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森と林業と田舎の本

2021/03/02

日本農業新聞『獣害列島』書評

日本農業新聞の書評欄に『獣害列島』(イースト・プレス発行)が紹介された。2月21日である

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面白いのは『けものが街にやってくる』(羽澄俊裕著 地人書館発行)と抱き合わせであること。こちらの本は、私も先に紹介している(リンク先参照)が、拙著と同日に発行された獣害の本なのである。さすが農業新聞、獣害問題を扱う本には敏感だ。

幸か不幸か、獣害として真っ先に来るのは農業被害であり、それだけ敏感ということだろう。実際に拙著の紹介の中に、「被害に遇っている農山村の住民を除いては、ほとんどの人が野生動物による「獣害」の実態を知ることはない」と記されている。

両書とも、前提として今後は街に野生動物が出てくるようになり獣害が広がると予測しているのだけど、その原因の指摘の仕方は違う。羽澄氏は人口減少が動物を呼び込む点を強調している。そして私は野生動物の生息数が増えて、新天地を求めて都会に出てくるとした。この考え方は表裏一体だから、どっちが正しい・間違っているとする問題ではないけれど、そろそろ行政も本気で向き合った方がよい。街・都会への動物の進出は、一面で農業被害よりはるかに恐ろしい事態になりかねない。

ちなみに農林水産被害総額が年間1000億円を超えている、とあるが、私は識者の声に「実態は被害額として上がっている金額の5倍に達するだろう」とあったのを援用して、ざっと200億円の被害額を5倍にしたものだから、確定したものじゃない。ここには届け出のない被害額や、生態系被害・人身被害といった金額に変えられないものも含めている。1000億円という数字は大雑把に被害の大きさを伝えるための数字と思っていただきたい。

日本の農林業は縮小を続けているから、農林業被害だけをクローズアップしたら、今後減っていくだろう。むしろ増えるのは、生態系の劣化のほか、見えにくい人身被害、感染症の媒介などではないか。心した方がよい。

両書とも、ご講読あれ。

 

2021/02/27

渋沢栄一と「木を使うもの」の義務

遅れて始まったNHK大河ドラマ『青天を衝け』も、明日で3回目。正直、私はイマイチだと思っているが……(笑)。
なんか、初っぱなから引きつけるような魅力が描かれていないんだな。話が農民の渋沢と、将軍になろうとしている徳川慶喜の2本立てになっていて、焦点がぼやけているような気がする。

まあ、今後両者が発展し合一してからに期待したいところだ。それに、もう一つ。渋沢栄一は、日本の「資本主義の父」である点にも。封建主義を抜け出したばかりの日本にとって、万民が平等に力を競い合える資本主義は希望だったはずだ。それがねじ曲がっていく過程も見えるのだが……そこに彼の著書「論語と算盤」が登場するわけである。だから渋沢は、日本の「福祉事業の父」でもある。

近年は資本主義がブームみたいとところがある。『人新世の「資本論」』もベストセラー入りしつつあるが、そもそもマルクスの「資本論」は、何も共産主義の教科書ではなく、資本主義批判が基本だった。この本も、行き詰まった資本主義をいかに乗り越えるかという点から共同体コモンの復活を唱えているように思うが、それこそ「論語」の部分だろう。現在の資本主義が過去の封建主義に近くなってきている中、希望のイデオロギーは何か。

資本主義の父と資本主義批判の書がどう並び立つか。

とまあ、のっけから脱線しているが、渋沢栄一は、もう一つ、日本の「製紙の父」でもある。今に続く王子製紙を設立しているのだ。そこでは「木を使うものは木を植える義務がある」という思想を著している。実際、現在の王子ホールディングスは19万ヘクタールもの社有林を持つ、日本一の山主(第2が日本製紙の9万ヘクタール)なのも、その系譜を引き継いでいるからだろう。

果たして、現代の「木を使うもの」は、「木を植える義務」を果たしているだろうか。

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東京・飛鳥山の紙の博物館。その隣には渋沢史料館もある。

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渋沢栄一の本人の筆と思われるのだが……。

実は、渋沢と土倉庄三郎は昵懇の仲だったようで、度々両者は会っている。そこで多少とも渋沢の史料の中に土倉庄三郎が登場しないかと調べたことがあるのだが……残念ながら見つからなかった。膨大な量に負けてしまった面もあるが。

まあ、そんな目で「青天を衝け」を見たら、(多少は)面白くなるかな?

