無料ブログはココログ

森と林業と田舎の本

2023/12/09

『列島ゴルフ場の科学』を20年前に

私には「ゴルフ場評論家」という肩書があるのをご存じだろうか。あるいはゴルフ場ジャーナリスト

間違ってもゴルフ評論家とかゴルフジャーナリストではないから、ご注意。あくまでゴルフ場を生態学的に論じる。ゴルフ場経営については若干論じるが、ゴルファーの好むコースうんぬんとか言ったスポーツ的なゴルフ場ではない。

実は2009年に『ゴルフ場は自然がいっぱい』という本をちくま新書から出版している。また、その改訂版の『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』というKindle電子本もある。

この本を書こうと思ったのは、2000年前後には世の中にゴルフ場批判があふれていて、ゴルフは今のクマのように嫌われていたからだ。ただ、その批判内容が、私のようなゴルフをしない素人にも嘘っぱちとデタラメ、偏見だらけとわかる内容だった。そこで、一から勉強してその正体を確かめる、というのが目的だった。

その時も、その文献探しに難渋した。ゴルフ批判本はあるが、ゴルフ場の自然をしっかり調査したような本はない。ドシロウトの思いつき批判(というより悪口)を並べただけでは、資料的価値はまったくないのである。今ならトンデモ本扱いできるだろう。

