変わる常識~『罠猟師一代』を読む
古本屋で見つけた『罠猟師一代』(飯田辰彦著 鉱脈社)を購入した。
豊富な写真で主にイノシシ猟を紹介しており、その後の解体なども記されているからだ。それに宮崎県の出版社という点も面白そうであった。
ただ出版年度が2006年で、その前年に雑誌『岳人』に連載したものらしい。つまり取材したのはさらに前、2004年以前となるから、今から20年近く前だ。それは気になったのだが、とりあえずリアルな獣害駆除の様子や山の狩猟文化に触れられるかな、という思いであった。
が、どうやら獣害駆除ではなかった。むしろ獣肉を売る、プロのハンターであった。シカ猟も登場するが、シカ肉は美味しくなく、高くも売れないとほとんど扱わないらしい。シシ肉狙いなのだ。
それはよい。
が、ちょっとなあ、と思わせる描写が次々に出てくる。それは著者が悪いのではなく、猟師の問題ということでもなく、時代の差なのであるが……。
たとえば、いきなり採れたイノシシの解体を山の中で行う。それも沢の水を使う。自家用なら自己責任になるが、売り物にする場合は、これは今ならアウトである。衛生面もそうだし、沢を汚すことはその流域の問題にもなる。内臓を持ち帰っている点はよかったが。
その後はすぐに料理になるのだが、そこで生肉を食べる。そして、これが一番美味い!と記されると……。今や生肉食はNGだろう。E型肝炎ウイルス媒介の心配もあるし、出血性大腸菌など危険な病原菌がいっぱいいるからだ。また寄生虫も馬鹿にならない。解体する最中にそれが人に感染する場合がある。
かくゆう私も、昔はシカ肉をいただくと刺身にして食べて、これが美味い! と言っていたものだが、今では怖い。
そして「あとがきに代えて」が問題だ。
日本の山の疲弊を訴えているのだが、それは林業や人工林ではなく、人工林を増やした天然林破壊のことである。「安い外材」で林業が衰退する話もあるが、林道建設や無茶な植栽などを批判する。針葉樹では保水力を失う、といい、野生動物の減少を愁う。獣害は人間側の都合とする。獣害は、天然林を減らして餌がなくなったから里に下りてきたからだ、とする。早晩、山からいっさいの野生動物が姿を消す、という。
今ならイノシシもシカも増えすぎて困っているが、餌不足どころか餌が豊富になったから数が増えている。里山の方が奥山より生活しやすいから出没することが知られてきた。
山の全面積の数%でもいいから、雑木の山を復活させろとあるのだが、もともと日本の山は60%以上が天然林・里山林なのである……。そして人工林の中にも、結構な広葉樹が生えている。完全にスギ、ヒノキだけの山など、まずない。むしろシカが増えて林床の草木を食べてしまうから、そうなった場合もある。
この20年の間に認識がガラリと代わり180度別の見解になったことを感じる。
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コメント
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鹿肉もよろこばれるようになりました。
フランス等のジビエの影響でしょうか。
1カ所 誤変換あります。内蔵→内臓
投稿: 岡本哲 | 2023/08/01 18:14
誤記、直しました(^^;)。
しか肉も料理の仕方次第で美味いのですが、イノシシ肉などの脂の美味さを求めると、やはりかないませんね。
投稿: 田中淳夫 | 2023/08/01 20:23