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森と林業の本

2024/09/14

「シカの王国」奈良の真実

奈良といえばシカ。大仏よりシカ。自身を持って言えるが、そこで全国でシカの獣害が酷いけど、奈良だけはシカを駆除しないでね、というトンチンカンな声が聴こえてくる。またシカのジビエを食べてよいのか、というご意見を頂戴する。

たしかにナラシカは保護の対象だが、それはいつからか。

そこで平城宮跡のいざない館に行くと、こんな展示がある。

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奈良の都で食べられていた食事なのだが、よく注目してほしい。上段右だ。

「シカ肉のしおから」。

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これは讃岐からの献上品とあるが、シカ肉を野菜などに付け込んだ発酵食品か。 漬け物のようなものだろう。もともと漬け物は肉が素材だったのである。さらに干し肉もあったようだ。

つまり奈良の都では、よくシカ肉が食べられていた。実は都の周辺で狩りをしていた記録もあるし、奈良の都をつくるために奈良盆地を切り開く過程でも、シカを随分捕らえたようだ。

奈良のシカが神様の使いになったのは、都が建てられて以降の話なのである。

むしろ都が平城京から長岡京、平安京へ移って奈良がガラガラになった頃、平安貴族が南都を訪ねてシカの群が元の都の大通りを走る姿を見て感激したという記述もある。それから神様へとなっていく。

ところでシカ肉のしおから、どんな味だろう。奈良のジビエとして売り出せないだろうか。

2024/08/01

「恐怖の生態学」覚書

なにやら煽り気味?のタイトルをつけたが、この「恐怖の生態学」は、現在の野生動物生態研究で、わりと注目されている理論である。

これまで野生動物の行動は、餌と天敵(捕食動物や人間の駆除など)、それに繁殖相手を軸に論じられることが多かった。

そこに捕食されなくてもいるだけで怖い(笑)存在も、行動に影響を与えるという観点も必要だろうとなってきた。

ネイチャーブリーフィング
大型肉食動物への恐怖は有蹄類の生息地利用と関連している:二因子実験からの証拠

大型肉食動物が大型有蹄動物に与える恐怖は、食物連鎖を通じて連鎖的に影響を及ぼすと主張されてきた。しかし、有蹄動物の生息地利用と大型肉食動物への恐怖との直接的な関連は、実験的に検証されたことがない。この重大なギャップを埋めるため、我々はアフリカのサバンナで二因子実験を行った。実験的に伐採した場所と低木のある対照地の両方で、低木を取り除いて、大型肉食動物の鳴き声(ヒョウ、ハイエナ、イヌ)または脅威のない対照の鳴き声を流した。我々は、複数の獲物(インパラ、イボイノシシ、ニャラ、ブッシュバック)の積極的反応(訪問頻度)と受動的反応(逃走または警戒)を記録した。重要なことに、我々は有意な積極的反応と受動的反応の相互作用を発見した。

私は、まだ生半可にしかかじっていないのだが、クマやイノシシ、シカなどの野生動物の獣害対策に考えるべき重要なファクターになるのではないか、と思っている。

ごくごく簡単に論じれば、シカやウサギなどの動物は、肉食系の天敵となる動物が存在していることで、自然界で恐怖を味わい、それが行動に一定の影響を与えているのではないか、という発想だ。同じくクマやイノシシなども、人間がウロウロしていると警戒して出没が減るかもしれない。

だから山の中で人がワイワイ騒いでいたり、しょっちゅう銃をぶっ放していたら、怖いから逃げる、避けるわけだ。

それを証明するための研究や実験が各地で行われている。

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 この理論をもう少し詰められないか。

2024/07/30

野生生物を守るのは「やさしさ」?「かわいさ」?

