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森と林業の本

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2023/07/17

『日本人はどのように自然とかかわってきたのか』評

このところ、書棚から日本の森林史、林業史にかかわる本を引っ張りだしては、内容をチェックしている。十分に読むヒマはないので斜め読みだが、私の求める情報はあるのかと見つけるために目を通している。あるテーマに関しての文献調査といったところだ。
そして今回開いたのがこれ。

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日本人はどのように自然とかかわってきたのか 日本列島誕生から現代まで』タットマン著 築地書館

コンラッド・タットマンと言えば『日本人はどのように森をつくってきたのか』が知られるが、アメリカ人が日本の歴史に通底して、日本人が描かなかった日本森林史を書くという点で驚かされたが……今回の著作も自然に焦点を当てている。森林に限らず日本の自然全般を地史的な面から人新世の日本人の活動まで概説したもので、上下二段組で、350ページを超える大部なもだ。

この本は高いのだが、購入する際は迷って悩んで逡巡して、ようやく買ったら、全然読まずに放置するという、我ながらなんなんだという性癖そのものの本である。が、こうした資料本は、急に必要となる時が来る。今回、ついにその時が来て、ページを開いたわけである。

さて、本書は原題はシンプルに「日本環境史」らしい。そして壮大なスケールで日本の数千年の歴史を描く。目次は以下の通りだが、もっと詳しいものが版元・築地書館のサイトにある。長大だが、各単元が細かく分かれているので、内容を把握しやすいし、1単元は短めになるので目を通しやすい。

第1章 日本の地理
地形的特徴
日本列島の生い立ち
地球上の所在地

第2章 狩猟採集社会――紀元前五500年頃まで
環境的背景――気候変動
最初の渡来人
縄文時代
まとめ
【付録】気温と海水面の変化率(1万8000~6500年前)

第3章 粗放農耕社会前期――紀元600年まで
農業の始まり
農耕初期の特徴
弥生時代――大陸から伝わった農業
拡大する社会――古墳時代まで
まとめ

第4章 粗放農耕社会後期――600~1250年
森林伐採――木材と農地のために
中央支配の成立(600~850年)
律令制が環境に及ぼした影響
後期律令時代(850~1250年)
律令時代後期のできごとが環境に及ぼした影響
まとめ

第5章 集約農耕社会前期――1250~1650年
地理
支配層――政治的混乱と再統一(1250~1650年)
生産者人口――規模と複雑さの増加
農業技術の動向
技術の変化が社会と環境に及ぼした影響
まとめ

第6章 集約農耕社会後期――1650~1890年
支配層――安定した政治、崩壊、方向転換
生産者人口――増加、安定低迷、変動
科学技術の動向
まとめ

第7章 帝国主義下の産業社会――1890~1945年
日本の産業時代を読み解く予備知識
国事――産業化と国家
社会と経済
科学技術と環境
まとめ

第8章 資本家中心の産業社会――1945年~現代
社会経済史の概要
人口の推移
物質消費
技術と環境
まとめ

終わりに
解説

さて、ここで私は本書の評する余裕はない。細部にはツッコミどころもあるし、概説ゆえもっと詳しく記してほしいと思う点もある。訳語に不満もある。(たとえば都をすべて帝都と訳さないでほしい。)ただ膨大な情報が詰まっており、それらは細かな事実の集積であること、その中には意外な日本の歴史を感じさせる点も多々あった。

たとえば鎌倉時代には都市の建設や大火もあり、膨大な森林が伐られたことが示されている。が、同時に鎌倉周辺の山林の所有者は、中国に大径木材を売って儲けていたとある。なんと木材輸出である。それは小規模でなく、毎年交易船40隻から50隻分の量だというのだ。しかも、売る木は直径が1・2メートルに達するスギやヒノキ。長さは41メートルから44メートルあった。それを板にして泉州(現在の福建省)まで売りに行ったそうだ。

この時代から多少の木材輸出・輸入があった事実は知っていたが、こんな規模とは思わなかった。もしかして、中世日本の森林破壊に木材輸出が影響しているかもしれない。

一方で、伐採に必要なノコギリは、1600年頃、つまり江戸幕府が始まる前には登場していた。ところが、その後木の伐採にノコギリは使用禁止になった。それは盗伐を防ぐためだというのだ。ノコギリだと静かに早く伐れるからである。オノなら時間もかかるが、音が響く。それを盗伐を防ぐ手だてにしていたというのだ。

これは意味深だ。盗伐禁止に「木一本首一つ」という厳罰主義だけでなく、道具から取り締まっていたのか。

同時に伐りすぎを抑える効用もあっただろう。生産性だけを高める道具の進歩は過剰な供給を生み出し、価格暴落の引き金になる。無駄遣いも生み出す。むしろ生産力を落とすことが持続的経済を可能とするのだ。これは現代にも取り入れるべき発想かもしれない。人新世真っ盛りの今こそ意味があるだろう。

たとえば現代の宮崎県は、ハーベスタもグラップルもフォワーダも禁止する。盗伐者が高性能林業機械を使えなければ、伐採搬出が大仕事になって、素早くできないから、盗伐は難しくなるはずだ。今の宮崎県の林業界にはもっとも必要ではないか? 取り締まりや厳罰化をする気がないのなら、それぐらいやったらどうだ。

ともあれ、温故知新、古きを温めて新しきを知るの精神で、日本史を見直すと、新たな発見とチャンスの芽を見つけられる。

ちなみに著者は、現代日本の姿に絶望しているのかもしれない。

 

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