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2025/04/04

「反共感・非共感」の業界

イーロン・マスクは「西洋文明の根本的な弱さは共感だ」と訴え、他者に共感することの害悪を唱えたという報道は、一時期話題を呼んだ。

『反共感論』という本も出ており、人が他者に対して共感することを否定・批判する声は一定数いるようだ。

そりゃ、行き過ぎた共感が同調圧力となり、間違った行動を取ったり暴力を生むケースもあるが、共感そのものを否定してよいとは思えない。

しかもマスクは、自分が自閉スペクトラム症であることを認めている。この発達障害の一種は、対人関係が苦手でコミュニケーション困難のある症状を持つ。だから自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを察したりすることが難しいのだ。言い換えると共感ができない・共感しにくい性格なのである。これを突き詰めるとサイコパスとなる。他人の痛みを共感するどころか理解できず、苦しむ様子を平然と楽しめる。

そんな彼が共感を否定しているというのは……。

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この話を聞いて私が思い出したのは、最近の進化論、とくにホモ・サピエンスの生き残りに関する仮説だった。

10万年程度前には、地球上に多くの人類がいたらしい。有名なのはネアンデルタール人だが、ほかにもデニソワ人など幾種類もの人類が存在した。その中でなぜホモ・サピエンスが生き残れたか。知能や体力で言えば、ネアンデルタール人の方が高かったという研究も出ている。大脳の大きさは我々を凌駕していたし、筋肉もたくましく、力が強かった。だが、弱い我々が生き残った。

その理由を「共感」に求める研究が最近増えている。ホモ・サピエンスは肉体的には弱かったが、他人への共感性が強くて、助け合いが行われた。集団も家族単位のネアンデルタール人より大きいな数十人の村をつくった。それが社会性を生み出して狩りによる獲物の確保や、氷期を生き延びる手立てとなったという。コミュニケーションの発達も知能を高めることにつながる。

集団生活によるコミュニケーションでは情報の交換と集積を強め、他者の行動や獲物の出現などの未来予測を可能にする。また共感するゆえに争いを減らし、攻撃性を弱めて個体数の拡大をうながす。

これは、人類だけでなく多くの動物にも当てはめられるようだ。

オオカミの攻撃性を弱め共感性を強めた遺伝子が、イヌを生み出した。それを動物の家畜化という言い方もするが、誤解を呼ぶ表現で、ようするに他者と仲良く暮らせる進化なのである。

実は人類も家畜化することで穏やかな社会を築いてきたとする。

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さらに『マザーツリー』で示されたように、植物だって助け合うことが知られてきた。異種同士が水や養分を分かち合い、敵に対処するというのだ。

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反共感論は、こうした人類進化の決め手を否定していることになる。

米・トランプ政権のメンバーは、概してみんな共感性が弱いようだ。トランプ自身は、共感性が弱いというより目先のことしか考えない・考えられない人間のようだが、未来予測ができない点では似ている。身の回りの人には共感し、今現在の状況には強く反応するが、遠くの人・将来の可能性には興味を抱かない人間だと思う。

米政権の「関税」政策が、今後引き起こす大混乱は、きっとアメリカ自身を痛めつけるだろう。関税で守られたアメリカの商品は、競争を失って進歩しなくなるし、世界中から反感を買ったからだ。

アメリカは、これまでも横暴な面もあったが、西側諸国内では最終的に「味方」してくれると思われてきた。それを破壊したのだから、もはや信頼を失ったことになる。一度失われた信頼感は、長く続く。仮に政権交代が行われても、すぐには取り戻せない。
もう、アメリカから武器を買わなくなるかもしれない。アメリカの重要な産業である軍需産業は痛手を受けるだろう。しかし信頼できない国の武器は購入できない。航空機も、自動車も買えない。

さらには基軸通貨としてのドルも危うくなる。最終的な決済はドルで行うという世界経済の常識は、アメリカが保証してくれるという信頼感で成り立っている。それがなけれはドルを使わない決済が今後広がるのではないか。

……と、アメリカの政策を論じてみたところで、最後に日本の産業界に当てはめると、林業・木材産業は共感が極めて弱い業界だ(笑)。

山主、素材生産業者、木材市場、製材業者、建築業者……いずれもお互いを信頼せずに、情報も交換せず、いかに他者を出し抜いて自分だけが儲けられるかを考えている。他者他業種への共感はなく、同業者もライバルとしか見ていないのではないか。業界の発展よりも自分ファースト。

ほれ、トランプ政権と似ているでしょ( ̄ー ̄)ニヤ。

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コメント

その通りです。
木材業界は、自分だけ保護主義です。
…しかし、実は誰もが儲からずに大手ハウスメーカーや商社に搾取されているだけだと思います。
既得権益を一旦ぶっ潰して、ゼロから組み直さないと、農業と同じく一次産業は日本から消えますよ。さて、木材生産より環境整備に精を出しますかな。

たしかに「誰も儲からず」状態かもしれませんね。
林業家は、別の収入源を確保していることが多くて、実際のところ林業には興味を失っているケースも多いでしょう。

ここで「共感」という言葉がよいのかどうかはさておき、業界全体が連係して情報と利益を適正配分しないと未来はないでしょう。業界は崩壊し、各々単独の商売になるのではないですかね。規模は現在の10分の1にもならないと思うけど。
その時は環境業にするしかないのかも。

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