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森と林業と動物の本

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2022/06/02

下川町の法正林は循環型森林経営か

北海道の下川町が法正林を作り上げた、そうだ。

具体的には循環型森林経営を掲げて国有林の買い取りを続け、町有林は昨年度3000ヘクタールとなった。トドマツを60年伐期で施業していく計画から、年間50ヘクタールの伐採と植林を行うことで可能となった……そうである。

毎年森林面積を伐期で割った面積を同じように伐り植えていくことで循環する、という考え方は法正林そのものだ。

法正林は、18世紀ぐらいに今のドイツで唱えられたのではなかったか。初めて科学的な数値で計算された林業経営であり、長く世界中で支持されてきた。たしかに理屈はわかりやすい。伐った分だけ植えるわけだし、伐期の年数で割った面積なら、ちょうど一周したときに最初の伐採地に元と同じ木が育っていることになる。下川町のケースなら、60年かけて一周して60年生のトドマツを育てるわけだ。

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下川町の人工林。冬に行ったんだったなあ。。。

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日本は、今もこの法正林思想を守り続けているという点では世界的に珍しいのかもしれない。林野庁の好きなこの図も、基本的な考え方は法正林に寄っているのだろう。私はこの図を見て、森とは言えない時期が「循環の輪」の3分の1ぐらい占めているのに、森林の持続性を主張できるの?とよく問いかけているのだが。60年生人工林のうち20年間は、裸地、草地、灌木、低木林……の時代だ。その間は生態系も違っている。日照も土壌水分も変わり、同じ動物は住めないだろう。つまり森林は持続していないわけだ。

結局、法正林はなかなか上手くいかないことが指摘されるようになった。そもそも林地が違えば地形や地質も違うので木々の成長の仕方も違うし、地形によって伐採の手間も変わる。当然ながら毎年材価は変動する。つまり同じ面積を伐っても得られる木材量は変動する上に材価によって利益も上下する。そして風水害もあって、ちゃんと計算どおりに育たない。経営としては極めて不安定になる。雇用も困る。何より林家の都合もあって同じ面積だけしか伐らないとは限らない。

ただ下川町の場合は町有林だ。毎年度の収益に左右されず、決められた面積だけを伐る、必ず植えると役所ならではの硬直した(笑)考え方で続ければ、なんとか60年で一周するかもしれない。ときに十分に育っていない木を伐ったり、安値でも気にしないとか、逆に高値だから多く伐ろうという誘惑にかられないで行うという条件だ。もちろん植林しても育たないところは幾度も植え直しが必要で、それがサイクルを狂わせるかもしれないが。

施業も考えてみた。まず毎年50ヘクタール伐採と言っても連続した林地ではなく、たとえば1ヘクタール皆伐を50か所に分けて行う、その中には地形や育ち方のバラエティも混ぜる、といった工夫も可能だろう。伐採量を上下何割か材価をにらみながらブレも認める。利益の決算は5年10年単位で行えば、単年度の黒字赤字をカバーできるかもしれない。もちろん売り先も使い道も常に多様性を持たせる。高く買ってくれるから全部同じところに……といった商売をしてはリスクが増大するからだ。使い道も、製材・合板・木工・製紙・燃料・アロマ、そして割箸とかバラエティを維持する。

必要なのは、このための細かなマニュアル……ではなくて、人材だろう。北森カレッジは養成できるかな?

法正林という長期的思考にフリースタイルな出たとこ勝負的な短期的手法をいかに組み合わせるか。このように考えれば、時代遅れの法正林も、今風なビジネスモデルに変身するよ。

 

 

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