それから約20年。

ついに出た。科学的なゴルフ場の本が。

『列島ゴルフ場の科学』 伊藤幹二・伊藤操子著 大阪公立大学出版会

61hfbrc79ul_sl1280_

目次を紹介する。

まえがき
序章 「列島ゴルフ場の科学」とは
第1部 土地利用史と風土が特徴づける日本のゴルフ場
 第1章 世界に類を見ない存在様式
  1.日本列島の地勢的特徴
  2.ゴルフ場の立地と分布
  3.列島の地形とゴルフコース
  4.日本のゴルフコースのレイアウト
  5.在来種で構成されるコース芝生
 第2章 ゴルフ場ができる以前の植生史
  1.多くのゴルフ場が位置する「里山」とは
  2.里山利用の始まり:縄文の頃の話
     BOX1-1 日本の表土
     BOX1-2 ヒトとイネ科植生
  3.里山の発達:古墳の頃からの話
  4.里山利用の変化:近世の話
     BOX1-3 「土砂留奉行制度」って何?
  5.政府による里山の管理:明治以降の話
 第3章 日本の社会経済的環境とゴルフ場造成史
  1.米軍ミリタリー・ゴルフコースに始まる本格造成
  2.造成・ゴルフブームの始まり
  3.造成・ゴルフブームの推移
  4.造成を可能にした日本の芝生産業
     BOX1-4 社名を日本芝にした起業家のお話
  5.造成を可能にしたもう一つの要因:農村・農業社会の変貌
 第4章 ゴルフ場はそもそもどう発祥し発達してきたのか
  1.ゴルフ場の起源
  2.ゴルフ場の専門職グリーンキーパーの誕生
     BOX1-5 米国グリーンキーパーの芝生管理意識
  3.英国ゴルフ場の技術外史
  4.米国ゴルフ場の技術外史
  5.日本のゴルフ場技術外史
 第5章 市民・住民視点からのゴルフ場
  1.利用者の視点から
  2.地域住民から見たゴルフ場
  3.外国人の目に映る日本のゴルフ場
  4.農薬汚染の場という偏見について
     BOX1-6 「農薬」って何?
第2部 ゴルフ場の緑地機能とその地域的役割
 第6章 日本のゴルフ場緑地の構造
  1.ゴルフ場施設の規模と構成
  2.ゴルフ場芝地の構造
  3.ゴルフ場樹林の構造
     BOX2-1 残置森林とは
  4.ゴルフ場のため池と治山構造
 第7章 ゴルフ場植生の表土保全機能
  1.芝地部分の主要機能
  2.樹林部分の主要機能
  3.林内ラフの機能
  4.ゴルフ場湿地の機能
 第8章 ゴルフ場緑地を構成要素とする里山樹林
  1.里山樹林の変遷
  2.里山の経済・文化を支えた山林樹種
  3.里山のスギ・ヒノキ林を考える
  4.管理放棄が進む里山樹林
  5.里山樹林に広がる感染症
  6.里山樹林に潜む厄介な野生動物たち
 第9章 地域の環境資産へのゴルフ場緑地の役割
  1.地域の水循環とゴルフ場緑地 88
  2.地域の炭素貯蔵庫としてのゴルフ場緑地
     BOX2-2 ゴルフ場の温室効果ガスインベントリ
  3.地域の生態系・生物多様性保全とゴルフ場の役割
  4.地域の有用広葉樹の保存
第3部 植生管理現場の視点で見たゴルフ場緑地
 第10章 植生管理の現状
  1.データの収集:グリーンキーパーへのアンケート
  2.管理体制について
  3.キーパーが管理上重視していること
  4.キーパーが管理上苦慮していること
 第11章 主な生物害の実態と対応
  1.増大する雑草問題
     BOX3-1 スズメノカタビラ:人間が芝生から追い出せない小さな生物
  2.獣害増加の実態
  3.ゴルフ場緑地に起こっている生態系の変調
 第12章 直面する人材と経費不足の危機
  1.昨今の実態
  2.植生維持が危惧される将来
 第13章 グリーンキーパーが実感する自然環境保全
  <九州地区> <関西地区> <中部地区> <関東地区> <東北地区> <北海道地区>
第4部 日本の環境資源としてのゴルフ場の未来
 第14章 ゴルフ場の地場産業としての存在意義
  1.ゴルフ場事業は農林ビジネスなのか
  2.ゴルフ場緑地の外部経済効果とは
  3.ゴルフ場が持つ「オプション価値」
 第15章 地域のグリーンインフラとゴルフ場
  1.グリーンインフラとは
  2.地域で進行するグリーンインフラの変質
  3.ゴルフ場緑地がメガソーラー施設に
  4.植生管理不作為で止まらない雑草の蔓延
 第16章 気候変動対策とゴルフ場の役割
  1.気候変動対策へのグローバルな動き
  2.地方社会に求められている対応
  3.ゴルフ場にできることは
 第17章 ゴルフ場活用に向けてのビジネスモデルづくり
  1.ゴルフ場活用の方向性について
  2.緑地管理ビジネス
  3.炭素クレジットビジネス
  4.地域活性化・レジャービジネス
  5.実現に向けての体制づくりについて
  6.ゴルフ場の2050年は
参考文献・資料
あとがき
索引

目次を追うだけで、極めて自然科学的にゴルフ場環境を論じた内容だとわかるだろう。また歴史的背景なども描かれている。

著者の二人は夫婦だが、どちらも本筋は植物学……というより雑草学の専門家だ。とくに操子さんは、京都大学名誉教授だし、幹二さんは兵庫県の樹木医会の設立者。

本書は、専門書ぽいが、読みやすくて一般人にも向けられている。コラム欄にも面白いネタがいっぱいあるのだが、これはまた別の機会に紹介したい。

ちなみに、私がこの本を20年前に読んでいたら、『ゴルフ場は自然がいっぱい』は執筆しなかったかもなあ。ただ14年前と今とはさまざまな状況が変わっている。地球環境問題がこんなにクローズアップされると思わなかった。

またゴルフ場評論をやるか。

 

2023/12/04

ヤバ!ジュンク堂難波店

ジュンク堂書店難波店で、例によってチェック。

20231125_161834

おー、こういう棚があるとテンション上がるね(^^;)。平積みに私の関係した本がずらり。
『絶望の林業』、『山林王』、『フィンランド 虚像の森』は監訳。左端の『樹盗』は、共同通信に書評を書いている。

