シカ生息数の増減を決めるのは何?
森林総合研究所の研究発表に、
ニホンジカの過去10万年の個体数増減を解明 —人間の捕獲による管理が増減を決める—
というものがあった。獣害の中心となっているシカの生息数の増減を調べたものである。それが過去10万年も遡っているのでびっくり。しかも方法はDNA解析だというのだ。なぜDNAから生息数がわかるのかという点については本文を読んでいただきたい。まあ論文そのものは英語なので、いよいよわからんのだが……(^^;)。
ともあれ結果、現在のシカの数は、過去10万年間で最⼤、あるいはそれに近い⽔準まで増加しているのだという。
北海道の有効集団サイズは、約2000〜3000年前と明治時代以降に⼤きく増加し、現在は過去最⼤の⽔準と⽐べるとやや少ないと推定されました(図)。⼀⽅、兵庫県の有効集団サイズは、約8万年前、約1500年前、及び明治時代以降に増加し、現在は過去最⼤の⽔準となっていると推定されました(図)。さらに、これらの増加したタイミングの多くは、⾷料としてのシカの利⽤が減少した時期や禁猟により捕獲数が減少した時期と⼤まかに対応する⼀⽅、気温や降⽔量が⼤きく変化した時期やオオカミが存在していた時期との関係は明確ではありませんでした。
推定されたシカの有効集団サイズ(上段は北海道、下段は兵庫県の結果。左列のグラフは過去400年までの推定値を示す。右列のグラフは400年前から10万年前までの推定値を対数表示で示している)。いずれも、左ほど現在に近くなる。
そして、
シカが過去に⼤きく増加したタイミングの多くは⼈間による捕獲圧が低下した時期と⼀致していた
気温や降⽔量の変動やニホンオオカミの絶滅とは関係が明確ではない
シカによる影響を許容範囲に収めるためには⼈間による継続的な捕獲が重要であることを歴史的な観点から⽰した(人間によるシカ管理が必要)
と結論づけている。
ええと、内容に異論をつけるほど私も詳しく考察したわけではないのだが、シカの増減が人間の捕獲圧で決まるというのは、ちと疑問。
銃や車を持たない時代、シカの捕獲圧が今より強かったようには思えないのだ。とくに江戸時代は肉食も広がっていなかった。いや、その後もシカ肉需要は大きくなったことはない。やはり食うならイノシシかブタ、ウシだろう。捕獲は、あくまで獣害対策であったはずだ。
私の感覚では、人が与えた影響は、捕獲以前の生態系破壊ではないかと思う。森林をなくしたり疎林にしてしまえば、シカの生息条件は悪くなる。見通しがよければ狩猟でも逃げ場がなくなる。直接の捕獲よりも、その方がシカの生息数に甚大な影響を与えると思うのだが。すると現在の森林は、10万年間でもっとも健全ということになってしまうか。
ちなみに私が奈良のシカのことを調べた際に、実は江戸~明治の春日山原始林はかなり傷んでいて、スカスカ状態であったらしい。だから、ナラシカも今ほど生息数は多くなかった。春日山は神の山でナラシカは神の使いだから狩猟なんかとてもできない(でも、薪炭をとったり焼き畑は行われていたらしい)から捕獲圧はなかったはずだ。
いっそのこと、森林をどんどん破壊するのが、シカを減らすのに有効ではないかなあ。
ちなみに シカ個体数を減らすにはメスの捕獲が効果的
こんな研究もあるよ。
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