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2024/12/14

「自然」の経済……生態経済学プラス1

このところの私の講演、とくに林業関係のテーマでは、ネイチャーポジティブについて語ることが増えた。いきなり地球環境問題を持ち出すと林業関係者は引くのだが、あえて強調している。なぜならネイチャーポジティブは森林と林業活動に直結しているから。そして、この認識が世界の潮流となってきたからだ。ネイチャーポジティブを無視した林業は時代後れ、いや産業として失格の烙印が押されるだろう。

そんなときに「生態経済学」という分野があることを知った。地球環境問題を毛嫌いし、CO2地球温暖化説を必死で否定する。そのうえで産業は儲けるため、林業で儲けたいんだ、という時代後れな人向け(笑)。

もっとも、「生態経済学」は生態系で儲けるための学問ではない。生態経済学とは、経済は社会と有限な生物圏に組み込まれていると考える。現在の生物多様性の重要性を説くネイチャーポジティブの礎とも言える学問であった。

この新しい学術分野を提起したのは、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのロバート・コスタンザ教授である。1989年にISEE(国際生態経済学会)を設立した人だった。そして持続可能な社会の実現に向けた政策提言を行っている。

私が知ったのは、公益財団法人旭硝子財団が主催するブループラネット賞(地球環境国際賞)の2024年に受賞したからである。なぜか私の所に案内が来るようになった。本年度の受賞者はロバート・コスタンザ教授と、受賞団体である生物多様性についての知見と科学的評価を提供している政府間組織IPBES(イプベス)のアン・ラリゴーデリー事務局長とルサンド・ディジバ博士。

生物多様性と生態系サービスの科学的評価を通して、持続可能な経済活動へのパラダイムシフトの実現を提言

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これまで生態系は、人間社会にも多くの恩恵、サービスを与えていることは指摘されて来た。いわゆる「生態系サービス」だ。

供給サービス:食料、水、原材料、エネルギー資源など、人間が生きていく上で欠かせない基本的な資源の生産や供給を担う。
調整サービス:気候調節や洪水防止、水質浄化、授粉など、自然現象を調節し環境リスクを軽減する。
文化的サービス:レクリエーション、景観、精神的・宗教的な価値など、豊かな文化や幸福など物質的ではない恩恵を与える。
基盤サービス:栄養循環や土壌形成、光合成など、全ての生態系サービスの基盤となっている。
ただ、これを唱えても人は動かない。そこで経済学的な価値を見える化したのが、生態経済学と言えるかもしれない。
教授の論文によると、(1997年『Nature』の『世界の生態系サービスと自然資本の価値』)、全世界の生態系サービスの価値を体系的に試算した結果、当時の米ドル換算で年間33兆ドル(2007年のドル換算で44兆ドル相当)に達したという推算を明らかにした。この金額は当時の世界のGDPを上回る価値なのである。
日本でも、よく日本の森林の経済的価値を年間6700億円……などと発表している。もっとも、これは木材やキノコ生産からの計算で、生態系サービスは入っていない。そこで林野庁が、水質の浄化や二酸化炭素吸収などに対する評価を加えると、総額でざっと75兆円とした。
まあ、数字の根拠はあやふやなので厳密に考えることではないが、こんなにあるんだから大切なんだ! と訴える効果はありそうだ。
もっとも、それなら年間に開発で減った森林の面積や林業で伐っている木材の量から、生態系サービスの減少分も計算して引くべきだろう。
私は、経済学の中では行動経済学が好きだ。ようは人間の心理を経済的行動に組み込んだ学問で、単純な損得では動かない行動の解析が面白い。林業家は、なぜ損する行動ばかりを取るのか、という謎を解きあかしてくれた(笑)。
ならば、生態経済学にも人類の行動面を組み入れられないか、と感じる。ようするに行動生態経済学である。
なぜ人類は自然を破壊するのか、なぜ環境問題を毛嫌いする人が一定数いるのか、なぜ行動する人の足を引っ張るのか……といった点を心理学的に解明してくれるかもしれない。
ちなみに教授の言葉にいま必要なのは、成長中毒社会からの脱却」がある。いわゆる脱成長だろうが、とにかく成長しなければ死ぬ、と勝手に思い込んでいる人が少なくないことも事実。ひたすら規模の拡大を求める心理を解明しないと、それを抑えることもできないだろう。
成長中毒こそが環境嫌いを生み出し、環境嫌いの人ほど陰謀論を生み出す……というのが、私の仮説( ̄ー ̄)ニヤ。
この際、陰謀論行動生態経済学を提起すべきか……と夢想したのである。

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