 

2021/02/15

無印の家って、何が売り物?

生駒の某住宅街の一角に「無印良品の家」の家が建ち始めた。

もともとあった家を解体して建て直しのようだが、ベタ基礎を打っていたので、そのうち木材が搬入されたら、どんな木を使っているかわかるな、と思いながら……。

で、仰天。1日で柱が全部立ってしまったよ (@_@)。さらに壁も張られてしまったよ。早い。

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その前に木材らしいものが運ばれていたのだが、パッキングされていたので中は全然見えない。建てたら否応なく柱が見える……と思っていたのだが、さっと立てられて、しかも周りにネットがあるから、まったく柱を観る隙を見せなかった。

無印良品は店舗の木装化が進んでいるから、どんな木を使うのか興味があったのだけどな。国産材か、それとも。

残念ながら「見せない」家づくり(笑)。周りはネットを張っているし、近くで透かしてみてもボードしか見えない。それが石膏ボードなのか合板なのかもわからないが、少なくても表面は木ではなかった。完成しても木造とわかるような造りではなさそうだ。


改めて「無印良品の家」を調べてみると、ホームページでは、家づくりの宣伝はしているが、会社概要などがわかりにくい。ただ住宅販売をしているのは「MUJI HOUSE」という会社であった。親会社の株式会社良品計画の子会社なのか。そして意外だったのは、MUJI HOUSEはフランチャイズ方式であること。直営ではなく、各地の工務店がブランドを利用している形だろう。もう設立して20年ぐらい経つようだが、あんまり着工件数は増やしていないから規模は中堅ビルダーぐらいなのかな。

そして建築士やデザイナーは外注しているらしい。さらに自由設計ではなく、モデルプランに絞り込んだデザインに手を加える方式。商品のタイプは3タイプある。これで規格化して価格を抑えたり品質保証をするのだろう。ホームページでは「木の家」「窓の家」「縦の家」「陽の家」の4つが紹介されている。
さらにSE構法と呼ばれる木構造技術を採用しているらしい。これがどういうものかよくわからん。接合部の金物に特徴あるらしいのだが……。
ただ、家づくりの理念はいっぱい書いてあるのに、具体的なことは何もわからん。写真は多用していて、参考にしてくれということか。

面白いのは4つのタイプの家の写真では、もっとも木が見えないのが「木の家」であった(笑)。ほかの家は、外観からして木がたっぷりなんだけどね。

結局、使われる素材はどこにも記されていなかった。おそらく、輸入された集成管柱なのだろう。とくに木材にこだわった、ましてや国産材をどうこういう家ではなさそうだ。せめてどこの国からの輸入か知りたかったのだが。

 

2021/02/14

農業共済新聞「自著を語る」

農業共済新聞という農業経営者向きの新聞(全国農業共済協会発行)があるのだが、そこで『獣害列島』が紹介された。

と言っても書評欄ではない。「自著を語る」という、まさに著者に自分の本を自分で紹介しろよ、上手く書いたら本が売れるぜ、文章力見せてみろよ、という欄である。いやいや、そんなイヤらしいことは一切言われていませんけどね(^^;)。若干、プレッシャーの強い欄なのである。

書きましたよ。400字であるからコンパクトにしなくてはならない。掲載は2月の2週号になった。

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私も考えた。何を書くか。本の内容をこの中で紹介してもしょうがない。それは読んでからのお楽しみにすべきだろう。本には書かなかったことで、本の全体像を見とれるようなことで、あ、この本読んでみようかなと思わせるようなことで、そうは言っても煽情的に読者に媚びたくもないし、もちろん正直に私の本は素晴らしいんだ、と訴えたいし……ああああ、なんとも悩ましいのである。

本書の読者はどちらかというと農業者が多いだろう。少なくても地方で獣害を身近に感じている人向きである。だから版元も河北新報に広告を打った。私自身は今は農山村から地方だが、そのうち都会にも野生動物は襲いかかるぜ、という気持ちもあるのだが、果たしてどんな読者層に届くか。

