『日本の森林』に書かれていること
四手井綱英・京都大学名誉教授の『日本の森林』を改めて目を通している。サブは「国有林を荒廃させるもの」。
なんと1974年の出版である。私は、少し遅れて80年代に購入したのだと思う。それにしても、その内容の新しさ…というべきか、今の時代にぴったりだ。まず目次は、こんな風。
日本の森林と林業の現状
造林技術のあり方―生産力増強計画(拡大造林計画)を批判して
続・造林技術のあり方
いいたいことをいわしてもらおう
森林生態学の歩み
生産力増強と短期育成
亜寒帯の森林生産力
広葉樹林について
秋田の天然スギ
木曽谷のヒノキ
裏木曽・飛騨視察記
九州の照葉樹林
自然開発・自然保護・林業
私は大学生の時に読んだのかと思うが、よく覚えていない。ただ、四手井氏の本はかなり読んでいる。この本にも、蛍光ペンなどの書き込みが多くある。
ここで、ああだこうだと本の紹介はしないが、とくに目を止めたのが最後の章。
そこに「これからの林業を考える前提条件」が記されている。
まず林業は、時間がかかるので未来は誰にもわからない点が記されている。今、ヒノキが売れるからと言ってヒノキを植えても育ったころの市況はどうなっているか。といった点だ。「全く不思議なことに、森林育成の長期性にかかわらず、いわゆる林業人は、こうした目先の動向の変化に非常に敏感であり、だれかがこれがよいと提案すると、すぐそれに便乗してしまう。」とある。
これは、今なら「もっと敏感になれよ!」と思ってしまうことも多くて、便乗してほしいほど鈍感なのだが。
そのうえで前提条件は、
(a)自然は自然としてもちいるべきである
(b)森林の生産物である木材の主な用途はやはり建築材料、とくに内装用の美術品として用いられる公算が多いであろう
(c)外材の輸入は当分続くがしだいに少なくなってくるであろう
(d)林業労働者は今後も減少するに違いない
なんか、今でもぴったり合う。とくにbの「内装用の美術品」という点が、私の予想と重なる。ただし用いられるというより、用いられるべき、なんだが。
そして「私の考えるこれからの林業」の項目。
(a)樹種の多様化
(b)長伐期・高蓄積林の実現
(c)全国土、全気象区にわたって自然保護地として保存せられるようになるし、またそうすべき
これまた私の意見とぴったり!
なぜ私がこのような意見を持つようになったかと言えば、この本を読んだからではなく、その後の森林現場、林業の実情を取材する過程で行き着いたのだろう。この本のことはすっかり忘れていたのだから。つまり実直に現場を見れば、行き着く意見は同じになる。
なお四手井氏は、林業研究者であると同時に日本の森林生態学の泰斗、創始者と言ってもよい。森林生態学を知った上で林業を考えた結果の意見なのだ。林業に関わる人は、すべからく森林生態学を学ぶべし、という私の意見にも合致する。
今では、なかなか手に入る本ではないが、多少とも内容を知ってほしい。
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四手井先生の本は「四手井綱英が語る これからの日本の森林づくり」を読みましたが、森林学・林学をある程度学んだ者にはぜひ読んでほしいものでした。もちろん今の知識の上では全面同意はしかねる部分もありますが、概ねは同意できますし、何よりそういう考えに至った思考や経験を共有していただけるのは貴重です。学問は歴史や知識、考え方の積み重ねですが、最近の林学はその部分が弱い気がします。林業というと戦後林業を親している気がするので
投稿: 0 | 2025/02/20 09:13