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森と林業と田舎の本

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2022/08/12

森林哲学の基礎編『森の経済学』

『森の経済学』(三俣学・齋藤暖生・著 日本評論社)を読んだ。副題が「森が森らしく、人が人らしくある経済」である。

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森の経済学と聞けば、森林経理学、林業経済学などの既成の学問分野もあるが、それらとは一線を画している。「はじめに」にあるように「『森の経済学』という題名の本書に、森の木々をいかにして売れるようにできるか、ということがほとんど書かれていない」のだ。それを期待して林業家が買うと、痛い目にあう(笑)。

むしろ森林哲学か森林思想かのような内容。そして森林史。似たようなことを書いているのは内山節さんだろうか。私は、同様のテーマをもっと読みやすくするために苦労してきたのだが、こちらは原点回帰? (⌒ー⌒)。

目次を紹介しておこう。目次に登場する用語そのものが哲学用語と言い回しのようだが……。

はじめに

第Ⅰ部 人間の経済と森
第1章 人間にとっての森
 1 連続的な空間としての森
 2 森を見るまなざし
 3 資源としての森
 4 脅威としての森
 5 森の時間――資源の有限性と無限性
第2章 森とともに歩んできた生活世界と経済の発展
 1 生計を支えた森の資源
 2 共同体の経済と森
 3 複雑化する社会と森

第Ⅱ部 森の経済をとらえる学問のまなざし
第3章 自然環境に対する経済学のまなざし
 1 経済学とは
 2 標準的な経済学におけるいくつかの前提
 3 主流派経済学における変化の兆し
第4章 森林をめぐる学問の歩み――森林学のまなざし
 1 林学の誕生と森林学
 2 森林をシンプルにとらえ、体系的に管理する技法
 3 森林を複雑な系としてとらえ、管理する技法

第Ⅲ部 日本の森がたどった近代
第5章 日本の林業・木材加工の技術史
 1 「林業」という言葉をめぐって
 2 樹木を育てる技術
 3 森林伐採と搬出の技術
 4 木材加工の技術
第6章 経済が変える森の姿
 1 姿を変える森
 2 人々の資源利用と森の姿
 3 近代化と森の変容(近代~戦後)
 4 人工林の拡大と利用の空洞化
第7章 農山村における近代――コモンズ解体と「高度利用」の神話
 1 コモンズとしての自然――「自然の公私共利」の原則
 2 日々の生活を支えてきた村の中の「共」――入会の森を利用する
 3 森の近代――入会消滅政策=高度利用の果てに残ったもの
 4 非商品化経済をとらえなおす――高度利用の神話が生んだ放置と無関心
第8章 森林エコロジーの劣化と遠ざかる森
 1 森林の「充実」を説明する理論
 2 過少利用の森林が抱える諸問題
 3 遠くなった森が生み出す世代を超えた問題

第Ⅳ部 ゆたかな森林社会へ
第9章 エコロジカルな経済へのパラダイムシフト
 1 近現代の経済の発展と矛盾
 2 エコロジーをゆたかにする経済は可能か
 3 共的部門の再評価――一九九〇年代の二つのコモンズ論
 4 パラダイムシフトに向けた運動
 5 新たな公・共・私と基盤としての自然アクセス
第10章 パラダイムシフトにおける「公」「私」の役割
 1 社会と自然の結び直し
 2 森をめぐる制度の変容
 3 変容する生産と消費のかたち
第11章 共創するコモンズ――森林をめぐる協治の胎動
 1 伝統的コモンズにおける協働の試み
 2 都市と山村をつなぐ――森林ボランティアの広がり
 3 海・川・森をつなぐ漁民の森運動――「森は海の恋人」
 4 森林の教育利用――学校林という森
 5 非商品化経済の営みが創る新しいコモンズ――環境の本源的な価値を求めて
第12章 エコロジカルな経済を支える自然アクセス――みんなの自然を取り戻す
 1 入浜権運動で問われた「自然はだれのものか?」
 2 英国のコモンズをめぐる歴史
 3 北欧・中央諸国に広がる自然アクセスの世界
 4 多の世界を創る自然アクセス制から学ぶこと
 5 非商品化経済をゆたかにする――森林社会の基盤をなす森の経済学へ

おわりに

やたら項目が多いが、その分、細かく刻んでいるから単元ごとにコツコツ読める。ある意味、森林に人間が浸食していった事情と歴史でもある。その一部には林業も含まれるというわけだ。

木の売るのには役立たないとあるが、逆に言えば、書いているのは森にちょっかい出し続けた人間側の論理である。私は、ここに書かれてある程度のことは林業に関わるなら押さえておくべき、と思った。林業として森に人が関わる際の考え方の基礎だろうから。これらを知った上で、現代を見つめるべきではないか。それがないから目先の利益に走って、山を破壊してから嘆くか、壊した後に興味を失う繰り返しになってしまう。
森にも人にも歴史があるのだから、森と人の関係にも時間感覚が必要だ。まさに森と人のシステムを経済学として描ける。

ちなみに歴史的な流れは概ね納得するのだが、部分的には異論もある。とくに最後に無理やり希望を見つけようとしていないか。
たとえば自伐型林業や森林ボランティアなどをとりあげたのは苦笑してしまった。「小さな林業」とか「保全型の施業」の定義も定まらず、個人の資質に左右される怪しいものを持ち出されたらがっかりする。しょせんは補助金ありきだ。単に時代の現象として取り上げるのならわかるが、希望を達成するための具体策かのように紹介してはマズいだろう。

本気で森の現状を見つめたら、もっと真摯に絶望するべきではないか。

なお大学などでも使えるように、入門書として12回分の講義ができるような章立てにして、章の最後には「読者への問い」まで用意されている。たしかに大学で使ってくれたら売れ行きに貢献し部数が稼げるかもしれない。私も真似しようかな(⌒ー⌒)。

 

 

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