不死身のシカ考2
奈良の春日大社の鎮守の森である春日山原始林は、天然記念物であり世界遺産である。
その森をムシャムシャ食べているのが、同じく天然記念物の奈良のシカだ。おかげで原始林は林床がスカスカになってきた。また稚樹が食われるので大木ばかりの高齢化が進んでいる。とくにシイ・カシ類のドングリも食べるので次世代が育たない。また下生えがなくなれば昆虫も減る。それに、春日山から出て周辺の田畑を襲う。農作物を食べても駆除されることない。
というように、シカ害が問題になっているので、少しシカを減らさないか、有体に言えば駆除できないか、という声もある。保護しすぎだというのである。たしかに現代は、ざっと1200頭も奈良のシカはいるが、山の扶養能力からすると、多すぎるようだ。
しかし、だよ。シカの保護は平安時代より続いているのだ。中世の頃は、シカを殺せば首が飛んだ。シカ一頭首一つ、と木曽檜みたいな扱い。江戸時代の犬公方・徳川綱吉の「生類憐れみの令」でも、奈良ではイヌよりシカの方が大切にされた。落語「鹿政談」のような話もある。
その頃も、春日山原始林はシカの住み処であり、かなり食われていたはずだ。
それとも、春日山もシカも守られる自然の摂理か政策があったのか?
これは、私が『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』を執筆の際に、非常に悩んだところだ。いかに説明するか。
結論としては、当時の春日山原始林は、やっぱりボロボロだったんじゃない?ということである。
何か自然界では人か手を加えないと多様で豊かな森が残ると思いがちだが、それこそが間違った思い込みではないか。森とシカがぶつかれば、森は食われて、不死身のシカが勝つのだ。
ただ明治時代に奈良県の県令(知事)が、奈良のシカを狩の対象として追い込んだ。捕まえてすき焼きにした。檻に閉じ込めて餓死させた。だから減ったので、森の植生は蘇った。それは戦後も同じだ。食料難で奈良のシカは密猟されたのだ。
結論。シカのいる自然界は、森がボロボロになる。それこそが自然の摂理だ。
とまあ、こういう論考になった。(詳しくは『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』をお読みください。)
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