昨夜まで東京に行っていた。何をって、いろいろあったのだが、最大の目的は「文楽鑑賞」。
演目は「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」という大作で、なんと3部構成10時間! 休憩は幾度かあるが、全部合わせても2時間ぐらい。つまり約8時間座りっぱなしで鑑賞したことになる。多分、途中で逃げ出すだろうな、ずっと寝ていたりして……とか想像していたのだが、しっかり全部観きった! 途中幾度かは睡魔に襲われたけど、全体としてはじっくり鑑賞、感動したのであった。
そもそも演目は、奈良が舞台である。まず妹背山とは吉野川の両岸にある二つの山のこと。話は天智天皇を軸に展開するのだが、場所は飛鳥だけでなく三輪山に奈良の猿沢池も登場すれば、吉野川も重要な役割を果たす。そして奈良のシカを殺せば死刑……というネタもあって、時間も舞台も時空を飛んでいるのだ。
話も盛りだくさんで、悲劇かと思えば吉本ばりの喜劇要素もあるし、ホラーにもファンタジーにもなる。自分の幼い息子殺しとか猟奇的な場面さえあった。
さて、せっかくだからトリビア的な指摘を(^_^)
これは、妹山背山の段。真ん中に流れる川は、吉野川(え?)右手が背山、左手が妹山。川をはさんでのやり取り(いや、吉野川は幅100メートル以上あるんだけど……)の末に、妹山の女性は首を打たれて背山の男の元に運ばれ、首だけの花嫁になるのであった (゚o゚;) 。
で、この両屋敷の障子。木枠に紙を張ったものは、飛鳥時代にはなかったと思われる。わずかに正倉院に残るものにそれに近い家具があるとされるが、当時、紙は貴重品でこんな一面に貼れなかったはずである。
さらに、写真はないのだが、この障子を開けると床の間が登場する。またひな人形が飾られている。う~ん、これらも登場したのは室町時代だなあ。また首だけの花嫁の婿となる男は切腹しながら結婚式を上げる… え え、え~(゚o゚;) が、切腹も鎌倉時代から室町時代の武士の作法である。このように時空を飛ぶ(^^;)。
こういうツッコミばかりだとイヤラシイので、もう少し楽しい話題として、権力を握った蘇我入鹿の豪華な御殿について語ってみよう。
それによると「メノウの梁、サンゴの柱、水晶の御簾、ルリの障子」だという。どんな建築物なんだ。さらに飛び石はコハク、砂は金銀。釣殿に登ると春日の杉は草のようで、猿沢の池もお庭の井戸に見える。どんだけ高いんだ。
よい匂いがするのは、縁側の板が伽羅と沈香だから。どちらも香木である。そして学問所は唐木~カリン、紫檀、黒檀、タガヤサン(鉄刀木)と南洋の稀少木の名が続く。まあ、その後、掛け合い漫才のようになっていくのだが……。
この演目は江戸時代中期に成立したようだが、この時代の木材の使い方や、価値基準などが読み取れて面白い。
なお、私が東京まで観劇に行ったのは、招待されたから。なぜならテキストにこんな記事を書いたからである。

奈良のシカを殺すと死刑というのは、この文楽で取り上げたこともあって世間に広く知られるようになる。ちょっと誇張も入りすぎだが、伝説をつくった作品である。

実際の観劇には、このテキストを首ったけで突き合わせながらであったv(^0^)。さもなきゃわからない。
この表紙の女・お三輪は、登場時分は喜劇的だったのに、最後は残酷な殺され方をする。これも涙。
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