ともあれ、ご笑覧あれ。

 

2021/02/09

『獣害列島』8位!by三省堂農水省店

AFCフォーラム」という雑誌がある。日本政策金融公庫農林水産事業本部の出している機関誌だが、なかなか骨太の内容だ。多くは農業だが2月号は林業特集。

なかなか興味深い記事が並んでいるが、なんとなく登場するのに知り合いが多い……(苦笑)。巻頭言に「観天望気」に大分の林業家・後藤國利さんから始まり、最後のページの投稿欄に登場するのは……諸塚村の矢房孝広さんであった。北大の小池孝良さんの森林美学も語られている。

で、私が目を止めたのは、本誌には農水省地下にある三省堂書店の売上ランキングだ。

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8位に『獣害列島』が入っていた。このランキング、発売してからの反応が遅いのだが(^^;)、ようやく農水省でも読まれていることがわかった。

ちなみに本日は、オンラインセミナー「第56回提言・実践首長会」だった。各地の市町村の首長が参加して意見交換するのだが、今回のテーマは獣害問題。そこで話題提供としたのが、私以外に農水省と環境省からも野生動物関係部署の人が登場したのであった。私は話が重ならないように腐心したのだが、基本は『獣害列島』である。捕獲だ駆除だと殺すことばかり考えずに、防護と予防に力を注いでほしい。

 

ところで……このランキングのページ欄に載っている書評が、『新版 森と人間の文化史』(只木良也著)だった。只木先生の名著だが、あれ、新版が出ているのね。しかも、この書評での説明によると最初は『森の文化史』であり、それが『森と人間の文化史』(旧版1984年)発刊につながったと。なんだか、両方とも書棚にあるような気がする……。そして今度は新版。この流れだと買わないといけないかな(^^;)。30年以上経って、日本の森は何が変わったのか。

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2021/01/26

「木材・石炭・シェールガス」を読む

『木材・石炭・シェールガス』(石井彰著 PHP新書)を読んだ。副題は「文明史が語るエネルギーの未来」だ。

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著者は日経の新聞記者を経て石油公団で資源開発に携わり、さまざまな研究機関で調査分析をしてきたエネルギーアナリストだ。そして、この本の出版は2014年5月。この基礎情報を知っておいてほしい。

この本が説いているのは、一言で言えば再生可能エネルギーのまやかしだろう。木材から石炭、石油、原子力と流れてきた歴史を追いつつ、世界の潮流となった再生可能エネルギー(水力、太陽光、風力……)。これは地球温暖化防止の方策を模索した果てに選んだ道だ。

しかし、著者に言わせれば、まったく「貧相なロバ」であり、どれも使い物にならないのだそうだ。どれも実は支えているのが石油や石炭、天然ガス、そして原子力でつくられた安くて大量の電力であって、再生可能と言っているだけで、まったく機能していないという。それは欧米も同じで、進んでいるかに見える再生可能エネルギーの利用もデタラメ?というか、誤魔化しだらけらしい。電気自動車を増やせば増やすほど、CO2の排出が増えてしまう……。その中で新たな天然ガスと石油であるシェールガス(とシェールオイル)の実態も解説している。全体としては(シェールオイルではなく)シェールガスに期待する一方で、原子力に未練を示す(笑)。さらに地球温暖化の原因が人為的なCO2だということにも疑問をはさむ。(温暖化は認めている。)
一方で東日本大震災を経ているだけに、「日本で原子力はもう増やせない」ということも認めている。

私自身の感想としては、その通りだろうな、とは思った。個別項目には異議もあるが、全体としては同意せざるを得ない。残念ながら広く薄く存在しているエネルギーである風力や太陽光を集めるのは極めて難儀である。水力は、大型ダムによる発電なら効果的だが、もう適地がないと言える。それに環境破壊がひどい。さらに蓄電用電池などに必要なリチウムも稀少金属だけに広く薄く存在するので、採掘には莫大なエネルギーを消費してしまう。
再生可能というわりには、薄っぺらいエネルギーなのである。地球規模で考えれば、全然CO2の抑制にはならないし、電力料金も何倍にも膨れ上がってしまう。