このところ、否応なしに野生動物問題、とくにシカやクマなどの獣害多発に触発された記事の執筆やコメント、そして講演まですることが多い。
私は動物の研究家でもなけれは動物専門ジャーナリストでもないのだが……。

それで私も最新情報を身につけようと俄か勉強を繰り返しているのだが、そこで岩波ジュニア新書『野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?』を読んだ。

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ジュニア新書だけあって、するすると読んでしまった。内容は……正直に書けば、想定どおり。

世に害獣と言われる動物は多いが、それらを駆除するだけでは解決しない。冒頭に年間何十万ものシカを駆除しながら、東京都内に出てきたシカ1頭を保護しようとしたりする“事件”を紹介しているが、ほかにも似た例がいくつも登場する。
沖縄の漁師を困らせるウミガメを駆除したら世間から叩かれるが、漁師の立場もある。さらにウミガメが磯の海草や藻を食べ尽くす問題もある。ウミガメの卵を保護したら、それまでその卵を餌にしていたヘビが困って、島のトカゲを食べて、結局はヘビもトカゲも減少してしまった……。
外来種駆除と言っても、どれが外来なのか在来なのかも時代によって変わるし、自分が好きな動物は外来種であってもかわいそう……。
一方で人が手をかけてつくってきた環境(たとえば農地や草地)が生物多様性を作り出してきた面もあるから、人為をなくしても困る……。

こうした例がいっぱい並んでいて、それはそれで知識にはなるのだが、ではどうするの? となるわけだ。

結論めいたことは書いていない。両立させる方法を紹介するのはなかなか難しい。読む前から、そんな結論になるのではないかな、と予想した通りであった。では、読者はどうするの? 知識から知恵をなかなか生み出せない。これが現実か。

 

ところで、私が本書で気になったこと。タイトルに「やさしさ」が入っている。また本文には「かわいそう」が多用されている。どちらも人間の感情であり、やさしさとかわいそうという感情が野生生物を守る行動の原動力になっているかのようだ。

だが、私はそれを超えたメタ感情として「かわいい」が強烈に作用しているのではないか、と考えている。かわいいと感じる動物(植物も)は保護する、かわいくない、もしくはかわいらしさに気づけない遠い存在は保護しないし、無視する。

わかりやすいのはイヌやネコだろう。なんで人だけでなく環境にも害をもたらすノライヌ・ノイヌ、ノラネコ・ノネコを必死で保護するのか。これって動物差別、レイシズムじゃね? 

目先の一頭のシカもかわいく見えるから保護するが、害獣としてのシカは何万頭いようが、かわいい姿顔が見えないので駆除しても平気になってしまう。この行動原理を説明するのは、やさしさではなく、かわいいという感情で読み解かないと理解につながらない。

私は、人という動物はかわいいものを目にすると、脳内にドーパミンがどばっと放出されるのではないかという仮説を立てている。この快楽にとりつかれると、いかなる理論も用をなさない。人は、かわいいと感じた際に得られる快楽に依存する、いわば「かわいい依存症」患者だからだ。(もしかしたらドーパミンではなく、オキシトシンかもしれない。攻撃性を弱め幸福感をもたらすのかもしれない。)

では、何が人の脳を刺激するのか。快楽ホルモンもしくは幸福ホルモンを分泌させるのか。どんな遺伝子に操られているのか……と詰めていくと、まだ納得いく解答は出ないのだが。。。

拙著『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』と『獣害列島』では、こうした切り口から考察したのだが、そこで浮上したのが、アニマルウェルフェアノンヒューマン・パーソンズの概念だ。ここを掘り下げると、手がかりがあるように思える。理解する事例として、奈良のシカに注目したい。ナラシカは、害獣であり、観光資源であり、信仰の対象だ。ただのシカではなく神鹿。この「かわいい」存在を守るために涙ぐましい努力を1000年続けている。そこにヒントはないか?

せっかくだから紹介しておく。

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2024/06/23

謎のハイブリッドグマ

先日、某地方紙の記者が生駒まで取材に来た。特集記事の中で林業の実情を取り上げるから話を聞きたいとのことだった。

大型企画の担当で、わざわざ奈良まで足を運ぶ(最近は、経費の面からなかなか長距離泊まり掛け出張が許されなくなってきている。とくに地方紙は……)というのだから、ベテラン記者かな、と思っていたのだが、生駒駅の改札口で待ち合わせて出会ったのは、意外や若い女性記者であった。

さあ、取材に入る前の雑談に何をするか。車で移動する最中、若干悩む。お互い?探るように世間話をする。

入社4年目なの? 記者稼業はどう? 楽しい?とかなんとかオジサン的な質問をしているうちに、人生相談ぽく(ここでオヤジ化する)なるが、聞いてみると農学部卒。なんだ、私と一緒か。専門は? と聞けば、なんと森林科学系なのであった。私と同じや、それなら林業もそこそこ知っているでしょう。卒論何やったの? とまたオジサン的質問。