別の棚には、『虚構の森』

20231125_154328

思わず、私も本をごそっと買ってしまったよ。まだ読んでないけど。


2023/11/29

絶望の次は矛盾?『矛盾の水害対策』

『矛盾の水害対策』 谷 誠著 新泉社刊 が届いた。

71xhnuo7yl_sl1500_

水文学者である谷誠氏の本である。本書の成立には、私も多少絡んでいる。

拙著『絶望の林業』や『虚構の森』などで、ところどころ水源涵養とか洪水など水害、あるいは利水、地下水、降雨の動向など水文学関係の分野を扱っている。だが、私は、基本的にこの分野が苦手なのである。それは学生時代からで、常に悪戦苦闘していた。

そこで、拙著の執筆の際にお世話になってきたのが谷先生。いろいろメールのやりとりを繰り返し、また文献を教えてもらい……と繰り返して、原稿チェックもお願いして、なんとか形にしている。

その谷先生が一般向きに本を書き下ろした。

まだ全部を読み終えていないが、最初の印象としては、表紙は穏やかな表情をしつつ、専門用語も多い科学書。しかし水文学的な理系の科学書というよりは、骨太の政策批判書であり社会科学的な本である。それも、常識になってしまっている国土交通省の論調を徹底的に砕くのだ。今の水害対策のダメダメさ加減を暴いている。河川問題やダム問題、水利問題に興味のある人には、これは押さえねばならない基本文献になるのではないか。

その点は、失礼ながら『絶望の林業』を連想した。

目次を紹介しよう。

はじめに



0・1自然災害の原因は地球活動である
0・2なぜ、水害はなくならないという前提に立てないのか
0・3水害対策に必要なふたつの提案
0・4水掛け論を超えた水害対策を探る

第1部 水害対策と対立の歴史
第1章 水害ではなぜ対立が生まれるのか
1・1災害復旧工事を繰り返して造られてきた風土
1・2川のもつ自然性からもたらされるふたつの困難
1・3大東水害裁判のかみ合わない対立
1・4医療裁判との比較から水害裁判をみる
1・5淀川水系流域委員会における議論の経過
1・6堤防強化とダム整備事業計画との相容れなさ
1・7改良を追求する大和川の付け替え事業
1・8江戸時代の淀川流域の複雑な利害関係
1・9瀬田川浚渫に対する下流の猛反対
1・10利害調整の結果としての天保のお救い大ざらえ
1・11河川事業がかかえる利害調整のむずかしさ

第2章 河川整備事業における苦悩の戦後史
2・1戦後の河川整備事業の出発点
2・2改良追求事業の基準を決める水文設計
2・3水害裁判における国の防衛ライン
2・4川に対して環境保全を要望する声の高まり
2・5長良川河口堰反対運動の衝撃
2・6環境保全問題への河川官僚の対応
2・7合意形成への河川官僚の対応
2・8河川法改正後も残された対立

第3章 基本高水流量の値に根拠はあるのか
3・1利根川の河川整備計画への疑問
3・2学術会議における基本高水流量検証
3・3森林の保水力向上について
3・4貯蓄関数法による流量推定方法を理解する
3・5洪水流量に及ぼす地質の大きな影響
3・6山地流域における洪水流量推定のむずかしさ
3・7はたして200年確率流量を推定できるのか
3・8やれることを目標に言い換えた河川整備計画

第4章 安全性向上の哲学では改善されない対立構造
4・1川の自然性から生じる水害対策の矛盾
4・2改正河川法の理想と矛盾する安全性向上の哲学
4・3ダムの放流操作の困難さ
4・4予測できない自然を人間が操作する矛盾
4・5河川整備事業への世論の後押し

第2部 対立緩和に必要なのは自然を理解すること
第5章 水循環を森林の蒸発散から考える
5・1水循環の普遍的な理解の必要性
5・2地球の水循環と水収支
5・3水のリサイクルが支える内陸の湿潤気候
5・4少雨年にも減らないカラマツ林の蒸発散
5・5森林放火事件をきっかけとした水文観測
5・6今も続けられる竜ノ口山試験地での水文観測
5・7森林損失による年間の水収支の変化
5・8日照りの年にも減らない森林の蒸発散量
5・9明らかになった森林放火の効果
5・10森林の蒸発散を通じた水資源への影響