ここで著者のエネルギー論や私の意見を事細かに紹介するつもりはない。

ただ、気になる項目がある。それはバイオマス発電を評価している点だ。そこで示される日本の森林・林業の状況などは、私に言わせれば素人的な理解の陥穽に落ちている(笑)ので話にならんのだが、「間伐材や切り落とした枝をペレットにして燃料とする」発電は日本に向いているとする。

本書を執筆したのは2013年~14年前半だろうが、このころバイオマス発電所はほとんどなかった。それゆえ理念的なバイオマス発電を描いているようだ。現在稼働しているバイオマス発電所が、「間伐材や枝」どころか燃やすために山を丸ごと裸にしていること、わざわざ海外からペレットやPKSを輸入していること、そして建築廃材のような産廃を未利用材と偽り高いFIT価格を適用させる詐欺まがいが横行していること……などを著者が知ったらどんな反応をするだろうか。

思えば私も、2000年ごろには木材エネルギーを推奨する記事を書いていた。理念的には優れていると思えたのだ。だが現実は、理念より目先の利益を求めて環境破壊を推進する方向へと進んだ。それは太陽光も同じだ。

では、どうすればよいのか。……答えはない。あるのはベストミックスを求めて右往左往するだけだ。(私は、既存ダムによる水力発電の拡大には期待できそうに思うのだが、これも理念だけかもしれない。)

とりあえず再生可能エネルギーの構造的欠陥を知るには勉強になる。

 

 

 

2021/01/22

森の教養~只木先生の非売本

京都府立林業大学校の只木良也校長より、「じいじ先生ちょっと教えて」という本の贈呈を受けた。

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只木先生は、日本の林学界の大御所だ。専門は造林学、森林生態学、そして森林雑学(プロィールより)。

私の書棚にも先生の本は何冊も並んでいるのだが、この本は初めてだ。それもそのはず、非売品である(^^;)。

このタイトルで気づかれた方もいるかもしれないが、もともと「森林雑学研究室」というウェブサイトがあり、その中に「じいじ先生ちょっと教えて」コーナーがある。さらに「只木良也のひとりごと」ブログも設けられている。このサイトは2009年にスタートしているから、もう10周年を一昨年超えたのだが、それを記念して、娘二人と孫娘が「森林雑学研究室かるた」というものをつくり、さらにその記事の一部をまとめた冊子として本書を作り上げたという。身内ネタも多いというが、もちろん森林雑学というには惜しいほど森にまつわる教養が詰まっている。

実は私もこのサイトはブックマークをつけていて、時折覗いていた。とくに本ブログのネタに詰まったときに何かヒントはないか……とネタ探しにネットサーフィンするのであった(^o^)。まあ、ネタにはならなくても森林雑学を身につけられる。今回は、まさにそのままネタにしてしまったけど。

その中の1ページぐらいなら、ここで引用しても怒られないだろう。

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冒頭に「生態学は現代の“聞き耳頭巾”」とある。まさに森林を眺めつつ、その変化を読み取ることこそが生態学のスタートだ。先に理屈を考える前に、まずは観察しよう。

それにしても只木先生、今年87歳だという。お元気だ……\(^o^)/。

 

私も、いっそブログの記事をまとめて本にするかなあ。非売本ならぬ非買本、誰も買わない本になるかもしれんけど。

 

2021/01/06

「けものが街にやってくる」を読んだ

けものが街にやってくる』(羽澄俊裕著 地人書館発行)を読んだ。

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このタイトル。まさに拙著『獣害列島』のテーマと被っている。私も、最終的には野生動物は街に進出してきて獣害は都市住民にも身近になるであろう、と考えているは記した。しかも、発売日が昨年10月10日と、まったく同じだ。

先に「池の水」抜くのは誰のためも近い時期に発行された拙著と似たテーマの本として紹介したが、こちらもズバリ真正面から来たなあ、という印象である。

しかも著者には記憶がある。「野生動物保護管理事務所」という会社を立ち上げツキノワグマの研究家として知られているのだ。実は、私も電話取材をした記憶があるので、数十年前に話したことになる。ま、向こうは覚えていないだろうが(^^;)。たしか野生のクマの生息数の推定法について聞いたはず。駆除数などから推定するから、駆除すればするほど生息数は増えることになる、結構いい加減……なんて意見を聞き出したように思う。