すると、クマの生態を追いかけていたというのだ。森林とクマの専門家(見習い)ではないか。ただ、クマの記事はまだ書いたことがないというのだが……。

えっ、私も卒論は動物追いかけていたんだよ、扱ったのはカモシカとかアカネズミだったけど、クマの冬眠穴調査もやったんだぜ、と、若い女性記者との共通点をせっせと探すのは、やはりオヤジ化したのかも。

ここでクマの話で盛り上がる。その際に話題になったのが、ハイブリッドグマの話題だ。

クマの出没が毎日のようにあるが、その中でいきなり飛び出したハイブリッドグマの噂。ようするに東北地方では、通常のツキノワグマの2倍ぐらいある巨大クマの目撃例が増えているという。しかも凶暴。これはツキノワグマとヒグマのあいのこ、つまりハイブリッドではないのか?と言い出した人たちがいる。これにマスコミは飛びついた。

「ヒグマとツキノワグマの悪魔合体が起きている」…!いま秋田の猟師たちが恐れる「最凶のハイブリッド熊」の正体

「何年も前から、一般的なツキノワグマの倍ほどもある大型の個体を見たと、山の仲間たちは話していました。私たちは、ヒグマとツキノワグマが交配して誕生したであろう彼らを『ハイブリッド個体』と呼んでいます。ヒグマの体格と獰猛な性格を受け継いだ個体が、秋田の山の中をウロウロしていると思うと、恐ろしくてたまりません」

何のことはない、秋田県で聞いた噂をそのまま垂れ流しているだけだ。

真面目に考えれば、津軽海峡があるかぎり両種の出会いもないし、野生状態のツキノワグマとヒグマが交配するとは考えられない。出会えばヒグマがツキノワグマを食い殺す可能性だってある。遺伝子的には、クマ同士ならかろうじて一代雑種はつくれるかもしれないが、それが巨大になるとか凶暴になるかどうかもわからない。病弱になる可能性だって高い。

では、正体は何か。ツキノワグマとは世界的にはクロクマの仲間である。だからアジアクロクマとも呼ぶ。アメリカ大陸にはアメリカクロクマがいるが、それがデカいのだ。立ち上がると2メートルを超す個体もいる。アメリカのヒグマ、グリズリーと比べると小さいのだが……。

ツキノワグマも餌が豊富になって、また長生きをすることで巨大な体格を手に入れた個体もいるのではないか。私の見解としては、餌の量が増えると、クマの数が増えるだけでなく、巨大化したツキノワグマが出現するのかもしれないよ。

とまあ、こんな話をしている時が、もっとも楽しい(^^;)。若い記者に説教を垂れるのが趣味ではないのである。

もちろん、取材には前向きに応えましたよ。絶望の林業の話を(-_-;)。彼女、『絶望の林業』と『虚構の森』を持参していた。有り難い。ただ図書館からの貸し出し本であった。『盗伐 林業現場からの警鐘』は買ってね、とお願いしておいた。「はい、Amazonでボチります」との返事にゴキゲンになったのであった。

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みどりのシロクマ?????これもハイブリッドだろうか。価格はなんと9割引!

2024/05/14

Wedgeに「都会にも増えるクマの出没……」を書いた裏事情

(いつもはYahoo!ニュースをアップした際に書いている「裏事情」シリーズ、今回はWedge on line」でもやってみた)

Wedge on line に〈都会にも増えるクマの出没〉生息地の環境悪化が原因じゃない、動物たちが人里に来るワケを大解剖を執筆しました。

これ、書いて納めたのは黄金週間明けなんだけど、本日アップ。ところが、その前日に、こんな記事がYahoo!ニュースにあって

市街地のクマ対策で秋田県の佐竹知事 市街地での発砲も可能とする猟銃の弾力的な扱いを国に要望へ

こちらにコメントをつけた。もちろん別の記事、別のテーマなのだが、出だしが同じ話題。

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私としては、一度の執筆用資料調べで二度美味しい……わけである。それに「都会に憧れる野生動物」というのは、私にとって『獣害列島』で予言したテーマで、それが見事的中した事例になった。逆に言えば、『獣害列島』の出版は、ほんの少し早かったか。今ならもっと注目浴びたのになあ。

ともあれ、これまで億劫がっていた自身の仕事の拡散を、もっと積極的にやっていこうと思ったのでありました。

 

 

2024/05/05

そうだ、奈良行こう!!!

