「林業経済」誌の宮崎林業記事
文献探しで県立図書館に行ったのだが、そこで目に止まったのが「林業経済」誌。
その最新号の特集が、「ディスカッションⅠ 宮崎県林業の16年を振り返る」。宮崎県の林業は、特集になるほど別格なのか。棚にはそこそこ林業関係雑誌が並んでいる中で、これは論文誌というべきだろうが、そこで扱うのだ。
ちょっと興味を引くではないか。宮崎県林業に、どんな評価をしているのか。外見には「発展」していたと言いたいのだろう。だが、その陰に問題がいろいろ起きている。それを、いかに論評しているか。
まず地籍調査の境界線問題、相続時の名義問題、そして再造林放棄問題……が、目を通しているうちに阿呆らしくなった。それらは問題ではあるが、宮崎県だけではない。いや、宮崎県はまだ少しマシと私は見ている。実際に地籍調査の進捗率は全国平均より高めだ。あえて宮崎県特集で取り上げるまでもない。
ところが盗伐問題には、まったく触れていないのである。宮崎県林業を語るのに盗伐問題を取り上げないなんて(嘲笑)。
ディスカッションをよ~く読めば、かろうじて触れているのは、ひむか維森の会の松岡さんだけ。彼の発言の中に「誤伐盗伐もあり」という一カ所だけある。そのほか素材生産業者が多すぎるとか、レベルが低い業者が多すぎる……とわりと辛辣だ。彼のところにも怪しげなブローカーの売り込みはあるが、全部断っているのだそう。
このように素材生産業者が加熱する林業の陰で起きている問題を取り上げているのに、県森蓮の代表や林業研究者、そして木材会社などは見事に盗伐問題をスルーしている。その発言に突っ込まない。盗伐どころか多数新規参入している業者の質の問題にも触れようとしない。不正行為の蔓延というのは業界の根幹を揺るがす問題のはずなのに。
(最新刊はコピーを取れないので、記憶に頼っていることはご容赦。)
宮崎県で起きている盗伐頻発事案を知らないとしたら関係者としてお粗末すぎるし、知っていてもたいした問題ではないという認識か、あるいは触れるのは都合が悪いから避けたのだとしたら、その程度のレベルの特集ということだ。論文誌に値しない。
くだらん。本当にくだらん記事に目を通してしまった。
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「負の自浄作用」が強く働いていますね。某芸能プロダクションおよびそれを取り巻く環境が巻き起こしたおぞましい事象群と同類でしょうね。
投稿: じょえる | 2024/05/29 08:00
研究者は論文になるかならないかの視点で見るので、知ってはいるのでしょうけど、こういう学会が発行している雑誌にはまず書かないですね。ただ、ほかの自由に書けそうな業界紙(山林、現代林業等)にも出てこないのはちょっと問題ですね。
投稿: 0 | 2024/05/29 08:49
陰謀論に与したくはないのですが、現実に「負の循環」に陥っている気がします。
宮崎県の書店は、今も『盗伐 林業現場からの警鐘』を店頭に置いていないのですよ。宮崎日日新聞に広告を打っても!
被害者の一人が書店に申し入れても、個人の注文でないと仕入れないと言っているそうです。
そして、業界誌は露骨ですね。林業界の都合の悪いテーマを扱わないのは以前からでしたが。学会誌までそのレベルに落ちています。
みんなが意識的・無意識的にこの話題から目を背けているのでしょう。
投稿: 田中淳夫 | 2024/05/29 09:15
a書店に並ばないのは1.配本する取次が大型店優先ということ2.書店の意志で並べる本を選ぶ仕組みになっていない。取次の担当者が送る本を決めています。(昔の本屋の息子です) bNHKの森林環境税1000円は何に」にXコメントしました--とだ-k 2024/6/17 17:18
一律の1000円徴収 “森林環境税” なぜ? | NHK https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240606/k10014469941000.html
田中淳夫著「盗伐」が話題になっています。森林組合、警察、自治体が山ごと伐採する大規模な盗伐に目をつむっている実態。不法業者が森林補助金を受けている。この環境税も底が抜けていませんか。
投稿: とだ-k | 2024/06/17 17:39
このエントりーに関係ないことはコメントしないでください。ちなみに森林環境税なんか5年前から追求し続けている問題で、いまさらです。
投稿: 田中淳夫 | 2024/06/17 23:55