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森と林業の本

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2024/10/20

読めるか?読まずして語るな!『鯨鯢の鰓にかく』

このタイトル、読めるだろうか。意味はわかるだろうか。

けいげいのあぎとをかく。鯨鯢は雄クジラと雌クジラのこと、鰓はあぎとと読み、エラ、アゴのことで、クジラに飲み込まれそうになったが、アゴに引っかかって助かった~そんな絶体絶命な状況を示す。まさに現在の日本の捕鯨業界を指す。

『鯨鯢の鰓にかく 商業捕鯨再起への航跡 山川徹著 小学館』

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同じ物書きとして、こんな難しいタイトルは販売に不利ではなかろうか、と心配してしまう。だが、意味は、ぴったり内容と合う。日本の捕鯨は、厳しい反対世論を受けて、調査捕鯨を経たうえで領海内商業捕鯨を復活させ、ギリギリ踏ん張っている。

著者は、2007年から3度も捕鯨船に乗り(調査捕鯨2回、商業捕鯨1回、のべ百数十日)、200人に迫る捕鯨関係者や研究者に取材をしたという。その密度は濃い。仕事内容はもちろん、プライベート面まで踏み込んで聞き出し、論文を含む文献を渉猟し……多数の人に時間をかけて取材するのは実に大変だ。物理的な意味だけでなく、18年にも及ぶと昔の記憶がおぼろげになり精神的にも揺れ動く。私なら、と自問すると首を横に振りたくなる。ちなみに私が土倉庄三郎関係の取材を始めて19年も経ている(笑)。

単に情報が密なのではない。捕鯨船に乗る人、研究する人、経営する人、反捕鯨を唱える人……とさまざまな立場の姿が見えてくる。その中からは、世間の間違った認識も浮かび上がる。今後、捕鯨を語るには欠かせない書籍となるだろう。

あえて印象的な部分を指摘すると、反捕鯨世論を盛り上げてしまった一因には、水産庁の近視眼的な政策がある。同時に日本の水産業界のどうにもならない乱獲体質と違法操業のオンパレードがある。

ただ、その汚名を拭うために調査捕鯨や復活した商業捕鯨では、極めて厳密で科学的な資源管理が行われている。

そして最後に著者が指摘するのは「敵をつくれ」である。IWC脱退は必然であったようでいて、実は敵を失うことであった。議論の喪失は、不正や隠蔽、そして独善を生み出すとする。クジラのあぎとに引っかかって、かろうじて生き長らえた捕鯨は、独善によって滅ぶかもしれない。いや、むしろ捕鯨は厳しい国際世論のおかげで持続的にせざるを得ないよう拮抗しているが、ほかの魚類の漁業は極めて危うい。


私も、同様の言葉を林業界に投げておこう。違法行為のオンパレードと近視眼的な政策はまったく同じだ。そして、どこからも脱退していないのに「敵がいない」。

国民はなぜか林業界に優しく増税を黙って受け入れ、木材業界も建築業界も、そして官僚も(森林を破壊して)木材消費を増やすことに大手を振って賛成している。何より市民が林業を手放しで応援している姿は、私には気色悪くて仕方ない。多少の不正にも目をつぶり(というより関心がなく)、地球環境のため?と称して林業を推進している。

よほど思考を停止しているのか、単にアホなのかは知らないが、真っ当な頭があれば、この欺瞞に気づくだろうに。林業は基本的に自然破壊なのだ。それを、人間社会の需要にすり合わせて破壊を少なく回復を速やかに進め資源の有効活用を進めるのが林業である。その点は、自然資源を獲る水産業もまったく同じだろう。

タイトルが読めずしても、捕鯨を知りたければ読まずに済ますなかれ。

 

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