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森と林業の本

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2024/10/07

『図説日本の森林』のテーマ

『図説 日本の森林 ~森・人・生き物の多様なかかわり』(日本森林学会編 朝倉書店刊)を手にした。どんな本なのか、私なりに紹介したい。

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意外と大きい。B5版並製本。ちょっとムックのようにも見える。私は、図説とあるから森林図鑑、言い換えると日本の(観光的な)森林ガイドなのかと思っていた。実際に目次には、日本各地の森林がずらりと並ぶ。ナンバリングでは70あり、136景とある。そこだけ引用すると。

第1部 森林を読み解く136景
 1 知床の森〔森章〕 [北海道]
 2 パイロットフォレスト〔渋谷正人〕 [北海道]
 3 ヤチダモ湿生林〔冨士田裕子〕 [北海道]
 4 阿寒のアカエゾマツ林 〔吉田俊也〕 [北海道]
 5 十勝平野の河畔林〔中村太士〕 [北海道]
 6 水辺林〔崎尾均〕 [全国]
 7 大雪山の針広混交林〔久保田康裕〕 [北海道]
 8 富良野の東京大学北海道演習林〔鈴木智之・尾張敏章〕 [北海道]
 ・解説1 研究のための森林 〔石原正恵〕
 9 北海道のカシワ海岸林〔永光輝義・清水一〕 [北海道]
 10 野幌の森〔渋谷正人〕 [北海道]
 11 北限のブナ林 〔松井哲哉〕 [北海道]
 12 ガルトネル・ブナ林〔並川寛司〕 [北海道]
 13 青森ヒバの森 〔櫃間岳〕 [東北]
 14 野辺地防雪原林〔正木隆・増井洋介〕 [東北]
 15 本州中部以北のブナ林〔小山泰弘〕 [東日本]
 16 秋田スギの天然林〔星崎和彦〕 [東北]
 17 スギの天然林〔津村義彦〕 [全国]
 18 本州多雪地帯の亜高山帯針葉樹林〔杉田久志〕 [東日本]
 19 北上山地の多様な二次林 〔大住克博〕 [東北]
 20 南部赤松の林〔正木隆〕 [東北]
 21 遺存する針葉樹林〔木佐貫博光〕 [全国]
 ・解説2 気候変動と森林 〔津山幾太郎・中尾勝洋〕
 22 冷温帯性落葉広葉樹の里山二次林〔伊東宏樹・斉藤正一〕 [東日本]
 23 青葉山の森 〔永松大〕 [東北]
 24 只見生物圏保存地域〔中野陽介〕 [東北]
 25 ブナの天然更新試験地〔正木隆〕 [東日本]
 26 足尾荒廃地の森林再生〔大久保達弘〕 [関東]
 27 高原山のイヌブナ自然林〔大久保達弘〕 [関東]
 28 小川試験地〔柴田銃江〕 [関東]
 29 関東周辺の太平洋型ブナ林〔島野光司〕 [関東]
 30 明治神宮の森〔濱野周泰〕 [関東]
 31 真鶴半島のお林〔正木隆〕 [関東]
 32 東京大学千葉演習林〔當山啓介・久本洋子〕 [関東]
 33 遷移がみえる三宅島の森林〔上條隆志〕 [関東]
 ・解説3 攪乱と植生遷移〔吉川正人〕
 34 御蔵島のスダジイ林〔上條隆志〕 [関東]
 35 小笠原の低木林〔安部哲人〕 [関東]
 36 佐渡島の森〔崎尾均〕 [中部]
 37 埋没林〔志知幸治〕 [全国]
 38 上高地のケショウヤナギ林〔新山馨〕 [中部]
 39 中部地方の氷期的針葉樹林〔勝木俊雄〕 [中部]
 40 木曽のヒノキ林〔岡野哲郎〕 [中部]
 41 東京都水道水源林 〔泉桂子〕 [中部]
 42 富士山をとりまく森林〔長池卓男〕 [中部]
 43 函南原生林〔澤田佳美〕 [中部]
 ・解説4 気候帯と森林帯〔相場慎一郎〕
 44 能登半島のアテ林 〔小谷二郎〕 [中部]
 45 海岸クロマツ林〔坂本知己・小倉晃・大谷達也・萩野裕章〕 [全国]
 46 熱田神宮社叢〔橋本啓史〕 [中部]
 47 海上の森〔中川弥智子〕 [中部]
 48 台場クヌギ〔深町加津枝〕 [近畿]
 49 六甲山の再生林〔石井弘明〕 [近畿]
 50 万博記念公園の森〔森本幸裕〕 [近畿]
 51 春日山原始林〔名波哲〕 [近畿]
 52 スギ人工林・ヒノキ人工林〔横井秀一・上野満・高橋絵里奈・伊藤哲・太田敬之・島田博匡〕 [全国]
 53 大台ヶ原の森林〔明石信廣〕 [近畿]
 ・解説5 保護林 〔笹岡達男〕
 54 伊勢神宮宮域林〔島田博匡〕 [近畿]
 55 隠岐・島後のスギ林〔湯本貴和〕 [中国]
 56 西日本のブナ林〔永松大・比嘉基紀・金谷整一・作田耕太郎〕 [西日本]
 57 指月山の萩城城内林 〔永松大〕 [中国]
 58 弥山原始林 〔坪田博美〕 [中国]
 59 小豆島のアベマキ林 〔大住克博〕 [四国]
 60 択伐が行われるスギ・ヒノキ人工林〔宮本和樹〕 [四国]
 61 石鎚山の森林〔比嘉基紀〕 [四国]
 62 樵木林業を支えたウバメガシ林〔佐藤保〕 [四国]
 ・解説6 暖温帯の里山〔佐藤保〕
 63 上勝町高丸山千年の森 〔鎌田磨人〕 [四国]
 64 龍良山の照葉樹林〔真鍋徹〕 [九州・沖縄]
 65 虹の松原〔作田耕太郎〕 [九州・沖縄]
 66 九州の照葉樹林 〔川西基博〕 [九州・沖縄]
 67 綾生物圏保存地域 〔山川博美〕 [九州・沖縄]
 68 霧島山周辺の森林 〔伊藤哲〕 [九州・沖縄]
 69 屋久島の森〔相場慎一郎〕 [九州・沖縄]
 70 奄美・琉球の森林〔高嶋敦史・川西基博・渡辺信〕 [九州・沖縄]
 ・解説7 残念な姿のスギやヒノキの人工林〔横井秀一〕

