「興福寺の木材の研究」のレベル
またまた小姑のよう、いじわるじいさんのように論評するが……。
先日の朝日新聞奈良県版に次のような記事が載った。ネットでも読めるから、紙面を丸ごと公開。
京都大学大学院で興福寺の木造建築物を研究している、とあるから期待して読んだのだよ。私の知らない一面が描かれるのか……と。
が、中金堂を建てるのに、柱36本分のアフリカケヤキを使ったことに対して何の問題意識も感じていないのだ。それどころか「創建当初と同規模の木材」「重厚感のある」「耐久性や風格への配慮と意志」? そして「興福寺中金堂のDNA」だと? そのDNAとは、自寺院のためなら海外の原生林を破壊してもよいという遺伝子か。
必要な木材を供給できなかったことから国内の森林(森林資源の枯渇や保全)の状況がわかるとしながらも、その目はアフリカには向かなかったらしい。主にカメルーンの木材市場で購入したとされるが、おそらく近隣のアフリカ諸国から集まった大木だろう。当時のカメルーンを始めとする国々の政情は不安定で、とても合法とは確認できる状況ではなかったはずだ。それどころか違法伐採の温床だった。現在、アフリカケヤキは輸出禁止になっていることからも読み取れる。デューデリジェンスを行わないグレー木材を、合法だと輸入することへの疑問は持たなかったのか。アフリカの森林資源、原生自然を破壊することへの思いが記事からは読み取れない。
記事の中段には、ネパールの建築の背景にある自然を感じた話を持ち出しながら、アフリカの背景の自然は考えなかったらしい。ついでにいうと、使った木材はカナダのヒノキもある。カナダの森もどうなっているか調べたのだろうか。(昨日のエントリー参考)
森林破壊、とくに違法伐採を止めねばならないことは、すでに国際的合意である。サミットでも度々話し合われた課題なのだ。欧米では、こんな木は絶対に使えない。日本は、真っ当な違法伐採取締法制もなく、逆に世界中から違法木材を集めるほどになっている。そのことを知らなかったというのでは、研究としても記事としても失格。
そもそも日本の文化を引き継ぎたいというのなら、海外の木を使うことへの疑問を持たなかったのか。原木を見たらわかるが、赤茶けた木肌や木の臭いは国産材とはまったく違う。(逆に言えば、日本の文化への意識って、環境への観点がすぽっと抜け落ちているのか。)
これは研究者だけでなく、記者の問題でもある。想像力の欠如だ。それとも研究では触れているが、記事からは省いたのか。それならば、この記事はより失格だ。
もちっと頭を働かせて、木材を巡る世界的な潮流と、日本の建築史まで目配せしろや。
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違法伐採の視点は本当に必要ですね。そこまで検証するのが研究者なのに、なにを脳天気な調べ学習をやってるんだか。
投稿: くまとも | 2022/10/28 08:31
お寺とか木材業者とかだけに話を聞けば、こうなるかと思います。
投稿: 田中淳夫 | 2022/10/28 20:52