京都に行った限りは、奈良にも行かねばならない。

やはり、奈良も混んでいた。国の内外の行楽客でごった返し、駅のホームに下りても前に進めないほど。これが仕事でなかったら、逃げ出したくなる。仕事とは、もちろん奈良公園の奈良のシカ、ナラシカのご尊顔を仰ぎ奉るためである。奈良県民は、年に幾度はナラシカに詣でねば市民権を剥奪される。ま、実際は仰ぐというよりは見下ろしていたが…。

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驚いたのは、素性の悪いナラシカが増えたこと。赤信号を渡っているではないか。こんなことは、コロナ禍前にはなかったことだ。コロナ禍で人気がなくなったのをこれ幸いと信号無視を覚え、コロナ禍明けのインバウンド景気で外国人からの人気が集まったためか、そこのけそこのけ、ナラシカ様が通る…と神鹿としてのマナーを失ってしまったようだ。ああ、嘆かわしや。

そして、見つけた植物虐待の動かぬ証拠。

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ここまで木が太るまで何年かかったか。その間、放置したのか。柵を外す木づかいならぬ気遣いはなかったのか。

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パイナップルではないよ。

目が汚れたので、萬葉植物園に入って美しい花を愛でようと思ったが…。

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名物の藤の花は終わりを迎え、カキツバタが咲いていた。

2024/03/20

ナラシカに癒される

先日、奈良公園を訪れる。

もはや名物のナラシカ(奈良のシカ)と外国人の戯れ。ペコペコおじぎをし合ったり、スマホでシカと並んでの自撮りに必死になったり。

そして横断歩道で青信号を待って渡るシカ……あれ?

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なんと、信号無視するシカがいた(-_-;)。赤信号だぞ。車も急停止。シカたがないなあ。

シカし、それもまた不良シカがいたという.ことで、どこにも公衆ルールを守らないヤツがいることにホッとする面もある。

さて、今度は東京帰り。夜遅くなり、最終に近くなって疲れ気味であったが、近鉄奈良線の快速急行に乗ると、ナラシカトレインであった♪

これも名物になりつつある。そして、癒されるぜ、この車内には。

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2024/03/05

ヤマイヌとニホンオオカミ

先日からNHKで流れていた、このニュース。私は、正直呆気に取られた。何?これ。

はく製は絶滅したニホンオオカミか 気づいたのは都内の中学生

ようするに国立科学博物館に所蔵されていたヤマイヌの剥製を見て、当時小学生だった小森さんが、「ニホンオオカミではないの?」と感じて、その後調べて、今回はとうとう科博の研究員も加わって論文にした、やはりこれはニホンオオカミだった、というもの。

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しかし、この前提であるヤマイヌとは何?

そんな動物は日本にはいないはずだが。まさか山で、野生化したイヌ、ノライヌ、ノイヌを指すわけではあるまい。

江戸時代は、ヤマイヌとオオカミは別の動物とされてきた。しかし、現在ではどちらも同じか、イヌとオオカミの混血をヤマイヌと呼んだとされている。実際、両者の混同はややこしくて、シーベルトがオランダに持ち帰ったニホンオオカミの毛皮とするものも、実はラベルにはyamainuと書かれているらしい。

このニュース、科博の研究員も加わっているのだから、まさか単なる混同だと思わないが、それならヤマイヌの定義をしてもらいたい。完全に独立した種としてヤマイヌが認められたのなら、そちらの方が大発見に思う。

同時にニホンオオカミとどう違うのか、今回の“発見”は、どこをどう調べてそういう結論に達したのか。

ちなみにニホンオオカミは、DNA的にはイヌ、それも日本の柴犬に酷似しているそうだ。ユーラシア大陸にいるオオカミとは離れているのである。西洋イヌと日本イヌ、タイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)とニホンオオカミ。これらの関係はどうなってるの?