それはともかく、本書だ。目次を引用する。

Ⅰ部 すでに始まっている問題
 人口減少問題の一般的な論点

 野生動物の分布拡大と高まる災害リスク
 分布拡大の理由
 生態系に影響する問題
Ⅱ部 国土計画の盲点
 人口減少時代の環境変化

 コミュニティへの侵入を防ぐ
 自然資本として森をマネジメントする
Ⅲ部 解決に向けて
 機能不全の正体

 現場の実行体制
 人を育てる

まず拙著とテーマは非常に近いのに、アプローチが全然違うことに驚いた(笑)。目次の通り、まず人口減少問題から入っているのだ。それもかなり詳しく、人口減少のもたらす社会的影響に触れている。その上で動物たちの動向に触れている。ただ、ここは私的にはそんなに目新しく感じなかった。個々の事例は、さすがに研究者だから多くあるが、全体として拙著と変わらないのではないか。たとえば感染症、コロナ禍を獣害として扱っているところも拙著と同じだ。
原因に農林業の衰退などが挙げられているが、その林業の指摘に関してはちょっと突っこみたくなるところもあったけど(^^;)。

そのうえで、再び地域問題として対処法などともに人間側の問題点を指摘してくる。再びここで社会問題として強く記している。これは、仕事として獣害対策を請け負うことで国や自治体と交わった経験があるからだろう。

内容はいずれも的確だと思うが、今後の対策としては個人のレベルを超えているなあ、という印象を持った。財源問題や人材の育成……などなどとなると、一般人には手が出ない。これは無意識的に、自治体の行政マンや議員・首長向きに執筆したのではないか。

ともあれ獣害問題を考えるなら、人口減少社会からというスタンスは、私も取り入れたい。

 

 

2020/12/28

映画「斧は忘れても、木は覚えている」

斧は忘れても、木は覚えている」という映画がある。ドキュメンタリーである。

このタイトルを「木を伐ったチェンソーを現場に忘れてきて、伐った木は忘れずにトラック積み込んで搬出した」という意味にとって林業映画かあ、と思った人、それは林業人あるあるです(^o^)。

この言葉の元はアフリカの諺で、加害者は忘れても、被害者は覚えている、の意味。木は、自ら伐られたことを覚えているというわけだ。この映画の監督はラウ・ケクファット。マレーシア華人だが、現在は台湾在住。だから、この映画も台湾映画になる。

このほど大阪のシネ・ヌーヴォで上映されることになって誘われたのだが、私はコロナ禍もあって大阪に出たくなかったので(奈良では「大阪に出るな」というのが合い言葉(笑))、パスした。そうしたらDVDを送ってくれた。

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私はオラン・アスリの映画と聞いていた。オラン・アスリとは、マレー半島の先住民であり、森の民のことだ。そこにマレー人が移動してきて支配し、さらにイギリスが入っていて植民地化。そして華人やインド人の移民を労働力として導入した。かくして現在の多民族国家マレーシアができあがったわけだが、肝心の先住民は人口が1%未満となってしまった。ボルネオ側(サバ、サラワク州)は少数民族と言っても結構な人口があるので、まだ存在感があるのだが、半島ではほとんど忘れられている。

私はボルネオの少数民族にはいろいろと関わってきたが、オラン・アスリについてはほとんど知らない。ただ精霊と夢を見る民族として水木しげるなどが紹介していた。この場合の夢とは、「希望」的な夢ではなく、文字通り眠って見る夢であり、彼らは夢と現実を区別していないという。夢の中の出来事も現実として受け入れる精神文化を持っているのだ。そして精霊(というより妖怪か)が見えるらしい。
ただ今や森の民と言っても開発が進んで森を奪われていると聞いていたので、この映画で実情が知れるかもしれないと思って興味があったのである。