第6章 緑のダムを再評価する
6・1流路システムに基づく水文設計の問題点
6・2はげ山の斜面で雨水はどう流れるか
6・3森林でおおわれた斜面で雨水はどう流れるか
6・4斜面の地下構造からみた流出メカニズム
6・5大雨時のピーク流量を低くする森林土壌層の効果
6・6土壌層の厚さによって異なる大雨時のピーク流量
6・7洪水流量緩和と土壌層の効果
6・8ダムは緑のダムの代わりができるか?

第3部 人新世の時代の水害対策
第7章 自然を理解して水害対策の方向性を探る
7・1自然災害を相互作用の視点から位置づける
7・2江戸時代をモデルとする限界点の検討
7・3治山事業の木に竹をついだ構造
7・4高度経済成長がもたらした社会のひずみ
7・5安全性向上の哲学と荒廃する日本
7・6改良追求から維持回復の水害対策へ

第8章 望ましい水害対策への道
8・1絵に描いた餅にしないための水害対策
8・3改良追求欲求と限界点越えの危機
8・3立場の死守と「木に竹構造」
8・4改良追求の自主的な抑制をめざす試み
8・5災害対策の展開をはばむ利己主義の問題
8・6遺伝子複製の原理からみた人間の利己主義
8・7主体的な欲求抑制とエゴイズム
8・8軸の時代に始まる有限な自己と無限の世界
8・9維持回復事業が優先される条件
8・10軸の時代Ⅱへの軟着陸

おわりに
文献一覧

長くなった(^^;)。ただ書籍としては250ページほどで一般書並である。つまり1単元が短い。その分、読みやすい。専門用語があっても途中でくじけずに済む。読者対象はあくまで一般人向けと思ってよいだろう。

ところでタイトルで思ったのは、「“絶望”の次は“矛盾”がいいかも」。

矛盾の林業政策』という本でも書こうかなあ。イヤイヤイヤイヤ……

2023/11/15

「名著百選」のPOP

ブックファースト新宿店で「名著百選フェア」が開かれた。

そこで各界から推薦する書籍を出してくれ、と言われて私にもご指名があった。ここに自分の本をヘラヘラと出す勇気はなかったし、いきなり恋愛小説や歴史小説、はたまたSF、さらにマンガを選ぶ勇気もなかった(´_`)。そもそも最近読んでいないし。

そこで森林・林業関係から選んだのが、この本。『森林業 ドイツの森と日本林業』村尾行一著 である。

それが店頭POPになって展示されているそうである。送っていただいた写真。

Photo_20231115171101

どんな推薦文を書いたか。

2_20231115171301

これぐらいで読めるかな?

木材栽培業から生態系産業へ。これは、まさにネイチャー・ポジティブを叫ぶ現代世界に合致した本だと思う。それに林業は大きな関与をするチャンスなのに、逆にネイチャー・ネガティブにしているのが日本の林業だろう。

そこんとこ、読み取ってほしい。

2023/10/12

「ニュースきん5時」で注目してほしい点

NHKが金曜日午後5時より放送している「ニュースきん5時」に出演することになった。

この番組、「ん曜・きん畿からの5時!大阪から全国へ「地域の視点」を大切にしたニュース番組。多彩なコーナーで心が動く!知られざる社会問題・地域ならではの話題をお届けします。」とあるが、全国放送なのかな?

