謎のハイブリッドグマ
先日、某地方紙の記者が生駒まで取材に来た。特集記事の中で林業の実情を取り上げるから話を聞きたいとのことだった。
大型企画の担当で、わざわざ奈良まで足を運ぶ(最近は、経費の面からなかなか長距離泊まり掛け出張が許されなくなってきている。とくに地方紙は……)というのだから、ベテラン記者かな、と思っていたのだが、生駒駅の改札口で待ち合わせて出会ったのは、意外や若い女性記者であった。
さあ、取材に入る前の雑談に何をするか。車で移動する最中、若干悩む。お互い?探るように世間話をする。
入社4年目なの? 記者稼業はどう? 楽しい?とかなんとかオジサン的な質問をしているうちに、人生相談ぽく(ここでオヤジ化する)なるが、聞いてみると農学部卒。なんだ、私と一緒か。専門は? と聞けば、なんと森林科学系なのであった。私と同じや、それなら林業もそこそこ知っているでしょう。卒論何やったの? とまたオジサン的質問。
すると、クマの生態を追いかけていたというのだ。森林とクマの専門家(見習い)ではないか。ただ、クマの記事はまだ書いたことがないというのだが……。
えっ、私も卒論は動物追いかけていたんだよ、扱ったのはカモシカとかアカネズミだったけど、クマの冬眠穴調査もやったんだぜ、と、若い女性記者との共通点をせっせと探すのは、やはりオヤジ化したのかも。
ここでクマの話で盛り上がる。その際に話題になったのが、ハイブリッドグマの話題だ。
クマの出没が毎日のようにあるが、その中でいきなり飛び出したハイブリッドグマの噂。ようするに東北地方では、通常のツキノワグマの2倍ぐらいある巨大クマの目撃例が増えているという。しかも凶暴。これはツキノワグマとヒグマのあいのこ、つまりハイブリッドではないのか?と言い出した人たちがいる。これにマスコミは飛びついた。
「ヒグマとツキノワグマの悪魔合体が起きている」…!いま秋田の猟師たちが恐れる「最凶のハイブリッド熊」の正体
「何年も前から、一般的なツキノワグマの倍ほどもある大型の個体を見たと、山の仲間たちは話していました。私たちは、ヒグマとツキノワグマが交配して誕生したであろう彼らを『ハイブリッド個体』と呼んでいます。ヒグマの体格と獰猛な性格を受け継いだ個体が、秋田の山の中をウロウロしていると思うと、恐ろしくてたまりません」
何のことはない、秋田県で聞いた噂をそのまま垂れ流しているだけだ。
真面目に考えれば、津軽海峡があるかぎり両種の出会いもないし、野生状態のツキノワグマとヒグマが交配するとは考えられない。出会えばヒグマがツキノワグマを食い殺す可能性だってある。遺伝子的には、クマ同士ならかろうじて一代雑種はつくれるかもしれないが、それが巨大になるとか凶暴になるかどうかもわからない。病弱になる可能性だって高い。
では、正体は何か。ツキノワグマとは世界的にはクロクマの仲間である。だからアジアクロクマとも呼ぶ。アメリカ大陸にはアメリカクロクマがいるが、それがデカいのだ。立ち上がると2メートルを超す個体もいる。アメリカのヒグマ、グリズリーと比べると小さいのだが……。
ツキノワグマも餌が豊富になって、また長生きをすることで巨大な体格を手に入れた個体もいるのではないか。私の見解としては、餌の量が増えると、クマの数が増えるだけでなく、巨大化したツキノワグマが出現するのかもしれないよ。
とまあ、こんな話をしている時が、もっとも楽しい(^^;)。若い記者に説教を垂れるのが趣味ではないのである。
もちろん、取材には前向きに応えましたよ。絶望の林業の話を(-_-;)。彼女、『絶望の林業』と『虚構の森』を持参していた。有り難い。ただ図書館からの貸し出し本であった。『盗伐 林業現場からの警鐘』は買ってね、とお願いしておいた。「はい、Amazonでボチります」との返事にゴキゲンになったのであった。
みどりのシロクマ?????これもハイブリッドだろうか。価格はなんと9割引!
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私も単純に寿命が伸びて大きくなれる個体が増えあのだと考えていました。山形県で飼育下にあったツキノワグマは32年生きていたことから、潜在的な寿命は長くいと思われます。動物園で見るツキノワグマも野生で見るものより大きいです。(2度野生で見まいたが、大型犬くらいです。まだ成獣になりたてくらいでしたが)
参考:山形県の飼育下クマ
https://mainichi.jp/articles/20230730/ddl/k06/040/032000c
投稿: 0 | 2024/06/24 09:30
山形県のクマは体重130キロだったとか。かなり大きいですね。相撲取りと同じくらいかと想像してしまいます。
記事にする際は、ちゃんと動物の専門家などの声を聞いて検証してほしいですね。
投稿: 田中淳夫 | 2024/06/24 10:48
いやこの件はこの付近にクマ牧場(すでに閉鎖)があって、そこの管理が非常に杜撰だったらしく、近年もヒグマ六頭が脱走して2名人的被害があったようなとこで、どうもそこから他にも逃げたヒグマがいるらしく、それが帰化してハイブリッド熊みたいな得体のしれないのが現れてるんじゃって地元の猟師中心に噂なってたわけよ...
投稿: | 2025/04/21 17:11
なるねど、そんな裏話があったのなら、報道してほしかったですね。本州でヒグマが野生化しているとなれば、ちょっと次元の違う事件なのだから。
もっともヒグマとツキノワグマが交配するとは信じられませんが。
投稿: 田中淳夫 | 2025/04/21 20:14