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森と林業の本

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2024/03/23

火星に都市は建設できるか

読み終えた本は、火星が舞台だった。SFでありミステリーでありアクションもてんこ盛りの小説。登場人物も一人一人キャラが立っていて、人生経験や主義主張が光る。よい小説を読んだ……と思ったのだが、実はまったく本筋とは関係のないところで考え込んでしまった。

というのは、前提として火星に人類は移住して都市を建設しているのだ。

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大気の薄い火星では、そのままでは生きていけない。そこでドームのような天蓋を築き、その中に大気を充満させている。地球というか宇宙に出るには衛星ダイモスにつながる軌道エレベーターがあり、そこから宇宙船が発着する。地上に地下に何百万人かが住み、各地に交通網が築かれた都市。

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果たして、そんなものがつくれるのか? と疑問を持ってしまった。

まず材料はどうする? 地球から運ぶのか。たとえば鉄骨など金属建材から樹脂系の素材はどうする。おそるべき量を地球の重力に逆らい宇宙空間に運び、長大な火星までの距離をいかに輸送するか。そして火星の衛星軌道から無事に地上に下ろすのも難しい。それに必要なエネルギーは。莫大すぎて現実的でないように思うのだ。

火星にも鉄鉱石はあるだろう。しかし、それを掘削して、精錬する製鉄所を建てる建材はどうする。そして、やはり燃料。石炭石油などは火星にない。原子力を出力調節するのか。太陽光は弱すぎる。人が住むのに必要な酸素だけでなく、食料も輸送に頼るばかりでは無理だが、自力生産できるか。火星に土壌はないし微生物で分解も期待できない。

研究施設など火星に数百人住む程度の基地なら地球が全面的にバックアップもできるだろうが、万を越える人を移住させるのは無理だ。経済的に持たない。それを少しずつ拡張するとしても、都市として一般住民が住めるようになるまで数百年はかかるのではないか。

それを誰がやる? 従事する人の人生を考えると希望者がいるのか。それとも全部無人のロボットに建設させるのか。……ならば人類が火星に住む必要はなくなる。

今の南極基地と同じである。1年程度の越冬なら科学のため、冒険、探検のためと納得できても、南極に10年住めといわれたら、隊員に応募する人はいるだろうか。いや、一生を南極で過ごせと言われたら。
とりあえず南極に空気はあるし、海産物で食料調達も多少はできる。ペンギンも食べられるだろう。でも、燃料はない。クジラの油を絞るか。補給なしには暮らせまい。火星は、その100倍くらい過酷だ。建設と維持のための経済的負担が高すぎる。

そもそも火星への移動も大変だ。現在のロケットでは数年がかりで到達するが、今後の科学技術で数か月までは縮められるとしても、そんな旅をする宇宙船は建設できるか。そして乗りたがる人はいるのか。酸素も食料も積み込めば、資材はあまり積めない。金属製の宇宙船は、宇宙空間ではすぐに劣化してしまう。また人は人工冬眠技術などを持って代謝を極端に落とした方がいいかもしれない。酸素や食料を節約するために。しかし、健康不安と人生設計に問題がある。

多少とも可能性を考えると、まずは月を改造して、そこに都市を建設することだろうか。地球との距離が近いのは有利だ。そして月で製造した資材を火星へ発射する。引力が弱いからエネルギーをかなり節減できる。一方で太陽光によるエネルギーはかなり得やすいだろう。
しかし月は、大気はゼロ状態で、水もあるかどうか。火星より過酷だ。必要な金属資源等を開発するまでに、莫大な資材を地球から運ばなくてはならない。それで経済的にペイするか疑問だ。

……とまあ、次々と現実の壁を考えてしまったのである。結局、完全な都市が建設されてからでないと、火星への移住者はほとんど現れないだろう。南極も似たようなものだと思う。

まだ太陽系内なら、なんとかなるかもしれない。しかし、太陽系外の別の星系に行くのは、ほとんど不可能だろう。SF等に登場するワープ航法は、今のところまったく論理的にも技術的にも不可能だ。理論的には亜光速までしか出せない。隣のアルファ・ケンタウリまで行くだけで片道数十年かかる。そんな旅路に人間がつくことは無理なのである。

人類は、やはり地球に閉じこもるのが似合っているのだ……。

こんな思考実験をしていると、なぜ地球に人が住めるのか、今後も住み続けられるのかという回答にも行き着くだろう。

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