疎植という選択
林野庁には「森林環境保全直接支援事業」というのがあって、再造林の省力化・低コスト化を支援するそうだが、2022年度の予算案で、これを拡充するという。補助率に掛ける査定係数を引き上げ、通常より4%程度増えるらしい。脱炭素だ森林吸収分だと言っている割には、再造林遅れているからねえ。いや、遅れているというより、「大多数が再造林していない」というべきか。
私はこんな補助金に関することはわからんし興味もないのだが、ふと引っかかった点。省力化や低コスト化は、これまでコンテナ苗の使用だとか、伐採と同時に機械で地拵えだとか言っていたが、いよいよ植林本数を減らす、つまり疎植が入ってきたという点だ。そりゃ、植える本数が減れば苗代も浮くし、労力も減る。
ただ、この拡充の条件に「1ヘクタール当たり植栽本数を同2000本以下に減らし、下刈りの回数も植林から10年間で3回以内に抑える」とあるのである。
もともと植栽本数は、以前は1ヘクタール3000本以上としていて、これは、かなりの密植。吉野林業などは1万本も植えたから、少なめにしたのだろうか。それでも普通に育てる樹木としては密だろう。吉野は密植に適した技術を確立したからできたこと。が、全国一律にしたから技術が伴わない林業地は困ったことになった。それで今は2000本くらいまで補助用件を下げたのだっけ。
それを今回は、もっと引き下げるようだ。さらに下刈り回数も。それだけ造林・下刈りは機械化がほとんどされずに人手に頼っているし、労働力も減っているからか。で、こんな研究結果を出していた。
植栽本数が減ったらコストが下がるとか当たり前すぎるんだけど(^^;)、さらに下刈りが減って草が生えても成長には影響しにくいと記している。草が杉苗の梢まで覆われなければいいという。(もっとも私は、梢まで草に覆われても、大半が枯れずにゆっくり成長し、いつしか草の背丈を抜くから下刈りなんていらないんだ、という研究も読んでいる。また多少は枯れても、ヘクタールあたり1000本以上は残るから主伐分は十分育つという意見もある。)
これって、ようするに目的が違う。密植の場合は、間伐材が収入になるほか、密に植えて育つのを遅くしたら年輪が密になり、木目が美しく強度も増す……など木質のコントロールにつながった。それは売れる際の金額にも関わる。ようするに収穫する木の目標があったのだ。下刈りをする理由も同じく。昔の林業家なら言わずもがなだろう。
ちなみに植栽本数を減らしたら、炭素蓄積量が減る、森林吸収分が少なくなるという意見には、植える本数が少ないと切り捨てる間伐材も少なくなって、間伐材が腐って排出する二酸化炭素が減るからいいんだそうだ。最終的な森林の姿とCO2吸収量は大きく変わらない……。
それなら、間伐そのものが脱炭素に必要ないじゃないか(^^;)。間伐の手間とコストをかけてやらないでよいことになる。
ほかにも、植栽本数-下刈り・間伐回数-吸収分……コストと省力……と考え出すと、いろいろ疑問が出てくるなあ。
ちなみに再造林の面積は、現状の年間約3万ヘクタールから30年度に7万ヘクタールまで拡大する方針とか。8、9年かけて7万ヘクタール程度か。少々寂しくなる。これでは皆伐地を全部再造林する数字ではないだろう。
いっそ皆伐しなければ、植栽も必要なくなって、コストも人手もいらなくて、森林蓄積は増えて森林吸収量は増えるのではないかな。COPで決めた脱炭素の基準には入らないけど。
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