『伝統木造建造物のサスティナビリティ』で考える石油と木材
イラン情勢で語られる政府の文言『石油は全体としては足りている』。
これに腹が立つ。実際に困っている業界や市井の人々を無視して、「全体としては」という理屈で誤魔化している。
そして、これは「日本の森林は、全体としては豊かになっている」という林野庁の言い分とまったく同じ論法だ。いや、さらに進んで「だから、どんどん伐るべき」としている。伐採跡地も、計算上は森林にもどって、また蓄積を増やしていることになっている。
日本の森林の蓄積量は増えていると言うが、現実に皆伐が進んではげ山が増え、その跡地も草が生えているだけ。また木は生えていても細くて曲がりくねった、建材にはならない品質なのである。
日本は、歴史上常に大木が伐られてきた。それによって木造建築物が建てられてきたが、もはや長大材は残り少なくなった。ならば集成材に頼るか、と言えば、いやいや伝統建築は、やっぱり無垢の大木を使わなくちゃね、という宗教的?ドグマに支配されている。
そこで、こんな本はいかが。
『伝統木造建造物のサステナビリティ―大径材の確保策と森林政策』。
(峰尾恵人著・京都大学学術出版会)
目次
序章 伝統木造建造物用材の確保策へのアプローチ
第1部 森林政策としての「高品質な大径材」確保策の必要性(大径材供給の持続不可能性;経済学的分析から見る高品質な大径材の入手難;大径材確保策の論理の検討)
第2部 政策の担い手に関する実証的検討(森林計画制度の二面性と長期的不安定性;国有林における大材生産政策の通史;国有林における大材生産政策の現状と課題;寺社による森林経営の可能性の検討)
終章 伝統木造建造物用材の未来に向けて
補論1 持続可能な社会への移行と森林・林業の未来
補論2 林業経済学分野の歴史と展望
主に社寺建築を中心に、どんな木を、どのように調達して使用してきたかを追いかけた労作である。ある意味、いかに日本の仏教など宗教勢力が、日本の森林を破壊してきたかを知ることができる。
ヒノキが尽きたらケヤキに移り、タイワンヒノキや米材、そしてアフリカ材にまで手を出す姿が浮かび上がる。
生後の政策的としては、森林計画にも踏み込んでいる。実は、本書はまだ精読中だ。ここでは本論より補論1に触れたい。なぜなら、ここで「物質・エネルギーの流れと林業」に踏み込んでいるからだ。そして石油と木材の比較を行っている。
こんなグラフもある。
石油の需要が増えると木材の需要も増える、という相関。
昨日アップされた現代ビジネスの拙文「石油高騰が招いた“第2のウッドショック”到来……!」にもつながるだろう。
林業の持続性を論じるには、こうした視点を持たないと、「全体としては足りている」という世迷い言を唱えるだけになるよ。
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コメント
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鎌倉時代の南都復興では遠くからも調達したようです。
大木は寺社くらいしか使わないので計画的に残す必要があると思います。データーベースを作るべきでしょう。伐採、搬出、乾燥・加工、を含めて持続できるでしょうか?
投稿: 野村民夫 | 2026/04/19 19:33
無理でしょう。みんな、隠すから。
それに、もう残っていないのではないか。首里城にも使ってしまったし。
林野庁お勧めの樹齢50年くらいの木からラミナを取って張り合わせて使えばよろし。
投稿: 田中淳夫 | 2026/04/19 20:56