保持林業の実験に思う
保持林業という施業法、伐採法がある。単純に言えば、皆伐なんだけど木をある程度残す施業法。すると動植物の保全に役立つし、森林の回復が早くなるとされている。
欧米などでは広がっているが、日本では北海道で実験が行われている程度ではないか。
正直、私は「そうは言っても皆伐だもんな。すべての木を伐るよりはマシだが、大部分を切ったら森でなくなる」と思っていた。いや今も思っているか。それでも、皆伐よりはよほどマシである。択伐がいいと言われても、すでに一斉林ができあがっているのに難しい、とかいい訳して相変わらず皆伐と一斉造林、一斉伐採を繰り返すときに、「保持林業という手がありますよ」と提案できるかも、と思っている。
なお、残す木の量はまだまだ議論がある。木材生産と生物の兼ね合いだ。
そこでさまざまな実験が行われている。今夏、その実験成果の発表があった。
針葉樹人工林で保持林業を実施する場合、単木保持では広葉樹を10本/ha(材積で約2%)以上、できれば50本/ha以上(材積で約10%)残すこと、群状保持と単木保持は組み合わせると効果的であることを提案しました。
この保持林業実験、北海道立総合研究機構林業試験場、北海道大学農学部と共同で道有林のトドマツ人工林において行っている。実験開始から10年間が経過したので初期の成果をまとたというものだ。
・単木保持では林床植生を除く色々な生物群で広葉樹の保持量が大きいほど生物多様性保全効果が高いことが明らかに。
・群状保持の効果は生物群によって異なり、林床植生、オサムシ類、外生菌根菌のように保持部分が伐採の影響から逃れる一時的な避難場所として機能するものと、鳥類や腐肉食性甲虫のように機能しないものがありました。
・単木保持と群状保持では効果的な生物群が異なりました。
・木材生産性については、伐出コストの増加や収穫量の減少といった負の影響は10本/ha保持では無視できる範囲でしたが、50本/ha保持以上で顕在化しました。
・伐採地の景観的価値については、皆伐よりも単木保持の方が風景として好ましく、この傾向は保持量が多いほど顕著でした。
ある程度、想像どおりではあるが、こうした知見を積み重ねて、実地にやっていこう(それが国有林か公有林か民有林でも可能なのか、わからんけど。)
ところで「北米や北欧を中心に普及していますが、日本を含むアジア地域ではほとんど行われていません」とある。だが、私は静岡で見たぞ。
天竜林業地で、写真のような「皆伐施業」をやっていた。山主が、どうやらたら森林に優しい伐り方か、再生が早いか……を考えた結果、このように木を一定割合残す方法に行き着いたのだそうだ。
「これは保持林業では?」と聞くと、そんなもの知らないということだった(^^;)。自分で思いついて試している最中であって、世界のどこかでやっている方法を真似たわけではないらしい。
基本的には、スギ林ならスギの一部、あるいは広葉樹が入り込んでいる人工林の場合は、広葉樹中心に残すそうだ。
問題は、これを皆伐と認められないと、補助金が出ないこと。
そう言えば、最近になって複層林施業がまた言われだした。前回(1970年代?)は失敗だったので、いろいろなパターンを試して実験しているそうだ。ただ、審議会などで「複層林にすれば、手入れがあまり要らずに省力化になる」という発言があって、しらけた。
複層林にしろ針広混交林にしろ、細やかに管理しないと成り立たないのは、過去の事例を振り返って外野でもわかる。もし、その覚悟がなく安直な発想で取り入れたら、またしても失敗するだろう。学者が実験で「こうしてああしたら成立する」と答を出したつもりでも、現場はテキトーにやるからね。
油断するなかれ。
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