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森と林業の本

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2023/06/05

日経が取り上げた「フォレスター」

日経新聞が、なんとドイツのフォレスターを取り上げ、それを日本の森林官と比較している。

ドイツで医師並み人気の「森林官」 自然の均衡保つ守人 

ドイツで医師やパイロットと並んで子供に人気の職業が、森林を管理・調査するFoerster (ドイツ語で「森林官」の意)だ。日本の半分以下の森林面積ながら、2倍以上の国産木材を伐採・供給し、かつ多様な生物を育む豊かな自然を残すドイツ。森林官は経済合理性と持続可能性とのバランスを保つ「森の守人(もりびと)」の役割を担っている。

ドイツには約5000人の森林官がいる。日本でも林野庁の出先機関である森林事務所に公務員の森林官を置いているが、850人程度にすぎない。ドイツの森林面積は1070万ヘクタールと、日本(2500万ヘクタール)の半分以下で、その手厚さがわかる。

……とまあ、ドイツのフォレスターを持ち上げている。

ドイツ駐在の記者なので、ドイツの実情については信じてよいかと思うが、残念ながら日本の事情については疎いようだ。

もっとも気にかかるのは、最後の余談的につけた明治神宮の森問題。

ドイツ留学で本多が学んだ「天然更新」を実践し、成功したこの森だが、今年3月、その一部の神宮外苑で大規模な再開発計画が始まった。

「目の前の経済的利益のために先人が100年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々を犠牲にすべきではありません」

だが本多静六がつくった神宮の森とは内苑である。現在伐採するかどうかと揉めているのは外苑。こちらは街路樹か公園木みたいなもので、全然別だ。天然更新するわけがない。それをくっつけたらイカン。想像だが、ドイツのフォレスターが現場を見たら伐るのに賛成するのではないか。フォレスターは林業、つまり経済にも通じているから。伐って植えてという循環は認めるだろう。

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内苑(上)と外苑(外苑)。この違いを感じてほしい。

 

なおフォレスターを訳せば、森林官になるわけだが、林野庁の森林官をドイツのフォレスターと同等に見てはイカン。あくまで林野庁の職員である。ドイツの場合は、特別な養成コースがあり、国家資格なわけだが、林野庁の職員にそこまでの技能知識を求められない。

そもそも日本では、かつて(民主党政権時代に)日本型フォレスターという役職を設けようとして、それが自民政権にもどると、この名称が気に食わんと「森林総合監理士」に変えてしまった。これだってペーパー上の資格である。資格ではあり、役職ではない。この資格をとっても仕事内容は、全然森林に関わっていない人が多い。だいたい転勤が多すぎる。それでは森を扱えない。
最近は民間でも資格を修得できるようになってきたが、果たして仕事にできているか。ただ日本では、こちらをフォレスターと呼びがち。

しかし、それとは別に各地に独自のフォレスターと呼ばれる人がいる。自称もある。環境省にも自然保護官がいる。
それぞれを区別するのは厄介だ。たとえば奈良県には奈良県フォレスターと名付けた役職がある。こちらは奈良県職員の森林管理職という転勤のない特別職である。あくまで公務員の役職の中で、森林林業知識を身につけた資格という位置づけになる。資格と役職が一致している希有な例とは思うが、肝心の権限は弱い。

奈良県の条例で定めたから、国の法律を超えることはできない。かろうじて伐採届の受理をするかどうかを決める権限がある程度ではなかろうか。それだって、正確には微妙だが。

権限がない日本の「フォレスター」を、ドイツのフォレスターと比べるのはかわいそう。

せっかくフォレスターを取り上げたのに、惜しい! と思わせる記事なのであった(^_^) 。

 

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