またまたメールでの「質問」が来た。今回は大学生。
なんでも、大学生チーム対抗のビジネスコンテストがあって、そこの命題が「山で働く人を2倍にする」ビジネスの提案だそう。そこでメール主のチームは「木を食べる」というアイデアを出した。それに対して、どう思います?アドバイスを、というものだった。
果たしてコンテストの参戦者に私が口を出すことがよいのかどうかわからないが、とりあえず私の思うところを記した。どんな返事かはお預け(^^;)にしておくが、ここで根本的な疑問が。
なぜ「木を食べる」商品開発が、山で働く人を増やすのか。いや、増やすと思うのか。
それに関しては、何の疑問も持っていないようだが、私には両者がつながらない。おそらく「食べる」という新たな木の利用法を広めたら木材の需要が増える。木材の需要が増えたら山で働く人も増えるだろう……という連想なんだろうが、ちと、おかしくない?

これは、今回のケースだけではない。木材需要を増やすことが林業振興、地域活性化に役立つという発想は林業界の上から下まで行き渡っており、まさに林野庁がもっともオシている政策である。とにかく木材を使おうよ、価格や使い道はどうでもいいから……。
木造ビルとかCLTとか、バイオマス発電だって、木材を燃やせば需要が増えるよ、というのが発想の原点だろう。あげくに需要はまだないのに、木材生産だけを増やしてしまっている。
アホかいな、と思う。
木材需要が増えたとして、今いる山で働く人は、若干忙しくなるかもしれないが、それで雇用を増やすだろうか。むしろ木材生産が先に増えたら木材価格は下がりかねないし、伐るのに適切な木がなければ無理に伐って森を荒らす。だいたいウッドショックで起きたのがこの需要拡大だった。その結果はどうなった? 働く人は増えたか?
そもそも木材製品価格が暴騰したときも、山で働く人の給与があがったのかどうか怪しい。私が聞いたところでは、誰も上がっていなかった。木材価格さえ上がっていなかった。上がったのは製材価格なのである。素材生産業者は生産量が増えた分、若干儲けたかもしれないが、雇用者にその分手当てを出したのか、木の本来の持ち主である山主にだって還元されたかのか疑問だ。あげく、現在は在庫の山で価格は落ちている。
結局、木材の生産量や消費量を増やすことが林業振興という発想そのものが勘違いなのだ。伐出を低コスト化したら手取りも増えただろう、という意見もあるが、その「低コスト化」は補助金で行っていることで、本来の利益を生み出したわけではない。
振興に必要なのは、生産量とか生産効率ではなく、利益総額や利益率だろう。純益が増え手取りも増えたら山で働く人にとって喜ばしい。給与が高いと知れば、オレも山で働きたいという人も増えるだろう。
仮に100本伐っても10本伐っても利益が一緒だったら、100本伐らないでいい。10本だけ伐って、資源を温存しつつ仕事も楽ができる方を選ぶだろう。それこそが「楽しい林業」となって、働く人も増える。地域も潤う。
利益の薄い仕事はしていても楽しくないはずだ。仕事を増やして忙しくすると傍目には活気が出て、林業振興とか地域活性化したと見えるのだろうが、それも勘違い。過労死するほど働いて赤字のケースはいくらでもある。当事者にとってはブラック職場だし、それは奴隷労働と一緒だ。危険な目にあって、パワハラ、セクハラ受けまくって死ぬだけだ。
こんな本もある。
忙しいだけで利益は増えない、薄利多売の林業なんて、低開発国の労働、いやアホの発想なのである。
経済学を振りかざすまでもない、こんな単純なことに気付かないようでは、業界の上から下、学生までビジネスレベルは低い。
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