貿易で世界を動かしたのは森林だった
「物流は世界史をどう変えたのか」(玉木 俊明著 PHP新書)を読んだ。
簡単に目次を紹介しよう。
第一章 フェニキア人はなぜ地中海貿易で繁栄したのか
第二章 なぜ、東アジアはヨーロッパに先駆けて経済発展したのか
第三章 イスラーム王朝はいかにして国力を蓄積したのか
第四章 ヴァイキングはなぜハンザ同盟に敗れたか
第五章 なぜ中国は朝貢貿易により衰退したのか
第六章 地中海はなぜ衰退し、バルト海・北海沿岸諸国が台頭したのか
第七章 喜望峰ルートは、アジアと欧州の関係をどう変えたか
第八章 東インド会社は何をおこなったのか
第九章 オランダはなぜ世界で最初のヘゲモニー国家になれたのか
第十章 パクス・ブリタニカはなぜ実現したのか
第十一章 国家なき民は世界史をどう変えたのか1 --アルメニア人
第十二章 国家なき民は世界史をどう変えたのか2 --セファルディム
第十三章 イギリスの「茶の文化」はいかにしてつくられたのか
第十四章 なぜイギリスで世界最初の工業化(産業革命)が生じたのか
第十五章 アメリカの「海上のフロンティア」とは
第十六章 一九世紀、なぜ西欧とアジアの経済力に大差がついたのか
第十七章 社会主義はなぜ衰退したのか
この本は、いろいろな点で面白いのだが、私にとっての肝は、世界の物流(貿易・交易)を動かしたのは木材だ、という点である。
ピンと来ないかもしれない。食料や織物ではないのか。武器は、人の移動は重要ではなかったのか。
いや、その前段階として、ほとんどの輸送行為は船によって行われるのである。もちろんシルクロードのような陸上輸送もあるのだが、量的には多く運べないし時間もかかる。労力も大きくて物品は高くなる。だが、船さえあれば、水運を使うことが大きな物の移動を可能にした。
そして船は近代までほとんど木造だった。つまり木材がなければ船・舟はつくれず、物流も難しくなるのだ。
一世を風靡した地中海貿易は、フェニキア人やギリシャ、ローマ、エジプト人が行ったが、それはレバノン杉の船がつくられたからである。だが中世になって地中海沿岸の森林は伐採し尽くして、船がつくれなくなる。そして衰退すると、次に勃興したのは北の地中海ともいうべきバルト海と北海だった。その周辺の北欧諸国やプロイセン、ポーランドなどは森林帯国。しかもライン川などがありオランダは内陸深くつながっている。また麻などのロープや帆布も北方の国々で生産されていた。
それがオランダを巨大な交易国に引き上げる。またイギリスも自国の森林を伐り尽くすと、大陸から輸入するようになる。そういや東インド会社はイギリスとオランダが有名だが、スウェーデンやフランスにもあったそうである。これもバルト海交易の一環であるのか。
この点は、「木材と文明」(ラハヒム・ラートカウ著)参照のこと。
結果的に、森林地帯を掌握し木材による船をつくり水運を握った国が豊かになるのである。
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