「歩留り」と「純益」の経済学
そろそろ「令和のコメ不足」(令和の米騒動とは呼びたくない)は解消しつつあるのだろうか。新米が出回り始めたことで。もっとも、その新米の価格が高騰していることも話題であるが。
専門とは言えないものの、私は農業にも首を突っこんでいる。そこでエラいことに気づいた。
農水省から公表されているコメ需給統計にある在庫数値は玄米ベースだったのだ。
もちろん消費者が日常的に消費しているのは、精米だろう。
ちなみに国連食糧農業機関(FAO)をはじめとする国際機関の統計は、精米換算の数値に統一されているが、なぜか我が国農水省だけが玄米ベースでの統計を基に、コメの需給を管理している。
このズレがどれほどになるのか。
一般的には、精米されることで玄米の重量は8~10%減るとされる。つまり8~10%はヌカとなるのだ。さらに無洗米は精白米と比較して2~3%減る。自宅で米を研ぐ際に出るヌカを先に取ってしまうからだ。なおヌカ以外の成分を研ぐこともあるからもっと減る。
なおモミを玄米にすると、2割減る。つまり10キロのモミは8キロとなり、それを精白すると7・2キロくらいになる。無洗米も含めて最終消費者が食べるのは7キロぐらいと換算するべきだろう。収穫量から3割は減るのだ。
さらに昨年は酷暑が続いたために、コメの出来はよくないとされる。昨年の場合は、品質が悪化し精米時の歩留りはさらに落ちたらしい。ヌカ層が厚くなったのである。その割合は調べても見つからなかったが、仮に1~2%落ちたとしたら、それも最終供給量の目減りを引き起こしただろう。収穫量との差は、コメ不足を招くかもしれない。今年はどうなるか。歩留りの多寡によって消費可能量が変わってしまう。
それにしても、なぜ玄米ベースの統計にして予測をややこしくしているのか。官僚は、さすがに歩留りを頭に置いているとは思うが、単純に統計を見ているマスコミや一般人は誤誘導されかねない。
そういや木材でもおかしな統計を目にすることがあった。生産量は原木、つまり丸太なのに消費量は製材で示している。丸い原木を製材したら量は減るんだよ。。。製材すれば、4割は減る。さらに集成材だと2割以上減る。合板は多少よいが、それでも原木からマイナスになるのはいうまでもない。それを無視して、生産量を元に需要を考察したらイカンだろう。
さらに言えば森林そのものからの木材生産量の歩留りを考えてもらわねば。おそらく3割ぐらいだ。
原木のうち建築材にまでたどり着くのは3割程度だから、森林蓄積のうち建築材になるのは1割ぐらいだろう。これで「木造建築は炭素蓄積」なんていうんじゃないよ。
この歩留りの悪化が林家の収入も落としている。製材価格のうち、林家手取りは1割以下だ。4%だという数字も出ている。製材が立米単価10万円あったとしても(ないけど)、林家が受け取るのは4000円だよ。
この生産者の純益という数字も把握しないと、林業生産額はいくらで前年度よりか増えました、だから林業再生は進んでいます、なんて世迷い言を言ってしまう。農業も同じだ。
今年は新米は価格が2倍になったというが、果たして手取りはいくら増えたのか。この際、超高値をつけてガッツリ儲けていただきたい。コメ不足様様になるかもしれない。
林業も同様で、純益が2倍になる取引をしたら、伐採量を半分にしてもよいのだ。薄利多売の経営構造のままだと、大量に伐採しないと儲からないから森林破壊が進む。林業再生うんぬんを議論するなら、生産量ではなく純益であるべきだ。
この「歩留り」と「純益」の経済を意識に置くべきだ。
なお、コメの10%が米ヌカとなったとして、その重さの1~2割ほどは米油となる。残りは、たんぱく質を含む脱脂米ぬかだ。ここから肥料や家畜飼料がつくられる。さらに代用肉生産に結びつける動きもある。
林業の製材屑は、一部は割り箸などにするが、ほとんどはバイオマス発電燃料。製紙用チップにもあまりならない。森林に残して腐らせる分も多い。
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