無料ブログはココログ

森と林業の本

« 「財務省が獣害対策におかんむり」な理由 | トップページ | 「命に関わる暑さ」と蜂の巣の危険度 »

2024/07/30

野生生物を守るのは「やさしさ」?「かわいさ」?

このところ、否応なしに野生動物問題、とくにシカやクマなどの獣害多発に触発された記事の執筆やコメント、そして講演まですることが多い。
私は動物の研究家でもなけれは動物専門ジャーナリストでもないのだが……。

それで私も最新情報を身につけようと俄か勉強を繰り返しているのだが、そこで岩波ジュニア新書『野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?』を読んだ。

81bguzqxqol_sl1500_

ジュニア新書だけあって、するすると読んでしまった。内容は……正直に書けば、想定どおり。

世に害獣と言われる動物は多いが、それらを駆除するだけでは解決しない。冒頭に年間何十万ものシカを駆除しながら、東京都内に出てきたシカ1頭を保護しようとしたりする“事件”を紹介しているが、ほかにも似た例がいくつも登場する。
沖縄の漁師を困らせるウミガメを駆除したら世間から叩かれるが、漁師の立場もある。さらにウミガメが磯の海草や藻を食べ尽くす問題もある。ウミガメの卵を保護したら、それまでその卵を餌にしていたヘビが困って、島のトカゲを食べて、結局はヘビもトカゲも減少してしまった……。
外来種駆除と言っても、どれが外来なのか在来なのかも時代によって変わるし、自分が好きな動物は外来種であってもかわいそう……。
一方で人が手をかけてつくってきた環境(たとえば農地や草地)が生物多様性を作り出してきた面もあるから、人為をなくしても困る……。

こうした例がいっぱい並んでいて、それはそれで知識にはなるのだが、ではどうするの? となるわけだ。

結論めいたことは書いていない。両立させる方法を紹介するのはなかなか難しい。読む前から、そんな結論になるのではないかな、と予想した通りであった。では、読者はどうするの? 知識から知恵をなかなか生み出せない。これが現実か。

 

ところで、私が本書で気になったこと。タイトルに「やさしさ」が入っている。また本文には「かわいそう」が多用されている。どちらも人間の感情であり、やさしさとかわいそうという感情が野生生物を守る行動の原動力になっているかのようだ。

だが、私はそれを超えたメタ感情として「かわいい」が強烈に作用しているのではないか、と考えている。かわいいと感じる動物(植物も)は保護する、かわいくない、もしくはかわいらしさに気づけない遠い存在は保護しないし、無視する。

わかりやすいのはイヌやネコだろう。なんで人だけでなく環境にも害をもたらすノライヌ・ノイヌ、ノラネコ・ノネコを必死で保護するのか。これって動物差別、レイシズムじゃね? 

目先の一頭のシカもかわいく見えるから保護するが、害獣としてのシカは何万頭いようが、かわいい姿顔が見えないので駆除しても平気になってしまう。この行動原理を説明するのは、やさしさではなく、かわいいという感情で読み解かないと理解につながらない。

私は、人という動物はかわいいものを目にすると、脳内にドーパミンがどばっと放出されるのではないかという仮説を立てている。この快楽にとりつかれると、いかなる理論も用をなさない。人は、かわいいと感じた際に得られる快楽に依存する、いわば「かわいい依存症」患者だからだ。(もしかしたらドーパミンではなく、オキシトシンかもしれない。攻撃性を弱め幸福感をもたらすのかもしれない。)

では、何が人の脳を刺激するのか。快楽ホルモンもしくは幸福ホルモンを分泌させるのか。どんな遺伝子に操られているのか……と詰めていくと、まだ納得いく解答は出ないのだが。。。

拙著『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』と『獣害列島』では、こうした切り口から考察したのだが、そこで浮上したのが、アニマルウェルフェアノンヒューマン・パーソンズの概念だ。ここを掘り下げると、手がかりがあるように思える。理解する事例として、奈良のシカに注目したい。ナラシカは、害獣であり、観光資源であり、信仰の対象だ。ただのシカではなく神鹿。この「かわいい」存在を守るために涙ぐましい努力を1000年続けている。そこにヒントはないか?

せっかくだから紹介しておく。

Photo_20240730170201 Photo_20240730170202

« 「財務省が獣害対策におかんむり」な理由 | トップページ | 「命に関わる暑さ」と蜂の巣の危険度 »

ナラシカ・動物・獣害」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 「財務省が獣害対策におかんむり」な理由 | トップページ | 「命に関わる暑さ」と蜂の巣の危険度 »

September 2024
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

森と筆者の関連リンク先