出演すると言っても、私はもうオンラインで取材を受けており、VTR出演であってナマではない。
テーマは、「山林を相続したらどうする?処分したいけど……」というもの。わりと私にとっても身近な話で、つい最近は91歳の人に山林をどうするか相談を受けたばかりだ。そこにコメントを求められた。

まあ、内容は放送にお任せするとして、注目点を指摘しておきたい。もし、この時間に見ることができる人は(配信もあるから、後にネットでも見られるようである)、気をつけて見てほしいのである。

私はオンラインで出演することになる。それが決まって、まず考えたのは、バックをどうするか?だ(コメント内容じゃないのかよ)。。。

実は我が家のリビングは、リフォームを済ませたばかり。その際に壁一面に書棚を備えつけた。ここを書斎ぽく背景になるようにパソコンをセットしよう。

と決めると、次は背景の書棚にどんな本を並べるかだ(⌒ー⌒)。

すでに本は運び終えているが、今だ十分に分類などをして配置しているわけではない。そこで、私の肩の上に、ちょうど拙著が映るようにしなければ、と思ったのである。もともと出版した拙著の一群は書棚にあるのだが、よく映るようにねえ~。

何より新刊『山林王』を忘れてはイケマセン。1冊だけだと目立たないかな、と思って4冊ほど並べてみた。

20231011_155609

映る書棚の一角。この真ん中部分に私が座るのでその後ろは隠れるが、上段に『山林王』が並んでいるのが見えるように考える。肩というよりは頭の横になるだろうか。4冊あると、目に止まるはず。。。

20231011_183454
どうだ。

さて、目立つかな? これを見て『山林王』って、どんな本?と興味を持つ人が現れないかな?

いじましいほどの宣伝努力でしょう(^o^)ワハハ

ぜひ、番組を見て、本書を手にとってください。

2023/10/01

大和八木の書店で見つけた本

大和八木奈良県橿原市の中心地で、吉野や飛鳥の入り口に当たる。
その駅前の近鉄百貨店にあるジュンク堂書店を覗く。たいして広くもないのだが。

20230930_161942

しっかりあるではないか(^^)v 平積みだ。さすが地元。

そういや、このフロア、「やぎもくひろば」と名付けられた吉野材満載のコーナーであった。

20230930_164329

ところで、私が気になったのは、拙著のとなりの本。

近畿のとある場所について』。なんとも不思議なタイトル。著者の名が背筋とは? なにより初っぱなに「見つけてくださってありがとうこざいます」とある。たしかに、自分の本を見つけたついで、ではあるが、見つけた(笑)。

パラパラとめくると、どうも怪談というか、オカルト系の不思議なエピソード集のようであるが、一方で小説ぼくもあり。なんとなく場所は奈良が関係しているぽい。

さらに隣には『奈良今昔物語』。古今名作の並ばん、じゃない奈良版パロディ本も並んでいる(^^;)。この3冊が平積みなんだな。

ただ時間がなかったので、購入を先延ばしに。でも、気になる。こんな本づくりもあるんだな、という点で参考になるかも。

2023/08/05

千葉大学の図書館

今日は朝から千葉に足を運ぶ。そして訪れたのは、千葉大学。その図書館で謀議。

いやあ、5時間も話したのだから、なかなかの密度だったが、せっかく訪れた大学図書館だから、気になるものを探索。

そう、我が著作は何冊あるか?

そこで探してもらうと、4冊あるという。森林林業の棚である。

20230804_194925 20230804_194942

絶望の林業』と『虚構の森』。あとは?

以前見たのに、今は見つからない本が1冊。長いタイトルだったというから、わりと古い『「森を守れ」が森を殺す!』とか『だれが日本の「森」を殺すのか』とかだろうか。『日本人が知っておきたい森林の新常識』なんてのもある。どうも貸し出し中なのかな。

そして、最後の1冊は……。

銀座みつばち物語』だって。いや、その、それは……同姓同名の田中淳夫氏の本なのですよ。というわけで、3冊は在庫していようであった。あとは新書も確認したいなあ。

それに、新刊『山林王』も置いてほしいよお。

ともあれ、日帰りはきつい。帰宅したのは、深夜になってしまった。

 

2023/07/28

『樹盗』書評の裏事情その2~取り締まり

先に『樹盗』の書評を書いたことを記した際に裏事情!と付けたのはよかったのだが、なぜかタイトルに「その1」を足してしまった。
多分、気分的には1回で終わらないほど書きたいことがあるぞ、という意味なんだろうが、書いた私自身が忘れていた……。

改めて「その2」を書こうと思ったのだが、気になる情報としては、DNAによる盗伐木の特定である。そんな技術があるのか!

