吉野杉箸再生プロジェクト、その背景
先日、テレビ局の取材を受けた。番組で割り箸を取り上げたいという。私が割り箸を取り上げたYahoo!ニュースの記事に目を向けたようである。
私は、割り箸のことならと歓迎して受けたのだが……なんか、おかしい。企画の説明を聞けば聞くほど違和感。
番組はまだ放映されていないので詳しく記せないのだが、取り上げるスタンスは「割り箸は間伐材、端材からつくるもので環境に優しい」というのが大きなテーマのよう。世界中で見直されて広がっている。生産量も伸びている。具体例に上げるのは吉野(下市町、吉野町ほか)だ。割り箸生産の7割を担っている!とある。
ちょっと待った! と声を上げる。日本で使われる割り箸の99%は輸入であることを無視している。7割が吉野でつくっていて、それが間伐材や端材を材料にしている、だから環境に優しい!!と言われても。
実は、番組プロダクションの面々はそのことを知っていた。だが、あえて触れないつもりだそうだ。局の意向でもあるという。それを持ち出すと話がややこしくなって、企画が成立しないうんぬん。
それはダメでしょう、と強くいう。ほかに割り箸消費量は年間250億膳とか、江戸時代の鰻屋が割り箸の発祥とか、時代を間違えた認識ばかり。ネット検索で出てきた2000年代の統計や伝承ガセネタをそのまま使っている。
「現在の割り箸は多くが輸入」であると説明するよう強く申し入れた。国産割り箸の現状や数字なども訂正させた。ただ、どんな番組になるかはわからない。「現在、割り箸は多くが輸入ですが、日本でつくっているうちの7割は吉野で……」とナレーションを入れて、国産割り箸の生産方法だけ紹介すれば、嘘ではないが、割り箸の作り方はこうだと勘違いされるだろう。そして、私が強調した国産割り箸の危機や最新動向(高級化路線など)が全然伝わらない。その点は紹介したくないらしい。「盛り上がらない」からだ。
むなしさを感じたのだが……。
吉野の下市町「吉野杉箸商工業協働組合」で、このようなプロジェクトが立ち上がっている。
一見したところクラウドファンディングの申し込み窓口である。ただ、よく目を通してほしい。
すでに工房は、下市町に5軒ほどしか残っていないというのだ。仰天である。私が最初に割り箸取材を始めた20数年前は、たしか60軒くらいあった記憶がある。その後減り続けて、数年前の取材でも10軒程度はあったと思うのだが、また半減! このままでは職人も、その製造の技も消滅してしまいかねないのだ。もはや求められる需要に応えられる生産量が維持できない。
そこでプロジェクトでは、町の空き家を工房に改造して、新たな職人(候補)を呼び込もうというものだ。
本プロジェクトでは、吉野杉箸の伝統を未来につなぐため、以下の3つを目指します。
1.空き家を改修し、若者が集える割り箸工房を再生する
2.地域住民・移住者・職人が共に働ける新しい仕組みを作る
3.国内外に吉野杉箸の魅力を発信する体験型観光拠点とする
クラファンで空き家を住めるようにして割り箸工房に改修しようというわけだが、町の制度もあるし、移住者受け入れ方策の一つと考えてよいだろう。
・空き家改修費(屋根・内装・水回り等)
・割り箸製造機材の整備工房の防寒・断熱・電気配線工事
空き家を工房として提供すると言っても、それですぐに割り箸職人の希望者が来るとは限らない。ただ(高級割り箸の)需要は伸びているというから、希望はある。もちろん、相当な努力と覚悟は必要だろうが。
安直なテレビ番組も、これを機会に割り箸に興味を向けていただければ可能性は広がるかもしれない。
ただ奈良県の伝統産業だというのに、県の動きは鈍い。奈良墨とか奈良筆、奈良晒……などは重みがあるが、割り箸を軽んじていないか。割り箸は樽丸づくりから派生しており、いわば割り箸も吉野林業の一角である。一時期は、吉野材を建材にするより割り箸の方が高く売れると言われたほどだ。それを失うことの重大性を感じてほしい。
吉野杉箸は、今どき流行っている中国製の竹割り箸とはまったく別物であり、その技術と生産流通システムを失っては取り返しがつかない。
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割り箸に興味があるので、よろしかったら、番組名といつ頃放送するのかを教えていただけませんか。
(ちなみに私は「ヤラセのないテレビはない」というのが持論です(笑))
投稿: Lago | 2025/07/30 01:04
これほど腐しておいて、紹介するょはマズいです(笑)。まあ、私も出演したわけですから。
放映は8月初旬と聞きました。放映されたら、ネットでも見られますよ。
投稿: 田中淳夫 | 2025/07/30 11:38
ありがとうございます。
探してみます。
投稿: Lago | 2025/07/31 08:42