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森と林業の本

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2023/01/21

『森林に何が起きているのか』を読む

森林に何が起きているのか 気候変動が招く崩壊の連鎖 』(吉川賢著 中公新書)を読む。

森林テーマの新書本は(私も含めて)時折出るのだが、これはタイトルどおり、現時点で何が起きているのかを追及している。サブにあるとおり、気候変動テーマだ。

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内容はワールドワイドで、北米やオーストラリアからシベリアタイガ、砂漠化、熱帯雨林、そして日本の里山……と世界と日本の森林を取り上げている。

目次

序章 多発する森林火災―失われ続ける森林
第1章 シベリアタイガの危機―温暖化の森林への影響
第2章 砂漠化と森林―森林の機能と人々の生活
第3章 脆弱な熱帯林―炭素隔離と森林利用
第4章 変貌する日本の森林―持続的な利用をめざして
第5章 これからの森林管理―林業が拓く森林の可能性

いやあ、全体としては知っているつもりだったのだが、ここで語られる事情は深い。単に火災で燃えて大変、というレベルから進んで、森林生態系は変化への耐性があるが、いったん崩れると元にもどりにくい脆弱さもあると指摘されると、一段と危機感が強まる。さらに呼吸消費に炭素循環と綿密な環境変化と植物の生理がひもとかれる。

たとえば温暖化が進むと、気温が上がれば植物にとっては成長に有利かと思いきや乾燥しやすくなって水分ストレスで枯れるものも現れる、日本のソメイヨシノは、当初は開花時期が早まるのだが、やがて早すぎて休眠打破が遅れて咲かなくなる……とか、予想以上の展開が訪れかねないのである。

そんなわけで感心しながら、さすが世界中で研究してきただけある(著者は岡山大学名誉教授)なあ、と思ってきたのだが。

最終章には引っかかった。林業を気候変動を救う可能性を展開しているのだが、その内容がバイオマス発電だったり、木材による炭素固定だったりすると……なんだ、と力が抜けた。それは林野庁も唱えている原理なのだが、現実の林業現場を見たらとてもその通りに展開しそうにない。いくら増えすぎた森林と雖も、燃料にしたとたんに禿山が広がるだろう。輸入燃料に頼るというのも、その時点で炭素収支は赤字になるし、海外の森林を破壊して日本だけが脱炭素を達成しても意味ない。

もちろん、輸入燃料の問題点や林業現場の非効率、ニーズに合わない商品……などにも触れているが、イマイチ現実と合わない。

バイオマス発電の燃料として使われる木材調達も、その手間とコストは莫大で、そのためのエネルギー消費などを勘定に入れると、もはや経済的に成り立たないうえ炭素収支は赤字だ。そもそも再生可能エネルギーという発想がFITの電力料金の高価格化によって成立した徒花である。FITの切れる20年後には確実に破綻するのだ。
太陽光や風力は、まだ20年過ぎても多少は続けられるが(ただし、設備の更新費用は出ないから、故障した時点でオシマイだろう)、バイオマス発電はランニングコストの7割は燃料費だからFITが終了したとたんに廃業になる。おそらく発電所は捨てられる。

また林業の在り方も、未だに法正林の発想では時代に遅れている。獣害対策にジビエというのも……。

どうも森林科学としての章は私を感心させてくれたのに、林業=経済・社会事情になったとたん絵空事になってしまったのだ。残念である。ちなみに林業の将来像としては、経営統合しつつ長期視点で管理すべきというのは、ソ連のコルホーズみたい、としつつも、なかなか含蓄のあるフレーズ(笑)。

ただし、文句は付けたものの、森林を語る際に気候変動の視点は、現代では欠かせない。その考察の一助になるだろう。

 

 

 

 

 

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