最初は押収された(盗伐のある疑いの)木材片からDNAを採取し、盗伐された切り株から採取したDNAと照合するという技術だったのが、押収した木材の生えていた場所をDNAから特定することができるようになったという。そのためには膨大なデータベースが必要だろうが、盗伐されるのが国立公園など広大な林野だから、ある程度特定できたら、そこは禁伐地とわかるのだろう。

20230727_211504

さらに木材に含まれる化学物質を同定することで化学分析による樹種特定の手法も編み出したとある。ともあれ、そのためのラボを民間で設立して運営しているらしい。そうした所にも金が出ることも日本とは違う。

盗伐される前の取り締まりも、森の中で伐採されそうな木(直径の太いもの、瘤パールのあるものなど)の周りに幾台もの自動撮影カメラをセットしたり、林床に磁気式センサーを隠して、盗伐者が現れたら警報が届くような装置も開発している。犯人特定に対する取組が並々ならないのだ。対応は、国立公園のレンジャー、フォレスターらしい。
アメリカだから、犯人も武装している可能性がある。銃を持つ相手と立ち向かうのだからレンジャーたちも必死だ。

日本に盗伐取り締まりはないに等しい……。

と書評原稿に書いていたが、編集部からクレームが来た。日本にもクリーンウッド法などができて、それなりに盗伐を止めようとしているじゃない、と。私は激しく反論し、このクリーンウッド法がいかに骨抜きというか抜け道を最初から用意してあるフェイク法制であること、そもそも促進法、理解増進法であって何の罰則もなく、キャンペーンみたいなものであり、取り締まりは事実上ゼロであることを。

と説明して、ようやく納得させたのであった。そこでクリーンウッド法の恐ろしさを私は感じたよ。とりあえず「法律」があれば、日本人は守るだろう、抑止効果があるだろう、と世間は思い込ませることができるのだ。それがこの法律をつくった目的であったか! 
実際、つくったのは東京オリンピック直前で、五輪施設には認証材を使うという原則をごまかすために大急ぎで拵えた法律だ。世界の目を欺くのが最初から目的だったのだろう。

そして日本には、アメリカやカナダのような意欲的なレンジャーもいないのだ。とりあえず犯罪行為ということで矢面に立つのは警察だが、被害届さえ受理しない(受理したら捜査をしなくてはならなくなるから嫌がるのだろう)。受理しても立件しない。立件しても検察が不起訴にしたり、差し戻す。みんな仕事が大嫌いなのである。結局、裁判では刑事事件に持ち込みにくく民事になるが、何千本もの盗伐があっても取り上げるのは数十本。だから有罪となっても十数万円の罰金。これならやり得!

アメリカでも、盗伐の摘発は法律的にはハードルが高く、また有罪になっても罪は軽いと記されている。それでもレンジャーたちは挑み続ける。日本は最初から逃げ腰だ。

……ああ、「その2」も、やっぱり書くのは本のことではなく、日本の盗伐問題になってしまった。

 

 

2023/07/25

『樹盗』書評の裏事情その1

『樹盗』(リンジー・ブルゴン[著]  門脇仁[訳]築地書館)の書評を共同通信からの依頼で書いた。

どうやら掲載が始まったようだ。下野新聞、沖縄タイムス、山陰中央新報など。。。私もまだ掲載紙を全部確認できていない。

Vz55morpxwfgssp1690286417_1690286472

樹盗とは、盗伐のこと。なんか盗伐と記すとダサいが、樹盗にしたらオシャレに感じてしまう。伐って盗むというより生きた樹木を盗む方が感覚的に伝わるものがありそうだ。

そんなことよりこの本、なかなか濃い内容なのだ。そもそも分厚いし(笑)。が、書評の文字数はあまりに少ない。書きたいことの5分の1しか書けない。せめて倍は欲しい。だから、ここでぶちまけよう……かと思ったが、それはそれでよろしくない。まだ掲載していない新聞も多いだろうし。

