こたつライターとデジタルハンター
このところネットの低質記事が目につく。ついクリックすると、まったく内容がない。おそらくテレビのワイドショーなどで芸能人やキャスターなどが口にした内容をつまみ食いしただけ。それに対する論評もなく、まったくそれだけの記事。
こうういうのを書いているのが、俗に言う「こたつライター」だ。こたつにもぐりこんで、テレビやネットサーフィンで見つけた話題を紹介するだけのライターである。取材をしない、考えない記事を低料金で大量生産する。
と、そこで思い出した。私も若いころ、取材をしないで記事をつくる方法を習った。まず朝、各新聞やテレビニュースなとをチェック。その中で複数の媒体で扱われたニュースの中から興味を引く・ウケるネタを選ぶ。複数の媒体にするは、丸ごとパクリとならないようにだ。
ここからが難しい。と同時に腕の見せ所。すでにニュースで流れているのだから、速報性も新奇性もない。それをいかにひねるか。切り口を変えて別記事にしたてるのだ。同じ情報でも、別の視点で書く。
たとえばマグロの養殖に成功、すると全身に脂が乗っていて……という記事を、「全身トロ、赤身のないマグロ!」なんてするとか。
前夜に同じような通り魔や殺人事件などがたまたま相次いだ場合は、それらに何の共通点もないのに、短く各事件をまとめて「魔の夜!」とタイトルを打つ。そして「……なぜ、昨晩だけでこんなに事件が相次いだのか」と締めたら意味ありげだ。すると別のニュアンスが生まれる。ベタ記事も、愛嬌のある目を引く記事に近づける。
まあ、姑息と言えば姑息(^^;)。が、新人が知恵を絞って記事づくりのノウハウを身につけるように鍛えられたのである。
もう少し進むと、複数の記事の中で食い違い部分、あるいはわからない部分を関係者のところへ電話して裏を探る。どこの誰に電話してコメントを取るかも裁量だ。ときに新事実が得られる場合もあるし、ほかの記事の間違いを正す記事が書ける。こたつから一歩出て、デスクワークライターぐらいにはなれる。
独自ネタを追いかけるのは、その後、あるいはその合間だ。こうして現場を踏んでいく。
似て非なる記事づくりを行うのが、デジタルハンターだ。最近はOSINTO(オシント)とも言われるようになった。 これは「Open Source INTelligence(オープンソース・インテリジェンス)」の略で、「公開情報から分析し判断する」こと。多くはネットを駆使するが、こたつレベルではない。世界中のサイトやSNSまで渉猟する。この手法を駆使する調査報道集団「Bellingcat(べリングキャット)」はにわかに脚光を浴びたが、市民の発信する日常の情報や衛星画像、要人の過去の行動履歴まで集めて分析することで、ロシアや中国の報道の嘘を見事に暴いた。今やネット空間には有象無象の情報が爆発的に流れていて、それを丁寧に追っかけて検証していけばトクダネになるのだ。
私は、メディアで安易に口にされる現場至上主義が嫌いだ。現場に行く(というより現場を第一歩とする)のはよいが、そこにある情報を読み取れない、解釈もできない記者も多いからだ。すると現場に足を運びながら、こたつ記事と同じになってしまう。取材した人の言い分を検証なしで飲み込まれる。宇宙人を見た、と聞けば本当に宇宙人が地球に来たんだな、と書くようなものだ。
ようは眼力が求められる。そのためにはベースとなる教養や専門知識の蓄積が必要だし、日頃から自ら考える訓練をしておかないと頭が働かない。せっかくの現場の情報を活かせない。それでも間違うことは多々あるが……。
森林林業関係のニュースも、眼力がないと官邸や官僚の吐き出す情報を丸飲みするだけだよ。林野庁を代弁する記事を垂れ流すな。
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