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森と林業の本

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2024/05/20

『広葉樹の国フランス』を読む

以前、私はフランス林業に興味があると記していた。調べると8年も前だった。

フランスの林業が知りたい!

そこに書いた通り、フランス林業が広葉樹主体の林業であることと、日本が信奉してきたドイツ林業の源流はフランスにあったこと、そして日本も幕末にフランス林業を取り入れようとしたこと……などが理由だ。だが、文献がない。そう嘆いている。

それにドンピシャな本が出た。『広葉樹の国フランス 「適地適木か」ら自然林業へ』(門脇仁著 築地書館)71qrulnup3l_sl1469_

よく知れば、フランスは森林大国であり林業先進国である。森林面積は1733万ヘクタールで国土の約3割(ただし、森林率は過去13%まで減少していたところから近年復活させた)とドイツを凌駕するし、一人当たりの森林面積は日本を上回る。木材生産量も大きい(日本の1・6倍くらい)。林学を打ち立てた歴史もドイツ(プロシア)より前から。

だが、それ以上に注目すべきは広葉樹主体の混交林・複層林を基本に置いて択伐施業を取っていることだ。それって、生物多様性を重視したネイチャーポジティブ経済的にも現在もっとも求められる形ではないだろうか。

フランスでそれが可能だったのは、薪需要の大きさと、コロンバージュ様式と呼ぶ広葉樹材による建築が伝統的に強いからだという。さらに家具なども木製が多い。逆に言えば、これらの需要があるから広葉樹を育てる林業でなければならなかったのだろう。

日本でも、最近はちょこちょこと広葉樹施業を言い出している。だが、何やら針葉樹の人工林林業に行き詰まり、逃げ道にしている感が否めない。広葉樹材の使い道は、相変わらず大半が製紙原料で、それどころか新たな需要と銘打って、バイオマス発電燃料にしようという目論見が透けて見える。私に言わせれば、広葉樹に対する冒涜だ。

本当は、この広葉樹林業についてもっと深く考察したいのだが、ここでは読書感想文として。

内容は3部構成。詳しい目次は、版元のサイトへどうぞ。

Ⅰ  知られざる森林立国─ガリアの魂とフランス林業
Ⅱ  千年樹が見た日々─フランス森林再生史
Ⅲ  ユーラシアの東と西で─森と林業の日仏比較

本書の内容をごく簡単に紹介すると、1部で現在のフランスの林業が紹介され、2部でフランスの森林史・林業史が語られる。なかには仏領ハイチやナポレオン時代の駆け引きや森林政策も登場し、ドラマチックですらある。そして緻密な照査法の登場。EUの政策と森林法典の成立……。なんともダイナミックだ。

そして3部では日仏の森林・林業を比較する。すると意外な共通点も浮かび上がる。そもそもどちらも広葉樹の国であったのだ。
そして幕末から明治初期はフランス林政を見本としていた。
実は土倉庄三郎の元にフランスの森林官が視察に訪れたことがあるのだが、その人物の狙いは何か。詳しいことはわからないが、吉野林業に興味を持っていたのだろう。

だが、明治以降の林政の歩みは、両国を疎遠にした。フランス式の林業技術はもちろん、その研究者さえほとんどいない。

それでも今の日本は、フランス林政に注目すべきだと感じる。ドイツの材積主義は、日本でも行き詰まっているのだから。

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気になる点に付箋を貼ると……。

日本は、常に海外の林業をモデルとして探してきた。近年もドイツのフォレスターをたくさん招いて助言を乞うた。それに行き詰まるとフィンランドに目を向ける。このように右往左往し続けるなら、今度はフランスはいかが? と言いたくなる。

もし、現代の日本林業に行き詰まりを感じるのなら、まずはフランスの林業を知ることから初めてみたら目からウロコ……かもしれない。林政担当者はフランス林業を選択肢として、あるいは思考・立案の幅を広げることに大きく寄与するだろう。

 

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コメント

日本も明治維新前はフランスを参考していたようなのですが、明治維新後はドイツ林業と法正林に魅入られたようなのですよね。

校正で恐縮です。
森林面積は1733ヘクタール→1733万ヘクタールかと。
読んでみます。

まさに! 1733haのわけがない(笑)。
直しました。

法正林が曲者ですね。みんな憧れるけど、絶対に実現しないという。

ありがとうございます。著者の門脇 仁です。
以下、すこし長い謝辞とレスポンスです。

拙著でご覧いただいた通り、今回の本の大部分は、28年前にパリの大学院で書いたフランス語論文をもとにしています。
すぐに日本語版を出版すべきでしたが、当時フランスについては林業はおろか、環境行政にさえほとんど目を向ける人がいませんでした。私費で苦学しながらフランスの森林や林業を学んできたような変人は、間違いなく私一人です。

90年代にシラク政権で断行されたムルロワ環礁水爆実験の余波で、世界的にフランスをヘイトする空気もありました。帰国後、一度だけ某雑誌に、「環境文化とフランス」という連載で、「国策が森の姿を変えるとき」というフランス森林再生史や日仏森林・林業比較の記事を書いたことがありましたが、まったく反応がなく、発表はしばらく見合わせていました。

フランスが環境のことで多少とも注目される時代がくるとは、ほとんど想像もしなかったことです。

ですから8年前、田中さんがブログで「フランスの森が知りたい」と書いてくださったときには、「地獄で仏」と言うとちょっと違いますが、我が意を得たりと思ったものです。

また、99年に私が翻訳会社からの依頼で訳した「ジャン=ルイ・ビアンコ報告書」や「EU森林報告書」は、その後いろいろなところで引用されています。今回、拙著でヨーロッパの林野行政についてもアップデートしたのは、こういった関心の高まりも受けてのことでした。

そして最も大きなきっかけは、自然生態系専門の出版社である築地書館との貴重な邂逅です。その出逢いがなければ、いまも私は28年前の「フランス 森林の書」というファイルの封印を解けずじまいだったと思います。

28年といえば、ロビンソン・クルーソーや横井庄一さんが文明から孤絶して暮らしていた年数とまったく同じですね。
ただ、もちろんその間、まんじりともせずに虎視眈々と機会を狙っていたわけではなく、他ジャンルの仕事もしながら、焦らず、諦めず、楽観的に「森」と向き合ってきました。
これからも当のフランス同様、「不撓不屈のオプティミスム」でこのテーマを追い続けて行こうと思っています。

帰国以来、私も田中さんのご高著に永年注目させていただいております。森林・林業へのご造詣は私などの及ぶべくもないですが、読み物の切り口も得意とされているところが、私と共通の方でもありますね。

今後ともよろしくお願いします。

著者自らがご登場いただき恐縮です。
イマイチ「読書感想文」としては煮え切らず、書き直そうか(アップしてからも書き直せるのがブログのいいところ)と思っていたところですが、いじれなくなりました(^^;)。

あえて付け加えれば、森林は多種多様で、それを巡る政策も多種多様であるべきなのに、日本では画一的施業が進められています。
生物多様性だけでなく、林政の多様性を生み出して選択肢を増やすためには多様な国の多様な林業を学ぶことが重要だと考えます。その点からもフランス林業は、重要な役割を果たすと感じています。

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