セルロースナノファイバーの罠
私は、セルロースナノファイバーに関して懐疑的だ。
素材としては認めているし、まあ、今後技術が進めば(現在は、まだ実用化レベルに到達していないと判断する)そこそこ普及するんじゃないの、と思っているが、少なくても林業や木材産業に寄与することはない。経済的にも怪しい。採算が合う気がしない。
それなのに注目させようとするのは、単に夢物語をばらまいて、林業に希望を持たせて後に突き落とす罠だと思っている。
そこに、こんな研究発表があった。東大のHPにもあるが、こちらは研究comより。
細胞壁セルロースのミクロフィブリル(ナノファイバー)は、植物種に依らず、形状が均一であった
難しそうに書かれているが、要旨は次のようにまとめられている。
発表のポイント
セルロースナノファイバー(CNF)の断面寸法は、産業上の主原料である針葉樹に限らず、草本類の麻や、木本と草本の中間的な分類とされる綿であっても、ほぼ同一の2~3nmであり、CNF1本(植物学上のミクロフィブリル、またはセルロースの結晶子)は、セルロース分子鎖18本で構成されるモデルが合致することを明らかにしました。これまでのセルロース結晶学では、樹木と麻・綿のCNFは、断面寸法が明瞭に異なり、別種の生合成機構が想定されてきました。この従来の理解は、これまでCNFを単離(孤立分散)させる技術がなく、複数の結晶子が合一したCNF凝集体を評価していたことに由来します。本成果により、高等植物であれば、木本と草本に差はなく、同様の機構で生合成していることが新たに想定されます。また、産業上も、樹木だけでなく、麻やエリアンサス、農業廃棄物等からも、均質なCNFを生産できることを本成果は示しています。
これでも難しい(笑)。そう思ったら、最後の列辺りだけを読めばいい。
高等植物であれば、木本と草本に差はなく、同様の機構で生合成している
産業上も、樹木だけでなく、麻やエリアンサス、農業廃棄物等からも、均質なCNFを生産できる
樹木だけななく、草本植物や農業廃棄物からもつくれるよ、ということだ。
よくセルロースナノファイバーを説明する図として使われているのだが、これは樹木から取り出すような説明になっている。だが、本研究からはどこから取り出してもつくれるよ、質は同じだよ、ということがわかったのだ。
そうなると、わざわざ樹木を伐ってきて、細かくすりつぶして……という手間をかけずに、簡単に栽培する、いや草刈りするか、廃棄物を利用する方を選ぶわなあ。その方が安く原料を得られて経済的にペイする。価格も下がるかもしれない。
となれば、木材需要が増えるとか単価が高くなるとか、林業関係者が一縷の希望を託したようなセルロースナノファイバー信仰は崩れ去るのである。間違っても林業には寄与しない。
セルロースナノファイバーに期待を寄せるのは、合成樹脂とかガラス、金属、そして食品・薬品系の素材開発者業界だろう。プラスチックの中に閉じ込めて強化したものが、果たして環境に優しいのかどうか知らないけどね。
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セルロースナノファイバーの件は、10年以上前から地元の森林研究所で研究されています。
集成材やCLTよりもさらに歩留まりが悪そうで、木材需要振興にはほんの少し…いや、僅か役立つかも知れませんが林業振興には全く役立たないと思いますよ。
投稿: 山のオヤジ | 2025/04/20 20:42
ここだけの話、セルロースナノファイバーを研究している人が、「これはダメだ」と言っておりました(笑)。
あ、ここだけの話ですよ( ̄ー ̄)ニヤ。
投稿: 田中淳夫 | 2025/04/21 20:09