特用林産物を忘れない
先日のブログで林業産出額について書いたが、ふと、そこで触れたのは木材ばかりであることに気づいた。
木材以外、特用林産物と呼ぶものもある。これは何で、いかほどか。だいたい想像するのは、キノコだろう。分類を見ていると、薪炭も入っていたが、さて算出額は……。
2020年のきのこ類の林業産出額は、2259.6億円(対前年比4.3%増加)だという。生産量では46万2277トンで、前年に比べ6588トン(1.4%)増加している。さらにタケノコの生産量は2万6449トン、前年に比べ416.4トン(18.7%)増加。
2020年の薪炭の産出額は、59.6億円(対前年比2.6%増加)。木炭の生産量は1万2925トンで、前年に比べ1468トン(10.2%)減少。
まあ、そんなものか……と思ってグラフを見て気づいた。木材に匹敵するほどの産出額なのだ。言い換えると林業産出額という中で、木材は約半分にすぎない。キノコもほとんどが室内で栽培されたものだから、林業というより農業に近いと思うのだが、それが半分を占めるということ何を意味するか。
そもそも林業補助金のほとんどは木材生産のために出されているだろう。キノコ栽培にも多少はあるだろうが、そんな莫大なものではない。せいぜい初期の施設投資の補助ぐらいではないか。何から何まで、コストの7割がた補助金で賄っている木材生産とは違う。つまり木材産出額に対しての補助額は、大雑把にこれまでの推定の2倍近いと思っていいのではないか。
ただ、私が興味を持った特用林産物は、実はキノコではない。「その他」だ。キノコ以外には何があるのか。
ここで登場するのが、ロジンとテレピン油、であった。どちらも松脂から採取するものだと思うが、何に使うのだろうか。そして(植物性)蝋がある。
ロジンは、野球などで使う滑り止めのイメージがあるが、ほかに体操やバレエシューズの滑り止め、ヴァイオリンなど弦楽器への使用がある。だが、ここで使い道として多いのは、製紙用の滲み防止剤(サイズ剤)だろう。加えて油ワニス、ラッカー、塗料、顔料の表面コーティング、そしてチューインガムベースにもなるそうだ。
テレビン油は、油絵具の薄め液・画用液としてのイメージが強いかな。実際は塗料やワニスなどの溶剤のほか、医薬品の成分など科学薬品の原料らしい。
蝋は、いわゆるロウソク用はほとんどない。和ロウソク以外は石油系。ハゼなどの実から取る植物性の蝋は、ワックスやクレヨン、CD、コピー機のトナー、整髪料、口紅にグミ……なるほど、こんなところに使われるのか。
渋い生産物だ。しかも輸出している。
特用の輸出額は、なんとキノコより「その他」がずっと多い。キノコは国内消費用がほとんどなのか。乾燥シイタケ以外は輸出しづらいからかも。むしろ輸入超過だ。キノコ以外の特用林産物の1月末迄の輸出額は1億6800万円で、対前年同期比73%と伸びている。これも林産物輸出の数字を結構左右しているのではないか。
特用林産物。これは曲者だ。一般に意識する「木材生産の」林業の姿を見誤らせる元ではないだろうか。
« 奈良公園のコロナ対策の衝立 | トップページ | 輸入禁止になる「一部の」木材 »
「森林活用(茶・蜂蜜・山菜…樹木葬)」カテゴリの記事
- たたら製鉄の木炭(2023.12.02)
- 樹木葬じゃない“循環葬”(2023.07.05)
- 自家製お茶づくり(2023.04.19)
- 月ヶ瀬のひげ茶の味(2023.02.20)
- 農林・林畜連携はできないのか(2023.01.19)
キノコはマツタケとポルチーニとかの高級食材の輸入が貿易赤字に影響しているのではないでしょうか。
失敗したけど漆の大量生産に目をつけた上杉家はある程度先見性がありましたね。
投稿: 岡本哲 | 2022/04/12 10:11
たしかに乾燥椎茸より高そうだ(^^;)。
円安だから輸出しやすくなったかも。木材売るより儲かるんじゃないか。
投稿: 田中淳夫 | 2022/04/13 00:07
ハゼの実が特用林産物とは、言われて初めて気づきました。水俣では細川藩から引き継いだ細川製蝋会社(名前は不正確)がハゼの木を持っていて、農地解放の対象かどうか裁判になって、昭和40年に解放対象となりました。おかげで農業基本法(昭和36年)にのらず、日本一のハゼの実産地になりました。
投稿: 沢畑 | 2022/04/13 10:12
最近は、特用林産物を発展させる方が林業として成り立つんじゃないかと思い始めました。
はぜの蝋も面白いですよ。水俣にそんな会社があるんなら、何かできるんじゃないか。ただし、その蝋が、高く売れる用途を新たに探さないと。伝統産業で終わってしまうかなあ。
投稿: 田中淳夫 | 2022/04/14 00:03