「監訳」というお仕事
いよいよ『フィンランド 虚像の森』が刊行された。
言うまでもないが、本書の著者はフィンランド人4人。アンッシ・ヨキランタ、ペッカ・ユンッティ、アンナ・ルオホネン、イェンニ・ライナ で、翻訳は上山美保子さん。私は監訳である。
監訳って? まあ、その、一言でいうとだね。日本語を日本語に訳す仕事(^^;)\(-_-メ;)。
世界各国の言葉に通じている私だが、フィンランド語だけは堪能ではないので監訳となった(^^;)。ウソ
本当のところ、本書の出版が決まったときに、私に「解説」を書けという依頼があったことで始まった。そこに用語チェックも加わったのだが、下訳段階で目を通すと、とても用語だけを確認すれば済む次元ではないことがわかり、不肖ワタクシが、全面的に内容を見ることになったのである。
なぜなら上山氏はフィンランドに住んだこともあれば仕事でもフィンランドと関わっており、フィンランド語には堪能なのであろうが、いかんせん森林科学や林業関係の事情にまったく触れていない。いきおい直訳になるのだが、それが(林業的に)何を意味するのか探らねばならない。
たとえば、よく出てきたものに「持続的成長管理型森林伐採」なんて言葉がある。これ、何? 森林伐採は林業と訳せばよいのかと思うが、その前の持続的成長とは、管理とは。そもそも、どんな作業をしている状態で、この言葉を使っているのか。結局、前後の文脈を探り、数ページ遡ったり、同じ言葉が出てくる別の部分と突き合わせたりを繰り返す。
そして、どうやらドイツなどの林業を真似ようとする動きだと想像できた。では、近自然林業か。恒続林施業か。今のドイツ林業の事情を捉えるのなら近自然林業でもよいのだが、果たしてそれで日本人に通じるか。なじみのあるのは恒続林の方ではないか。Google検索をしても、近自然より恒続林の方が圧倒的に多い。両者は厳密には違うが重なり合っている部分も多いし、「恒続林」にしよう! ただし、恒続林そのものを知らない人も多いだろうから、それなりに恒続林の説明も挿入する。
悩みに悩んで、こうやって一つのピースを埋めるのである。1ページを読むのに何時間かかるか。
どうしても意味がわからない場合、原文を見てみたが、フィンランド語だからわかるわけない。試みにGoogle翻訳してみるが、余計にわからない。いっそ超訳したくなる。意訳を超えた翻訳である。フィンランド人の言語感覚というか、頭の中の文法を探る面もある。
しかし、翻訳とは大変な作業だな、と思い知る。単に日本語に置き換えるだけではすまない。日本人に通じるような言葉に置き換える、のである。かといって著者の文章は尊重しなければならない。それ、間違っているよ、と私の知識で気がついても、勝手に直してもよいのかどうか。
モグラが植林した苗の根を食い荒らす、とあるが、モグラは動物食であり植物はかじらないはず。そこで問い合わせてもらうと、原文はたしかにモグラになっているようなのだが、根を荒らす正体はヤチネズミであることがわかる。モグラの掘った穴にネズミが入って根をかじるのである。これは日本でも起きることだ。日本の農家にも、「モグラが作物の根をかじる」と発言している人がいるのを私は聞いている。ここまで追求して、ようやくヤチネズミに直せる。
そんな繰り返しだ。こんな分厚い本を、おそらく全文を5~6回読み返しただろう。もう自分で執筆した本より多いヾ(- -;)。
ともあれ勉強になった。次は何語の本を訳そうか。。。オイ
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お疲れ様です。私も仕事柄、たまに通訳をすることがありますが、毎回二度とやりたくないと思います。原則、間違っているものを間違っているなりに相手に伝えなければならないのって、いつもなるべく正しい事実を伝えようとしている立場からすると、すごくストレスかかりますよね。
投稿: dan | 2022/08/24 11:23
私は、通訳者を尊敬しますよ。なんたって瞬時に翻訳するようなものだから(笑)。同時通訳を記録したら、簡単に本の翻訳ができないかと思ってしまう。
しかし、たしかにストレスが半端ないです。
投稿: 田中淳夫 | 2022/08/24 21:44