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森と林業の本

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2022/08/04

熱帯雨林で読んだ松本清張

8月4日は、松本清張の命日だそうだ。それも没後30周年。そういや、最近いくつかのテレビで松本清張もしくはその作品が取り上げられていた。

私は、さほどミステリーは読まないが、松本清張には思い出がある。作品というより読んだ場所に。

それはボルネオの熱帯雨林の中だった。生まれて初めての海外がマレーシア連邦サバ州、つまりボルネオ島なのだが、テーマは野生のオランウータンの観察。当時、野生のオランウータンはほとんど研究はおろか観察例もなかった。とにかく見つけて、その行動を可能な限り追いかけて観察するだけで論文がかける(^^;)と言われたので、学生でも取り組みがいがあったのだ。それ探検部の遠征として行うことにしたわけだ。

実際に現地を訪れるまでのドタバタは省略するが、とにかくサバ州の東部に突き出したデン半島の南海岸に流れる川スンガイ・メラが目的地だった。スンガイは川、メラは赤だから「赤い川」という地名だと思えばよい。当時はデン半島にはまだ原生林が残っていて野生のオランウータンがいると思われたから。

ところが、現地の森林局と交渉の結果、スンガイ・シバハットに向かうことになった。スイガイ・メラの隣の川だ。そして、この川を遡るとティンバーキャンプがあり、そこに泊めてもらいながら周辺のジャングルで調査する計画である。

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まあ、その途中のすったもんだも飛ばすとして、なんとかキャンプにお邪魔して泊めてもらうことに決まったのだが、考えてみればティンバーキャンプ、つまり伐採基地があるのだから、周辺の森はすでに伐られているのである。今考えると、この時点でどこか間違えていたのかもしれないが、現実にはキャンプの周りは深いジャングルなのだから、そんなに気にしなかった。

そして、毎日土砂降り(スコール)の合間を森に出かけては歩くわけだが、泥だらけ汗だらけになって帰って来ては、マンディをする。水をかぶって、与えられた鉄のベッドにゴロ寝する生活。今考えても安楽で楽しかった。ただヒマでもある。

そんなときに見つけたのが、キャンプに置いてあった本。それも日本語の文庫本。そうか、このキャンプにはかつて日本人が滞在していたのか。それも伐採した木の買いつけなんだろう。それをむさぼり読んだ。

その本が松本清張だったのである。書名も忘れたが、短編集だった。そのうちの一つは、ある男が殴り殺されて、犯人はある女が怪しいのだが証拠がない。凶器もない。幾度も女のところに訪ねるが、正月が過ぎて雑煮の餅が出された。それを食べさせてもらう。……そして気づくのだ。硬く乾燥した餅こそが凶器だと。だが、その証拠を私は食べてしまったのだ……。

今、調べたら「凶器」という短編で、「黒い手帳」に所蔵らしい。熱い熱帯で読んだ、雪の降る土地の餅の話。なんとも印象深く覚えている。逮捕されることもなく終わったという点も(当時は)斬新だったように感じた。

その後、長編も含めて清張はいろいろ読んだはずだし、またドラマなども見たが、この短編がもっとも印象深いのである。

 

 

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