国語の教科書や入試に採用される文章
京都の某中学校から「令和5年度入学選抜交差問題に係る作品の使用について」という文書が届いた。ようするに入試問題に私の作品を使ったという報告。中学校の入試ということは、受験者は小学6年生なのかな。
使われたのは、『虚構の森』の中の「マツタケが採れないのは、森が荒れたから?」。
これ、1章全文を引用している。もちろん問題にするための穴抜けなどはしているが。幸い、問題は私にも解けそうだ(笑)。
この季節は、ほかにも拙文を問題集に使わせてほしいとか、入試に使いましたという連絡がどんどん届く。使用許可を求めている場合は、せっせと返信しなければならないので、なかなか大変。でも、問題に使えるということは、日本語として読めると認定されたことでもあるから、有り難いことである。
そう言えば、昨秋に某JK、いや女子高生(^^;)からメールがきた。日本の森林をよくするため、林業を立て直すために大学の森林科学科をめざしているので教えてほしいというのだ。
はて、受験には高校時代に教わった科目の知識から出るのであって林業のことが出ることはないのでは? それは入学してからではないのか?
どうやら推薦入試も受けるので、面接もある。すると、なぜ森林科学を勉強したいのか聞かれるだろうし、自分の森林観や林業に対する知識と思いを整理して持っておかねばならない……ということらしい。
そこで幾度かメール交換して、自分にとっての森林とか、森林と人の関わりとかの考え方を伝えあった。教えたのではないよ。考えるためのヒントというかきっかけを与えただけだ。解答は自分で考えてもらう。なんでも「自分の森林の知識は全部田中先生の本からです」とかいうのだが、そ、それはマズいのではないか(苦笑)。
幸い、その後、合格の報告が届いた。多少とも役に立ったのなら有り難いことである。
ところで思うのだ。小中高と長く続く国語の授業には、さまざまな文章が選ばれる。そこに問題集や入試問題(この問題が、次年度以降の問題集に収録されることも多い)にも、分野を問わず文章が引用される。文学作品もあれば、エッセイもあるだろうが、それに対峙する生徒たち、いや国語の教師も含めて、自分の興味だけで読む文章には絶対に含まれない分野も多いはずだ。それでも半強制的に読まされる。問題にされたら、イヤイヤでもその文章の意味や筆者の心境などを推察しなければならないので、深く読み取る必要もある。
これって、すごいことではないだろうか。マツタケはどんな条件で生えるのか、その増減が日本の森林の歴史に係わっているとか、そんな知識は、通常の生活の中では触れない人たちが、問題を通して読み、知るのだ。
そう考えると国語の教科書や問題って素晴らしいなあ、と思ってしまう。
ちなみに思い出がある。中学生のときに教科書?に夏目漱石の「夢十夜」が出て、その意味するところを教師がクラス全員に言わせた。そして正解(というべきか)したのは私一人だったのである。
自慢ではないが、当時の私の国語の偏差値は、70を超えていた(自慢してるか)。模試でも、全国でトップクラスだったこともある。というといかにも自慢たらしいが、実はオチがある。別の模試では30台だったのだ。この振り幅はなんなんだ。
国語の読み取りには相性があって、自分の感性と合えば、ビシッと著者の気持ちが伝わるが、外すと興味は明後日の方向に向かい、著者の思いなんてどうでもよくなる。だから、今でも自分の文章の本意を読み取れる人は偏差値70以上か39以下の人だけだと思っている。すべて理解してもらうのは、どんなに文章に技巧を凝らしても不可能である、と私は観念しているのだ。それでも、根幹を外さないようにしたいのだが。。。
改めて思うのは、必要なのは教養ではないか、ということだ。教養とは、目先の知識ではなく、さまざまな分野の優れたものに触れることで醸成されるものだ。好き嫌いとは離れて、古今の名作文学を読み、自然科学や社会科学、人文科学の各人の知恵に触れ、そして読書を通して行う喜怒哀楽につながる疑似体験。そうしたものを吸収して培うものだ。
仮に地頭はよくて、有名大学や司法試験、医師免許などを一発で合格できても、教養を高めておかねば人間としては薄っぺらだ。
その教養の最初の一歩こそが、小中高と続く国語の教科書であり問題集に登場する文章ではないのかな。
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