『台湾山岳大横断』で思い起こす龍次郎の探検
昨夜、NHKBSで『台湾 山岳大横断』という番組があった。
登山家・田中陽希が台湾の台東の東海岸から3000m級の山岳地帯を縦走し、台南の西海岸まで行くドキュメンタリーである。以前より気に留めていて録画のセットもしていた。なおNHKONEでも見られる。
台湾の山岳地帯の様子がよくわかった。ただ、この撮影隊はどうしたのだろう、とふと疑問。彼と一緒に全コースを踏破したのか。それならカメラ機材を担いでの登山となり、田中クン(なれなれしい)よりすごいぞ。途中、幾度もドローンを飛ばしているし。途中の山小屋などで撮影隊の入れ代わりはしたのだろうか。
私の目的のもう一つは、土倉龍次郎の台湾縦断を想像するチャンスだと思ったからである。龍次郎は台北から台南へ、山岳地帯を90日かけて縦断している。それも1896年だ。残念ながら記録がないので具体的な様子はわからないのだが、その片鱗を今回の旅で感じ取れないか、と思ったのだ。記録としては、今回の横断よりもすごい。
龍次郎は、先住民をガイドに行ったので、必ずしも山の頂を究めるようなルートはとっていないが、縦断とは別に台湾最高峰の玉山を初登頂したとされるだけに、その山の様子は気になる。
また田中クン(なれなれしいってば)は、途中、巨大な切り株を見ている。

ナレーションで「戦後の台湾経済を支えた」とあるから、タイワンヒノキだろうか。蒋介石時代だろう。日本でも台湾でも、タイワンヒノキを伐り尽くしたのは日本時代と思われているが、実際は戦後の方が伐採量は多い。
一つ気になったのは、こんな大草原に出くわしていること。
なぜ、ここに草が生えないのかわからないとあるが、台湾の山は意外とはげ山が多い。一応、原住民が伐ってしまったと説明されているが、それ以上に木が生えない地質のところもあるのかもしれない。
なお、田中クン(しつこく、なれなれしい)は台湾の山岳地帯を一人で肉体で横断するというフィジカルな冒険だ。たしかにきついが、一応はトレイルも整備されていて、キャンプ場や宿もある。
その点、龍次郎は地図もないまま、先住民の案内を乞うて、彼らの道を進んだ。隊員は6人くらいいて、クーリーも雇った。こちらは未知の地を進む探検だ。危険度は、道行ではなく、先住民にいつ襲われて首を狩られる恐れの方が大きかった。
この点を私は証言を集めて、執筆した「(仮)龍次郎伝」にこのように描いた。
「今日は殺されるんではないかと思った日もあったそうだよ。ある村では男たちが『殺せ、殺せ』と言っていたらしい。ただその日、目が痛いという女に持っていた目薬をさしてやったら、よくなったという。その女が止めてくれた。さすがに、あの時だけは覚悟した、と父様が言われていた」
「(木の)枝が折れててまだ間がない所を通った時、生蕃が今通ったに違いない、逃げた方がいいと急いで走って下ったら、すぐ後で鉄砲の音がした」
村と村の間を移動する時も警戒は解けない。ピリピリした雰囲気が伝わってくる。
また崖下を歩くときは、鉄砲で撃たれたら逃げ場がないから、案内に立った酋長とその息子が龍次郎を挟んで歩いたという。原住民の案内人にとっても仲の良くない部族の領域を歩くときは命懸けだったのだ。それでも龍次郎を守る姿勢を示してくれた。龍次郎が十分な意思疎通を重ねたおかげだろう。
「ある時なんか、軒下に取ってきたばかりの首が吊るしてあって、血が垂れていた。さすが、気持ちが悪かったと言ってらしたよ」
龍次郎が残した写真の中には、原住民の村を訪ねた際に撮ったと思われる、頭蓋骨が並べられた棚が写っているものもある。
これは奥さんのりゑが聞いた話を後に語った記録を元にしている。
この原稿、なんとか日の目を見せるつもりである。
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