こうした点を押さえずに報道されても困る。ただ少女がこんな研究して論文書きました、これにニュースバリューかあるぞ!そんは発想ではないか。かなり生半可な、いい加減な記事、ニュースだ。

まあ、昨日は東吉野村に行って、最後のニホンオオカミ像の前で記念撮影してきたこともあり、ひっかかる。

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2023/12/25

不死身のシカ考2

奈良の春日大社の鎮守の森である春日山原始林は、天然記念物であり世界遺産である。

その森をムシャムシャ食べているのが、同じく天然記念物の奈良のシカだ。おかげで原始林は林床がスカスカになってきた。また稚樹が食われるので大木ばかりの高齢化が進んでいる。とくにシイ・カシ類のドングリも食べるので次世代が育たない。また下生えがなくなれば昆虫も減る。それに、春日山から出て周辺の田畑を襲う。農作物を食べても駆除されることない。

というように、シカ害が問題になっているので、少しシカを減らさないか、有体に言えば駆除できないか、という声もある。保護しすぎだというのである。たしかに現代は、ざっと1200頭も奈良のシカはいるが、山の扶養能力からすると、多すぎるようだ。

004_20231225095801若草山のシカ

しかし、だよ。シカの保護は平安時代より続いているのだ。中世の頃は、シカを殺せば首が飛んだ。シカ一頭首一つ、と木曽檜みたいな扱い。江戸時代の犬公方・徳川綱吉の「生類憐れみの令」でも、奈良ではイヌよりシカの方が大切にされた。落語「鹿政談」のような話もある。

その頃も、春日山原始林はシカの住み処であり、かなり食われていたはずだ。

それとも、春日山もシカも守られる自然の摂理か政策があったのか?

これは、私が『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』を執筆の際に、非常に悩んだところだ。いかに説明するか。

結論としては、当時の春日山原始林は、やっぱりボロボロだったんじゃない?ということである。

何か自然界では人か手を加えないと多様で豊かな森が残ると思いがちだが、それこそが間違った思い込みではないか。森とシカがぶつかれば、森は食われて、不死身のシカが勝つのだ。

ただ明治時代に奈良県の県令(知事)が、奈良のシカを狩の対象として追い込んだ。捕まえてすき焼きにした。檻に閉じ込めて餓死させた。だから減ったので、森の植生は蘇った。それは戦後も同じだ。食料難で奈良のシカは密猟されたのだ。

結論。シカのいる自然界は、森がボロボロになる。それこそが自然の摂理だ。

とまあ、こういう論考になった。(詳しくは『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』をお読みください。)

2023/12/24

不死身のシカ考1

今年はクマの出没問題がクローズアップされたが、もともと獣害と言えばシカである。クマなんて人身被害がなければ、ほとんど問題にならなかっただろう。クリスマス・イブの夜だし、シカについて考えた。ヾ(- -;)

シカは、植物質ならなんでも食べる旺盛な食欲と、4、5年で生息数が2倍になると言われる繁殖力で、植生を破壊する。

天敵のオオカミは当てにならない。オオカミが捕食するシカの数などしれたものだ。江戸時代からオオカミがいても数は減らなかった。
ハンターも同じ。現在、年間70万頭以上も駆除しているのに、減らない。
繁殖率が高いうえに、近親交配しても平気。数頭が数百頭まで増えても、遺伝子は異常をきたさないらしい。
シカがバタバタと死ぬような病気も見当たらない。冬の寒さにも耐える。
生まれる数が、どうもメスの方が多い気配がある。雄はハーレムをつくるから繁殖率は想定以上に高いかもしれない。
餌となる草木が減っても、それまで食べなかった樹皮でも落葉でも、毒を含む植物でも食べて生き残る。以前は食べないとされたアセビやシダ植物をもりもり食べる姿を見た。
さらに餌が少ないと体格を小さくするが、数はなかなか減らない。栄養失調になっても死なない。

もはや種として不死身だ。個体は弱くても、種としては叩いても叩いても復活する。

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おかげでシカが増えた森は、植生が破壊される。下生えの草木がなくなることで、昆虫も鳥も減る。裸地になることで土壌流出が増え、より自然破壊が強まる……と言われている。だから、駆除しなければならないのだと。

さて、ここからが疑問だ。まるで弱肉強食とは、肉食動物は弱くて何でも食べるシカは強い、という意味のようだが、それは生態系としておかしいのではないのか。シカは、地球の生態系からはみ出した異物みたいではないか。

そうではなく、シカがいて成り立つ生態系があるはずだし、シカの生息数をコントロールする要素は何かあるはずだ。

この思考続く。

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