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森と林業と動物の本

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2023/12/09

『列島ゴルフ場の科学』を20年前に

私には「ゴルフ場評論家」という肩書があるのをご存じだろうか。あるいはゴルフ場ジャーナリスト

間違ってもゴルフ評論家とかゴルフジャーナリストではないから、ご注意。あくまでゴルフ場を生態学的に論じる。ゴルフ場経営については若干論じるが、ゴルファーの好むコースうんぬんとか言ったスポーツ的なゴルフ場ではない。

実は2009年に『ゴルフ場は自然がいっぱい』という本をちくま新書から出版している。また、その改訂版の『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』というKindle電子本もある。

この本を書こうと思ったのは、2000年前後には世の中にゴルフ場批判があふれていて、ゴルフは今のクマのように嫌われていたからだ。ただ、その批判内容が、私のようなゴルフをしない素人にも嘘っぱちとデタラメ、偏見だらけとわかる内容だった。そこで、一から勉強してその正体を確かめる、というのが目的だった。

その時も、その文献探しに難渋した。ゴルフ批判本はあるが、ゴルフ場の自然をしっかり調査したような本はない。ドシロウトの思いつき批判(というより悪口)を並べただけでは、資料的価値はまったくないのである。今ならトンデモ本扱いできるだろう。

それから約20年。

ついに出た。科学的なゴルフ場の本が。

『列島ゴルフ場の科学』 伊藤幹二・伊藤操子著 大阪公立大学出版会

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目次を紹介する。

まえがき
序章 「列島ゴルフ場の科学」とは
第1部 土地利用史と風土が特徴づける日本のゴルフ場
 第1章 世界に類を見ない存在様式
  1.日本列島の地勢的特徴
  2.ゴルフ場の立地と分布
  3.列島の地形とゴルフコース
  4.日本のゴルフコースのレイアウト
  5.在来種で構成されるコース芝生
 第2章 ゴルフ場ができる以前の植生史
  1.多くのゴルフ場が位置する「里山」とは
  2.里山利用の始まり:縄文の頃の話
     BOX1-1 日本の表土
     BOX1-2 ヒトとイネ科植生
  3.里山の発達:古墳の頃からの話
  4.里山利用の変化:近世の話
     BOX1-3 「土砂留奉行制度」って何?
  5.政府による里山の管理:明治以降の話
 第3章 日本の社会経済的環境とゴルフ場造成史
  1.米軍ミリタリー・ゴルフコースに始まる本格造成
  2.造成・ゴルフブームの始まり
  3.造成・ゴルフブームの推移
  4.造成を可能にした日本の芝生産業
     BOX1-4 社名を日本芝にした起業家のお話
  5.造成を可能にしたもう一つの要因:農村・農業社会の変貌
 第4章 ゴルフ場はそもそもどう発祥し発達してきたのか
  1.ゴルフ場の起源
  2.ゴルフ場の専門職グリーンキーパーの誕生
     BOX1-5 米国グリーンキーパーの芝生管理意識
  3.英国ゴルフ場の技術外史
  4.米国ゴルフ場の技術外史
  5.日本のゴルフ場技術外史
 第5章 市民・住民視点からのゴルフ場
  1.利用者の視点から
  2.地域住民から見たゴルフ場
  3.外国人の目に映る日本のゴルフ場
  4.農薬汚染の場という偏見について
     BOX1-6 「農薬」って何?
第2部 ゴルフ場の緑地機能とその地域的役割
 第6章 日本のゴルフ場緑地の構造
  1.ゴルフ場施設の規模と構成
  2.ゴルフ場芝地の構造
  3.ゴルフ場樹林の構造
     BOX2-1 残置森林とは
  4.ゴルフ場のため池と治山構造
 第7章 ゴルフ場植生の表土保全機能
  1.芝地部分の主要機能
  2.樹林部分の主要機能
  3.林内ラフの機能
  4.ゴルフ場湿地の機能
 第8章 ゴルフ場緑地を構成要素とする里山樹林
  1.里山樹林の変遷
  2.里山の経済・文化を支えた山林樹種
  3.里山のスギ・ヒノキ林を考える
  4.管理放棄が進む里山樹林
  5.里山樹林に広がる感染症
  6.里山樹林に潜む厄介な野生動物たち
 第9章 地域の環境資産へのゴルフ場緑地の役割
  1.地域の水循環とゴルフ場緑地 88
  2.地域の炭素貯蔵庫としてのゴルフ場緑地
     BOX2-2 ゴルフ場の温室効果ガスインベントリ
  3.地域の生態系・生物多様性保全とゴルフ場の役割
  4.地域の有用広葉樹の保存
第3部 植生管理現場の視点で見たゴルフ場緑地
 第10章 植生管理の現状
  1.データの収集:グリーンキーパーへのアンケート
  2.管理体制について
  3.キーパーが管理上重視していること
  4.キーパーが管理上苦慮していること
 第11章 主な生物害の実態と対応
  1.増大する雑草問題
     BOX3-1 スズメノカタビラ:人間が芝生から追い出せない小さな生物
  2.獣害増加の実態
  3.ゴルフ場緑地に起こっている生態系の変調
 第12章 直面する人材と経費不足の危機
  1.昨今の実態
  2.植生維持が危惧される将来
 第13章 グリーンキーパーが実感する自然環境保全
  <九州地区> <関西地区> <中部地区> <関東地区> <東北地区> <北海道地区>
第4部 日本の環境資源としてのゴルフ場の未来
 第14章 ゴルフ場の地場産業としての存在意義
  1.ゴルフ場事業は農林ビジネスなのか
  2.ゴルフ場緑地の外部経済効果とは
  3.ゴルフ場が持つ「オプション価値」
 第15章 地域のグリーンインフラとゴルフ場
  1.グリーンインフラとは
  2.地域で進行するグリーンインフラの変質
  3.ゴルフ場緑地がメガソーラー施設に
  4.植生管理不作為で止まらない雑草の蔓延
 第16章 気候変動対策とゴルフ場の役割
  1.気候変動対策へのグローバルな動き
  2.地方社会に求められている対応
  3.ゴルフ場にできることは
 第17章 ゴルフ場活用に向けてのビジネスモデルづくり
  1.ゴルフ場活用の方向性について
  2.緑地管理ビジネス
  3.炭素クレジットビジネス
  4.地域活性化・レジャービジネス
  5.実現に向けての体制づくりについて
  6.ゴルフ場の2050年は
参考文献・資料
あとがき
索引

目次を追うだけで、極めて自然科学的にゴルフ場環境を論じた内容だとわかるだろう。また歴史的背景なども描かれている。

著者の二人は夫婦だが、どちらも本筋は植物学……というより雑草学の専門家だ。とくに操子さんは、京都大学名誉教授だし、幹二さんは兵庫県の樹木医会の設立者。

本書は、専門書ぽいが、読みやすくて一般人にも向けられている。コラム欄にも面白いネタがいっぱいあるのだが、これはまた別の機会に紹介したい。

ちなみに、私がこの本を20年前に読んでいたら、『ゴルフ場は自然がいっぱい』は執筆しなかったかもなあ。ただ14年前と今とはさまざまな状況が変わっている。地球環境問題がこんなにクローズアップされると思わなかった。

またゴルフ場評論をやるか。

 

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