森林境界線でもめたヒバの森
朝日新聞に、こんな記事。
これ、「宙に浮くヒバの山(上)という連載で、しかも「けいざい+」とあるように経済欄に掲載。
紙面も紹介しておく。場所は、青森県の下北半島佐井村牛滝だ。
まだ上だけなので、どんな記事になるのかわからないが、実はこのネタ、私も使っていた。山林の所有境界線はかくもいい加減で、国有林か民有林かはっきり確定しない土地があるという例で。民間同士でなく国と争い、しかも最高裁まで行くというのは希有な例であり、森林境界線争いは怖いのだよ、国の土地と言っても、怪しげなのだよ、というのに便利なのだ。ちなみに、その土地は裁判で争われて、最高裁まで上告されて国有林と認められている。つまり一件落着している。
おそらく背景には、明示の地租改正時に、東北は共有林・入会地のほとんどを官有林にしてしまった問題があるはずだ。しかも、この記事のあるところは、そこにヒバの大木が群生していた。ヒバの大木となるとかなりの高値になるわけだが……。この林区は160ヘクタールあるようだが、そのうち何ヘクタールが係争地だったのだろう。
とはいえ、民間側は納得したわけではないらしく、国は安易にこの山のヒバを伐れないだろう。皮肉にも、長年土地争いをしたことが森を守っている。もっとも、材価の低い今、伐採が必要とも思えないが。
私が気に留めていたのは、青森のヒバ林は、大正時代に営林所長・松川恭佐(後の満州国林野総局長官)が天然更新による恒続林施業に挑戦したところだから。各地で試したものの、ほとんどが失敗する中、ヒバ林だけは天然更新を成功させた。松川が担当したところは、今回の境界線不明確地とは違うと思うが、当時生やしたヒバは、現在100年生だから大木になっているはずだ。
ああ、誰か私を青森に呼んでくれ。そしてヒバ林を視察させてくれ。(自分で行けって?)
« 身近にあったど根性植物 | トップページ | 駆け足探訪「ヒルの森」 »
「林業・林産業」カテゴリの記事
- 見えないカルテルが、木材価格を下げる(2025.01.13)
- 理想の林業~台湾の公有林がFSC取得(2024.12.27)
- 林野庁の考える「再造林」(2024.12.18)
- 「林業と建築の勉強会 」から学ぶ(2024.11.23)
- 高知の立木市場と密植への挑戦(2024.11.19)
朝日の記事に関心を持っていただき嬉しく思います。私はこの記事の元ネタに関わっており、つい最近そのことを自分のホームページに掲載しました。「公然の秘密、ヒバ林」で検索いただくと、直ぐに出ます。森林ジャーナリストの貴兄に関心を持っていただくと幸いです。
投稿: 物部 康雄 | 2024/02/07 10:57
このネタを発信された方ですか。
一度、この森を訪れたいですねえ。
ちなみに、このヒバ(ヒノキアスナロ)と同種のアテが、能登半島に生えています。能登ヒバとも呼んでいましたね。
投稿: タナカアツオ | 2024/02/07 11:26
早速のコメント、ありがとうございます。
能登のヒバのことですjが、ある人から、下北のヒバを江戸時代かそのあたりの時期に移したもの(植林)と聞いたことがあります。
投稿: | 2024/02/07 14:38
能登のアテの起源については、おっしゃるとおり下北から移植した説もありますが、自生していたという説もあり、はっきりしないところです。
アテの起源とする大木もありました。
いずれにしろ、能登半島の地震で、林業もストップしてしまっているのが現状でしょう。
投稿: タナカアツオ | 2024/02/12 09:17
以前、このヒバ林のことでお便りしたものですが、最近になり、この件をホームページ上で連載を始めました。私の立場上、林業そのものではなく、トラブルにかかる法的な側面に光を当てることになりますが、それでも、日本一と信じるヒバ林を取り上げており、それはそれで意味のあることと思い、お伝えする次第です。
「公然の秘密、幻の日本一のヒバ林」及び「罠にはまった裁判:連載」で検索いただければ幸いです。
投稿: 物部 康雄 | 2024/05/27 16:26