない。
ようするに木を伐りすぎた。二酸化炭素を吸収してくれる木を減らしたのだから吸収源も減ったということ。この10年、日本の森林は二酸化炭素を吸収させない方向に進んできた。いわゆる「卵を産むニワトリを殺しすぎた」状態。カーボンクレジットが成り立たないはずである。森林に投資しようというファンドが現れないはずである。
この点を整理して、ちゃんとクレジットとして成立する面積(1万ヘクタール単位ぐらい?)を100年以上保全し続ける契約をしたら、投資家も動くのではないか。
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