理想の林業~台湾の公有林がFSC取得
台湾は、公有林すべてがFSC(森林管理協議会)の森林認証を取得した。認証取得面積は160万ヘクタール近く、台湾の森林面積の71.5%を占める。つまり、台湾の森林の7割以上が認証されたのだ。これって、驚異的。
もともと台湾は森林率が63.13%(2022年)と高いのに林業はほとんど行われていない。木材需要の99%は外材に依存している。だが、台湾にも人工林は相当ある。人工林率は20%程度だが、面積にして42万ヘクタールだ。適切に管理して木材生産を行えば、かなり自給できる。
ただ台湾社会では伐採に関する懸念が強いため、伐採を始めるには、まず社会の信頼と支持を得ることが必要だった。その手段の一つがFSC認証の取得なのだろう。森林認証、とくにFSCは、森林の環境基準を審査する比較的厳しい認証だ。
森林認証だけではない。小規模でも美しい森林開発「里山イニシアティブ」を掲げているし、木材だけでなくキノコや森のハチミツなどの非木材林産物も生み出す、森林セラピーも推進する……と盛りだくさんの政策を掲げている。そして社会と環境のモニタリングデータを6か月ごとに公開し、一般の人々の意見を聞いて森林管理計画を見直し改訂しているという。
林業自然保護署の林華清署長は、すべての公有林がFSC認証を取得することは台湾林業の新時代の幕開けであると強調し、世界の林業のトレンドと一致していると唱えた。(どーでもよいが、林華清とは、なんと役職にピッタリな名前だろう!)
気づけば、台湾では、野心的で挑戦的、そして理想の林業政策を掲げていたのだった。
さて、私自身の今年を振り返ると、今年は6月と9月の2度も台湾を訪問した。とくに9月は阿里山の森を歩いてきた。
タイワンヒノキの巨木林を見たかったのだが、現状36本しかない(巨木はほとんど伐ってしまったことは事前に知っていた)。そこで実際に見たのは何か。そこで驚いたこと、それは……。
これは28番巨木とナンバリングされたタイワンベニヒノキ。直径3~4メートル級なのだが、見てほしいのはその周辺の木だ。細いというだけではない。樹種はわかるだろうか。
スギだ。そう、スギ林と化していた。阿里山と言えばタイワンヒノキ……ではなく、今やスギなのである。それは伐採跡にヒノキではなく日本のスギを植えた林政があったからである。
遊歩道沿いも、巨木の切り株は多数あるが、その周辺に生えているのは、多くがスギ。台湾にとっては外来種。
直径30センチ以上あるから、九州なみの成長速度として、樹齢は50年くらいか。ちなみに巨木を伐り尽くしたのは帝国日本ではなく、戦後の蒋介石の国民党政府。スギを植林木として選んだのも国民党政府だろう。どういう判断だったのか。スギの方が成長が早いから?タイワンヒノキの植林方法が確立されていない?
今後の台湾の林政はどちらに向かうのかわからない。原植生を重んじたら、ヒノキ植林に変えるかもしれない。
台湾を日本が領有してから、多くの林学者や林政担当者が渡台したが、そこでめざしたのは「理想の林業」だった。国内では往々にして地元の慣習や伝統に縛られるが、新天地なら科学的に理想の林業を実現できる、と考えたのだろう。それが成功したかどうかは微妙だが、現在の台湾は自らの意志で理想の林業をめざしているのかもしれない。
日本の林業は、今一度、理想を掲げて希望の林業をめざす志を持ってほしい。それこそ国有林全部にFSC認証を取って見せたらどうか。目先の数字を追うのではなく、樹木の時間で数百年先を見通すべきだ。さもないと、いつまで経っても絶望の林業のままだろう。
そう言えば6月の訪問時には、国立政治大学の王雅萍副教授にお会いした。彼女は少数民族研究の関係から、土倉龍次郎の林業開発を取り上げている。台湾で唯一の土倉龍次郎研究者でもあった。その際に私が森林ジャーナリストであり、日本の林業についての著作もあると紹介されたので、「台湾で林業の講演をしてくれ」と言われた。土倉龍次郎ではなく、林業の話を(^^;)。
有り難い話である。実現したら楽しいだろうな。日本の林業を反面教師にしてもらいつつ、台湾林業の未来も語りたい。そのためにも「龍次郎伝」を早く書き上げたい。ついでに?『山林王』も台湾で翻訳出版されることを期待したい。
これを2025年の目標としよう。
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