「らんまん」に描かれる台湾原住民の神話
先週の朝ドラ「らんまん」には、万太郎が台湾の原住民に助けられる逸話があった。そこで出てきた「マーヤ」という言葉を覚えているだろうか。ドラマでは、何も説明されなかったが……。(※原住民とは台湾の呼び方。先住民では差別的になるらしい。)
マーヤとは、日本人のことを指すツォウ族の言葉である。
そこで、我が先祖は昔、二手に分かれて一方は北東に進んだ、それが日本人だという神話が唱えられた。台湾の東北方面に日本列島がある。つまり彼らの神話の中で、日本人と高砂族(台湾原住民14族全体を指す)は同根だというのだ。
これは、実際の話である。たしかに高砂族に、そのような神話があるのだ。実は、14部族のうち4族(ツォウ族、パイワン族、プユマ族、タロコ族)に同じような神話がある。それぞれパターンは違うが、たとえば新高山に住んでいたツォウ族の祖先は洪水にあったため分かれたのだという。そして北に向かい日本へ渡った。だから日本人と高砂族は同根。日本人に親近感を持ってくれていたのである。「らんまん」の脚本家は、よく調べて取り入れたものだ。
この写真集でツォウ族の生活を見ると、「らんまん」に登場した村や家屋とよく似ている。イノシシの頭骨も並んでいる。なかなかNHK、こだわったな。
ただし、この神話が初めて知られたのは、大正12年。日本の研究者が採集した神話である。万太郎こと牧野富太郎が訪れた時代にはあったかどうか……。そもそも牧野は、ツォウ族と接触したのだろうか。
近年の研究では、この神話はわりと最近生まれたのではないかとされている。つまり日本が台湾を領有して頻繁に姿を現す過程で、自分たちのルーツに組み込んだのではないか。。。日本人も、支配するために都合よく解釈した可能性がある。もしかして同根の発想は、日本人が伝えたことも考えられる。確たる学説はあるのだろうか。
替わって、現代人類学の立場からは、日本人のルーツは、大陸から台湾に渡った民族が北進して縄文人の先祖になったという説がある。DNAも近似しているらしい。骨の研究からも、日本人とマライ人に共通点が指摘されている。中国人より近いそうだ。ちなみに台湾から南進した民族は、後にラピタ人となって南太平洋に広がっていった。ポリネシア人の祖である。
事実が神話になったのか、神話が人類学を浸蝕したのか。。。「らんまん」もなかなか含蓄がある。
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