20230725_213223
私の読書跡。

ただ、いくつか注目すべき点を指摘しておこう。もっとも大きな点は、舞台がカナダとアメリカであること。盗伐とか違法伐採は発展途上国の仕業で、欧米や日本はそんなことやっていないよ、植林された森から切り出す木材はみんな合法だ! と自慢げに言うどこぞの(林野庁か?)ボンクラこそ読んでほしい。

すでに『フィンランド 虚像の森』で北欧で進む非持続的な林業の世界を暴かれたが、北米だって酷いもんだ。年間10億ドルに達する違法木材が流通しているそうだ。

が、私が書評後半で取り上げたのは、日本の盗伐の話。日本も酷いんだぜ、ということを記さないと、また「日本は大丈夫だ」なんてほざく輩が現れるから。クリーンウッド法を、まるで海外から入ってくる違法木材を食い止める法律のように説明する輩がいるが、全然機能していない。むしろ国産材対象の法律をつくるべきではないか。
たとえばEUの森林破壊防止規則を国産材に厳密に適用してみろ。現在流通しているうちの半分も扱えなくなるから。国産材の大半にトレーサビリティがなく、産地偽装の塊なのである。さらに皆伐地の3割しか再造林していないということは、7割が非持続的な木材である。そして盗伐もしゃれにならないほど多い。

……ということを書きたかったのだが、いかにも文字数がない。そもそも本書の書評ではなくなってしまう(ーー;)。

なお北米の盗伐スタイルも少し違う。大木をこっそり伐ると、その中の高く売れる部分を切り取って持っていくそうだ。とくにレッドウッドのバールと呼ぶコブを狙う。その杢の美しさから高く売れるから。ほかに苔も「盗む」そうだ。なかなか森林資源を細かく価値を見定めている。日本のようにデタラメに伐って傷だらけの木材を安く大量に売り飛ばすのとは違う。

ちなみに著者は、わりと盗伐者に同情的だ。これもなあ。

 

2023/07/17

『日本人はどのように自然とかかわってきたのか』評

このところ、書棚から日本の森林史、林業史にかかわる本を引っ張りだしては、内容をチェックしている。十分に読むヒマはないので斜め読みだが、私の求める情報はあるのかと見つけるために目を通している。あるテーマに関しての文献調査といったところだ。
そして今回開いたのがこれ。

71iekkp6aal

日本人はどのように自然とかかわってきたのか 日本列島誕生から現代まで』タットマン著 築地書館

コンラッド・タットマンと言えば『日本人はどのように森をつくってきたのか』が知られるが、アメリカ人が日本の歴史に通底して、日本人が描かなかった日本森林史を書くという点で驚かされたが……今回の著作も自然に焦点を当てている。森林に限らず日本の自然全般を地史的な面から人新世の日本人の活動まで概説したもので、上下二段組で、350ページを超える大部なもだ。

この本は高いのだが、購入する際は迷って悩んで逡巡して、ようやく買ったら、全然読まずに放置するという、我ながらなんなんだという性癖そのものの本である。が、こうした資料本は、急に必要となる時が来る。今回、ついにその時が来て、ページを開いたわけである。

さて、本書は原題はシンプルに「日本環境史」らしい。そして壮大なスケールで日本の数千年の歴史を描く。目次は以下の通りだが、もっと詳しいものが版元・築地書館のサイトにある。長大だが、各単元が細かく分かれているので、内容を把握しやすいし、1単元は短めになるので目を通しやすい。