映画の内容は、予想とは違った。前半はオラン・アスリが、マレー人に奴隷にされたり子どもをさらわれたり、イスラムへの改宗を迫られてきた歴史の話。後半は、マレー人と華人の暴動(1969年)で多くの華人が殺され権利を奪われた記録であった。いわば「マレー闇の歴史」の映画である。この映画もマレーシアでは劇場上映の見込みは立っていない。

現在のマレーシアではマレー人優遇(ブミプトラ)政策を取っている。これは経済的に強い華人を抑えて国家のバランスをとる(……という名目)ため公職や進学などでマレー人が優遇される政策で、当初は時限的だったのだろうが、そろそろ矛盾が露呈している。だが、なかなかやめられない。マレー人にとって特権と化しているからだ。一般にマレー人は、イギリスの植民地支配を受け、また華人の経済搾取を受ける立場だったのだが゛その内部にはさらに差別階層が設けられている。

オラン・アスリ問題も華人民族暴動も、いわゆるマレーのセンシティブ事項であり、国の統合を保つために触れるには特段の注意を要する。きれいごとの人権とか平等の論理では片づかない。

以前、日本に留学している中華系マレーシア人と、ブミプトラ政策について聞いたことがある。すると、意外や「認める」と言った。なぜか。「保険だ」というのだ。マレー人に特権を与えることで、社会的格差を埋めないと、また華人に対する弾圧が始まるかもしれない、それを抑えるため、自らの安全を得るための「保険」だと捉えていたのである。
もちろん、中華系がすべてそんな意見なわけはない。マレーシアで観光ガイドをしてくれた華人は、こっそり恨み節を語った。

ほかにもイスラムとしての食事や酒の問題などもあって、こちらはマレー人が多民族・他宗教に譲るところもある。我々と同じテーブルで酒を飲んでもいいよ、私は飲まないけど……という態度だ。多分、中近東なら有り得ないだろうが、東南アジアのイスラムは寛容だ。そして実に微妙な、センシティブなバランスでマレーシア社会は成り立っている。それだけに難しいのである。

オラン・アスリに話をもどすと、この政策の中ではオラン・アスリはマレー系に含まれていて優遇されることになっている。一方でイスラム化が強要されたり、彼らの土地(未登記・慣習法による所有)をマレー人が奪うことにもつながっている。彼らの土地は、戦前よりゴム農園に変えられ、さらに現在はアブラヤシ農園に変わり、森は失われ続けている。

それにしても、地球上でもっとも豊かな資源と生態系を持つ森林地帯の民は、世界中を見回しても常に虐げられる側になっているというのは、いかなる人類史の皮肉だろうか。

 

2020/12/24

『獣害列島』東京新聞書評とオンライン講演

東京新聞12月19日の書評欄に『獣害列島』が取り上げられた。

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新書の扱いは小さいが、掲載に感謝。年末年始を過ごす読書の1冊にどうぞ(^^;)。

そして、同じく『獣害列島』をテーマに講演が決まった。主催は、ナレッジキャピタル。大阪駅前のグランフロントを拠点にする。ただし講演はオンライン。全国が対象である。当たり前だけど。zoomのアプリで行う。

なぜ野生動物が都会に出没するのか

開催日2021年1月23日(土)
開催時間15:00〜16:00
開催形式Zoomによるオンライン開催
参加費1,000円(税込)支払い方法クレジットカード決済による事前支払い(参加申し込み時)
受付締切2021年1月22日(金) 12:00

獣害そのものというより野生動物が増えた理由、そして都会(というより人里)にまで出没するようになった理由に焦点を当てます。……といいつつ、今後詳しい内容を考えます(^^;)。zoomだから、質疑も受け付けます、というか、双方向性じゃないと価値がない。

ちなみに私はオンライン講演は苦手だ~と口外しているが、数をこなせば慣れてくるだろうか。頑張りま~す。


『獣害列島』をテーマにした講演依頼は増えている。ほかにも市町村の首長会関係の団体からも声がかかっている。それだけ感心を集めているのだろう。ただ、こういってはナンだが、なんとなく他人事の気配がある(^^;)。直接獣害被害を受けている農林業関係以外は、やはり切実感がないのかなあ。ぜひ、それを乗り越えてほしいのだが……。

 

 

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