『列島ゴルフ場の科学』を20年前に
私には「ゴルフ場評論家」という肩書があるのをご存じだろうか。あるいはゴルフ場ジャーナリスト。
間違ってもゴルフ評論家とかゴルフジャーナリストではないから、ご注意。あくまでゴルフ場を生態学的に論じる。ゴルフ場経営については若干論じるが、ゴルファーの好むコースうんぬんとか言ったスポーツ的なゴルフ場ではない。
実は2009年に『ゴルフ場は自然がいっぱい』という本をちくま新書から出版している。また、その改訂版の『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』というKindle電子本もある。
この本を書こうと思ったのは、2000年前後には世の中にゴルフ場批判があふれていて、ゴルフは今のクマのように嫌われていたからだ。ただ、その批判内容が、私のようなゴルフをしない素人にも嘘っぱちとデタラメ、偏見だらけとわかる内容だった。そこで、一から勉強してその正体を確かめる、というのが目的だった。
その時も、その文献探しに難渋した。ゴルフ批判本はあるが、ゴルフ場の自然をしっかり調査したような本はない。ドシロウトの思いつき批判(というより悪口)を並べただけでは、資料的価値はまったくないのである。今ならトンデモ本扱いできるだろう。
それから約20年。
ついに出た。科学的なゴルフ場の本が。
『列島ゴルフ場の科学』 伊藤幹二・伊藤操子著 大阪公立大学出版会
目次を紹介する。
まえがき
序章 「列島ゴルフ場の科学」とは
第1部 土地利用史と風土が特徴づける日本のゴルフ場
第1章 世界に類を見ない存在様式
1.日本列島の地勢的特徴
2.ゴルフ場の立地と分布
3.列島の地形とゴルフコース
4.日本のゴルフコースのレイアウト
5.在来種で構成されるコース芝生
第2章 ゴルフ場ができる以前の植生史
1.多くのゴルフ場が位置する「里山」とは
2.里山利用の始まり:縄文の頃の話
BOX1-1 日本の表土
BOX1-2 ヒトとイネ科植生
3.里山の発達:古墳の頃からの話
4.里山利用の変化:近世の話
BOX1-3 「土砂留奉行制度」って何?
5.政府による里山の管理:明治以降の話
第3章 日本の社会経済的環境とゴルフ場造成史
1.米軍ミリタリー・ゴルフコースに始まる本格造成
2.造成・ゴルフブームの始まり
3.造成・ゴルフブームの推移
4.造成を可能にした日本の芝生産業
BOX1-4 社名を日本芝にした起業家のお話
5.造成を可能にしたもう一つの要因:農村・農業社会の変貌
第4章 ゴルフ場はそもそもどう発祥し発達してきたのか
1.ゴルフ場の起源
2.ゴルフ場の専門職グリーンキーパーの誕生
BOX1-5 米国グリーンキーパーの芝生管理意識
3.英国ゴルフ場の技術外史
4.米国ゴルフ場の技術外史
5.日本のゴルフ場技術外史
第5章 市民・住民視点からのゴルフ場
1.利用者の視点から
2.地域住民から見たゴルフ場
3.外国人の目に映る日本のゴルフ場
4.農薬汚染の場という偏見について
BOX1-6 「農薬」って何?
第2部 ゴルフ場の緑地機能とその地域的役割
第6章 日本のゴルフ場緑地の構造
1.ゴルフ場施設の規模と構成
2.ゴルフ場芝地の構造
3.ゴルフ場樹林の構造
BOX2-1 残置森林とは
4.ゴルフ場のため池と治山構造
第7章 ゴルフ場植生の表土保全機能
1.芝地部分の主要機能
2.樹林部分の主要機能
3.林内ラフの機能
4.ゴルフ場湿地の機能
第8章 ゴルフ場緑地を構成要素とする里山樹林
1.里山樹林の変遷
2.里山の経済・文化を支えた山林樹種
3.里山のスギ・ヒノキ林を考える
4.管理放棄が進む里山樹林
5.里山樹林に広がる感染症
6.里山樹林に潜む厄介な野生動物たち
第9章 地域の環境資産へのゴルフ場緑地の役割
1.地域の水循環とゴルフ場緑地 88
2.地域の炭素貯蔵庫としてのゴルフ場緑地
BOX2-2 ゴルフ場の温室効果ガスインベントリ
3.地域の生態系・生物多様性保全とゴルフ場の役割
4.地域の有用広葉樹の保存
第3部 植生管理現場の視点で見たゴルフ場緑地
第10章 植生管理の現状
1.データの収集:グリーンキーパーへのアンケート
2.管理体制について
3.キーパーが管理上重視していること
4.キーパーが管理上苦慮していること
第11章 主な生物害の実態と対応
1.増大する雑草問題
BOX3-1 スズメノカタビラ:人間が芝生から追い出せない小さな生物
2.獣害増加の実態
3.ゴルフ場緑地に起こっている生態系の変調
第12章 直面する人材と経費不足の危機
1.昨今の実態
2.植生維持が危惧される将来
第13章 グリーンキーパーが実感する自然環境保全
<九州地区> <関西地区> <中部地区> <関東地区> <東北地区> <北海道地区>
第4部 日本の環境資源としてのゴルフ場の未来
第14章 ゴルフ場の地場産業としての存在意義
1.ゴルフ場事業は農林ビジネスなのか
2.ゴルフ場緑地の外部経済効果とは
3.ゴルフ場が持つ「オプション価値」
第15章 地域のグリーンインフラとゴルフ場
1.グリーンインフラとは
2.地域で進行するグリーンインフラの変質
3.ゴルフ場緑地がメガソーラー施設に
4.植生管理不作為で止まらない雑草の蔓延
第16章 気候変動対策とゴルフ場の役割
1.気候変動対策へのグローバルな動き
2.地方社会に求められている対応
3.ゴルフ場にできることは
第17章 ゴルフ場活用に向けてのビジネスモデルづくり
1.ゴルフ場活用の方向性について
2.緑地管理ビジネス
3.炭素クレジットビジネス
4.地域活性化・レジャービジネス
5.実現に向けての体制づくりについて
6.ゴルフ場の2050年は
参考文献・資料
あとがき
索引
目次を追うだけで、極めて自然科学的にゴルフ場環境を論じた内容だとわかるだろう。また歴史的背景なども描かれている。
著者の二人は夫婦だが、どちらも本筋は植物学……というより雑草学の専門家だ。とくに操子さんは、京都大学名誉教授だし、幹二さんは兵庫県の樹木医会の設立者。
本書は、専門書ぽいが、読みやすくて一般人にも向けられている。コラム欄にも面白いネタがいっぱいあるのだが、これはまた別の機会に紹介したい。
ちなみに、私がこの本を20年前に読んでいたら、『ゴルフ場は自然がいっぱい』は執筆しなかったかもなあ。ただ14年前と今とはさまざまな状況が変わっている。地球環境問題がこんなにクローズアップされると思わなかった。
またゴルフ場評論をやるか。
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