第1章 日本の地理
地形的特徴
日本列島の生い立ち
地球上の所在地

第2章 狩猟採集社会――紀元前五500年頃まで
環境的背景――気候変動
最初の渡来人
縄文時代
まとめ
【付録】気温と海水面の変化率(1万8000~6500年前)

第3章 粗放農耕社会前期――紀元600年まで
農業の始まり
農耕初期の特徴
弥生時代――大陸から伝わった農業
拡大する社会――古墳時代まで
まとめ

第4章 粗放農耕社会後期――600~1250年
森林伐採――木材と農地のために
中央支配の成立(600~850年)
律令制が環境に及ぼした影響
後期律令時代(850~1250年)
律令時代後期のできごとが環境に及ぼした影響
まとめ

第5章 集約農耕社会前期――1250~1650年
地理
支配層――政治的混乱と再統一(1250~1650年)
生産者人口――規模と複雑さの増加
農業技術の動向
技術の変化が社会と環境に及ぼした影響
まとめ

第6章 集約農耕社会後期――1650~1890年
支配層――安定した政治、崩壊、方向転換
生産者人口――増加、安定低迷、変動
科学技術の動向
まとめ

第7章 帝国主義下の産業社会――1890~1945年
日本の産業時代を読み解く予備知識
国事――産業化と国家
社会と経済
科学技術と環境
まとめ

第8章 資本家中心の産業社会――1945年~現代
社会経済史の概要
人口の推移
物質消費
技術と環境
まとめ

終わりに
解説

さて、ここで私は本書の評する余裕はない。細部にはツッコミどころもあるし、概説ゆえもっと詳しく記してほしいと思う点もある。訳語に不満もある。(たとえば都をすべて帝都と訳さないでほしい。)ただ膨大な情報が詰まっており、それらは細かな事実の集積であること、その中には意外な日本の歴史を感じさせる点も多々あった。

たとえば鎌倉時代には都市の建設や大火もあり、膨大な森林が伐られたことが示されている。が、同時に鎌倉周辺の山林の所有者は、中国に大径木材を売って儲けていたとある。なんと木材輸出である。それは小規模でなく、毎年交易船40隻から50隻分の量だというのだ。しかも、売る木は直径が1・2メートルに達するスギやヒノキ。長さは41メートルから44メートルあった。それを板にして泉州(現在の福建省)まで売りに行ったそうだ。

この時代から多少の木材輸出・輸入があった事実は知っていたが、こんな規模とは思わなかった。もしかして、中世日本の森林破壊に木材輸出が影響しているかもしれない。

一方で、伐採に必要なノコギリは、1600年頃、つまり江戸幕府が始まる前には登場していた。ところが、その後木の伐採にノコギリは使用禁止になった。それは盗伐を防ぐためだというのだ。ノコギリだと静かに早く伐れるからである。オノなら時間もかかるが、音が響く。それを盗伐を防ぐ手だてにしていたというのだ。

これは意味深だ。盗伐禁止に「木一本首一つ」という厳罰主義だけでなく、道具から取り締まっていたのか。

同時に伐りすぎを抑える効用もあっただろう。生産性だけを高める道具の進歩は過剰な供給を生み出し、価格暴落の引き金になる。無駄遣いも生み出す。むしろ生産力を落とすことが持続的経済を可能とするのだ。これは現代にも取り入れるべき発想かもしれない。人新世真っ盛りの今こそ意味があるだろう。

たとえば現代の宮崎県は、ハーベスタもグラップルもフォワーダも禁止する。盗伐者が高性能林業機械を使えなければ、伐採搬出が大仕事になって、素早くできないから、盗伐は難しくなるはずだ。今の宮崎県の林業界にはもっとも必要ではないか? 取り締まりや厳罰化をする気がないのなら、それぐらいやったらどうだ。

ともあれ、温故知新、古きを温めて新しきを知るの精神で、日本史を見直すと、新たな発見とチャンスの芽を見つけられる。

ちなみに著者は、現代日本の姿に絶望しているのかもしれない。

 

より以前の記事一覧

December 2023
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

森と筆者の関連リンク先