この中に私が訪れたことのある森林も多い。そこで、知っている森の項目に目を通す。関西圏はほぼ全部知っているから。知っている森と記載を比べる。

そこで気づいた。これは個別の森の内容を伝えようとしていなかった。いわゆるガイド的な要素は少なく、むしろ学問的な解説だ。それぞれの森の魅力を紹介しているのでもなく、森の歴史も含めた生態系を紹介している。人工林も多いから、林業の歴史や過去に人が手を入れた過程も記されている。

一方で森林別に取り上げるなら当然入るであろう世界遺産の白神山地が登場しない。かろうじて本州中部以北のブナ林」に組み込まれている。ほかにも溶岩台地の上に成立した珍しい森・青木ヶ原は「富士山をとりまく森林」に含まれる。かといって同じ様な森をまとめているのではなく、地域別だったり、生態系別に取り上げた、なかなか独特な構成なのであった。

また万博公園の森や明治神宮の森のような、ほぼゼロから人間がつくった森も登場する。台場クヌギのような炭焼きによって誕生した森も分けている。面積としては1ヘクタール以下の極小の森もある。

ここで気づくのだ。これは日本の森の一覧解説ではなく、日本の森林生態系の一覧なのだと。土地・地域と結びついた森林紹介というよりは、日本にある森林生態系を整理して紹介しているのだと。森を形作るさまざまな要素、地質に気候に動物に菌類、人の関与まで長い歳月の末に成立している森林を切り分けたのか。

そう考えると、特異な本、図説となる。樹木図鑑や木材図鑑、最近は葉っぱ図鑑や木の実図鑑まであり、森林図鑑もかろうじてある。が、森林生態系図鑑なるものを、私はこれまで見たことがない。専門書ならば生態系別に解説しているケースはないではないが、辞書・図鑑的な取り上げ方をしていない。

そういや、第2部は「生き物たちの森林」で哺乳類から鳥類、菌類まで、つまり植物以外の生き物を取り上げ、第3部は「森林と人」として人為を紹介する。

これは分ける必要はあったのかな。第1部が樹木を中心とした植物の生態系ということなのだろうが、いっそここに動物も菌類も人類も、全部組み込めなかったのか。まさに菌類や人類も関わって生態系をつくっているのだから。そして日本にある森林生態系を機能別一覧にできなかっただろうか……私ならこの切り口で編集するな、と考えるのは、昔取った杵柄の編集者としての感覚が消えていないからかもしれない。

あ、もう一つ気づいた。これ、「図説」とあるのだが、意外や図は少ないよ。写真も数はそこそこあるが、小さめ。文章中心だ。普通の本でも添えてある程度の図説写真である。タイトルに偽りあり(笑)。

 

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