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森と林業の本

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2023/03/03

「木造ビルを建てるから、山は荒れる」

タイトルを書いて、これが一昔前なら「当たり前のことだ、いまさら」と言われただろうな、と思った。木を使うために木を伐る、木を伐るから山は荒れる、という一定の連想と論理があった。当時は割箸やかまぼこ板まで森林破壊と言われていたのだから。

が、今ではこのタイトルの意味がわからないどころか反発する人も多いのではないか。世を挙げて「木を使え」という運動が行われ、木を使うことで林業振興になり、炭素を街に溜めて都市の森をつくり、伐採跡地に次世代の木が育って「二酸化炭素吸収!」と謳われているから。その音頭をとっているのが林野庁に環境省である。

だが、はっきり言おう。木造ビルなんてものをせっせと建てようとすることで山は荒れ、はげ山が増えるのだ。山の現場を知らなさすぎる。

実は先日、奈良にある大和ハウスの施設・未来価値共創センター「コトクリエ」に行ってきた。平城京遺蹟の上に建つ巨大な研修センターだ。曲線を多用し内装には木がたっぷり使われ、豪華絢爛?木の匂いのするような施設である。ここで開かれたセミナー「森林・木材みらい価値共創研究会セミナー」(今回のテーマは「木造・木質のまちづくりに向けて」)を見学したのだが、その後に参加者を囲む会があり、私も参加させていただいた。

内容は面白かった。なかなか刺激的な話もあって、たとえばCLTに関しては〇〇××(オフレコ笑)と国の裏事情と建設側の本音を聞かせていただいた。

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ただ登壇した人の多くは大和ハウス関連の研究所などにいる人で、建築側の視点に立つ。

そこで私は思わす口を開いてしまった。それがタイトルである。「大和ハウスが家を建てるから、山が禿げてしまう」。

正確には大和ハウスは鉄骨ハウスが主体なので、木造建築の会社ではないのだが、国の煽りを受け入れて、低層木造ビルに入れていこうとしているらしい。やはり森林の科学的事情・林業の現場事情には疎いようだ。国産材をどんどん使えば、林業振興、脱炭素につながると信じている。(ついでに国産材が使われないのは価格が高いから、急斜面の山で林業やっているから、と毎度おなじみの思い込みがある。)

私も低層木造建築物を増やすこと自体は反対ではない。しかし、伐採された山で再造林されているのは3割しかないのだ。国産材を使えば使うほど、伐採すればするほど、山は禿げていく。全国の山で皆伐が進み、木がなくなって荒れていく。なぜ伐採跡地に植えないかと言えば、木材価格が安すぎるからだ。

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折しも本日の朝日新聞にこんな記事が。「純木造」ビルとは妙な言葉だが、ようは木材をたくさん使おうと無理しているビルが増えていることが取り上げられている。実はCLT工場も、今やフル稼働していると聞く。閑古鳥が鳴いていた時代をようやく乗り越えたか。

本当に山のこと、森のことを考えるなら、川下である建築側は、木を使う量を増やすのではなく、購入する木材の価格を上げろ、高く買い取れ、というのが私の提案であるが、それは受け入れられないようである(笑)。川下は、いくら川上に興味を持っても、川上の事情に疎く、川上の願いが利益相反する……自分たちに不利になることは取り入れないのだ。かくして両者の溝は埋まらない。

 

 

 

 

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木製品・木造建築」カテゴリの記事

コメント

朝日の記事の冒頭に「課題はコストだ」とはっきり書いてましたね。コスト下げろと謂うことは、木材価格をもっと下げろと言うことか⁉️
と思ったら、愕然としました。

そうでしょうね。CLTを製造する側は、自らの製造コスト・利益を削って値段を下げようとせず、仕入れる原木価格を下げさせようとしています。
こうなると再造林をしないどころか、伐採搬出そのものを渋るようになるのではないか。そこに補助金をつけて出させる。ようは税金でCLTを安くするわけですが、肝心の補助金は素材生産業者が受け取って、山主に渡されることは少ないようです。

宣伝ですがこんな事例があります


「持続的な国産材供給のモデルケースに」 身延町に工場を持つ企業が北杜市の組合と森林整備協定
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/357334

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