期待できる?国産材輸出の新鋭「木炭」
岩手県からスイスに高級木炭の試験輸出が始まった記事を目にした。
なんと500キロ。1回の出荷量としては、なかなかのものだろう。高級レストランの炭火焼き料理に使うそうだ。輸入元は日本の七輪も扱っているそうで、高級木炭を探して久慈市の谷地林業に行き着いたという。今後の継続的な輸出も考えて、1社ではなく北いわて木炭産業振興協議会で対応することになったという。
このニュースの一報を聞いて、なるほど、この手があったか、と思った。炭焼きは世界でも突出した技術だ。海外に、日本の白炭(備長炭)とか茶道用の菊炭のような木炭を製造する技術はないだろう。炭焼き技術が世界レベルなのだ。だから高級木炭という加工品を海外輸出するというのは、面白い動きかもしれない。高級木炭は煙がほとんど出ず、火持ちもいい。
岩手は木炭生産量日本一だが、高級木炭の産地は全国にあるのだから、それぞれが輸出先を開拓したらいい。どうせなら七輪とセットで売る。日本料理レストランに限らず、炭火焼きは通用するはず。また一部で人気の飾り炭の様なアートとしての木炭も海外向きかもしれない。
菊炭(左)と紀州備長炭(右)
なぜ、木炭輸出に期待するかと言えば、政策的に進められている木材輸出がイマイチだからだ。近年日本からの木材輸出が増えているが、扱われるのは低価格のB、C材ばかり。高級材(A材)も製材品も求められない。輸出量は増えても、林業家の利益は小さいのである。
私は、その理由に日本の木材加工技術と商品開発のレベルの低さがあると思っている。特に海外に受け入れられる商品をつくる能力が極めて低い。いや国内向きも一緒で、本当に求められる木材商品を生み出せないのが、日本林業の低迷の理由だろう。
だいたい川上(木材生産)・川中(木材加工)側が、川下(木材消費)を全然見ていない。建築材か?家具か?建具か? 何が高く売れるか考えない。ニーズも把握していないし、高くても欲しくなるものを作り出せない。自分たちの都合のよいものを勝手につくって「買え!」と言っているレベルだ。しかも製材精度もいい加減・乾燥もいい加減だ。
エンドユーザーを見ていないから原料輸出に甘んじて価格もたたかれる。日本の木材産業の構造的問題だ。たとえば現在の日本木材の主要輸出先である中国は、「高級材はカナダ材を使う」と言ってる。原木の品質が高いからだけではない。カナダ材の売り主は、最終商品を見て輸出してくるからだ。
こう書くと、嘘だ、日本の加工技術は高いと反発が出るのだが(笑)、ここにも勘違いが見える。なるほど、一部の木工職人・家具作家レベルで見ると、日本の技術もなかなかのものだろう。だが、木材を削る技術は高くても、ニーズをつかむ能力は低い。「高くてもほしい」と思わせるデザインセンスもない。独りよがりの「和風」デザインには辟易する。加えて輸出するには、それなりの品質を均一につくり、商品のロットを揃えなければならない。単品輸出ではメリットはないだろう。
なんだかぼやきみたいになったが、そこに木炭という商品が登場したわけである。炭焼き技術なら海外と張り合えるかもしれない……。
ただ近年は、日本の炭焼き職人が中国に行って、白炭の焼き方などを教えている。だから、最近は備長炭と言っても中国産も増えてきた。またおが屑を固めた「備長炭」もある。これらは日本の最高級の木炭ほどではないが、そこそこの品質を誇っている。これらは張り合うには、しっかりしたブランド化と真似されない最高級の製炭技術を確立しなければならないだろう。
ただ……記事をよく読み返したのだが、肝心の価格は書いていない。日本の市場価格より高くできたのか安く設定してしまったのか。そこがポイントなのに(泣)。スイスは世界有数の高物価国だから、少々の高値でも気にしないと思うが。
加えて私が危惧するのは、そのうち林野庁が白書に載せたいとか言ってすり寄ってきて、よし輸出振興しようとか旗を振り補助金をバラマキ始めることだ。そして、とにかく量だ、たくさん輸出するんだ、みたいにせっつかれる。官僚は、輸出量を実績にしがちだから。そうなると価格を落としてでも量を売ろうとするかもしれない。差額は補助金で穴埋めするから、安くてもいいかと。しかし価格勝負になったら、中国産備長炭にかなうわけない。気がついたら高級木炭市場も奪われてしまうだろう。
林野庁は、せっかく芽生えた新ビジネスの芽を摘み取るのが名人級だ(笑)。木炭輸出に補助金が出始めたら、そしてそれを輸出業者が受け取ったら終了だろうなあ。
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