『実証実験・保持林業 広葉樹を残して生き物を守る』(築地書館)を読んだ。
これは、以前出版された『保持林業 木を伐りながら生き物を守る』続編というべきか。サブタイトルでは、残すのは広葉樹に限定してしまったのだな。
出版日は7月2日になっている。が、私は1週間ほど早く購入した記憶がある。
そして購入より約1週間前にアップされた私の書いた記事。
〈注目〉一部の木を残す「保持林業」って?林業の新潮流、全部切る「皆伐」より森林の再生が早く、生物多様性にも寄与か
Wedge ONLINEに、保持林業の記事を書いたのだが、この時点では上記の本の出版はまったく知らなかった。知っていたら、出た本を読んでから書いたか、出版より前に書いてしまおうと急いだか。結果的に本書の影響は何も受けていない。
いずれにしてもたまには林業の記事を書こうと思って、最先端の動きとして保持林業を取り上げたのである。
ここで紹介したものと、本書の内容は似ている。実践とあるのは主に北海道の保持林業実験地のデータを入れているからだが、その内容は私も報告で読んだからだろう。
私自身は、保持林業というのは中途半端というか、次善の策、やらないよりまし(^^;)と思っていた。なぜなら皆伐が基本だからだ。皆伐面積をどれほどに設定しているかどうかはともかく、バッサリ伐った中に数本の木を残しても、しょぼく感じる。フィンランドでも保持林業をしているが、そこで残すのは1ヘクタール2,3本ということを知っていたから。残木率(保持率)30~40%ぐらいにしないと、「生き物を守る」と言えないのではないか?
と思っていたのだが、この実証実験によると、わりと効果はあるようだ。鳥類に甲虫類、下層植生……いずれも残さない皆伐より優れて生物多様性を保てる。また全面的な皆伐と比べても木材生産性は、ほぼ変わらない。
フィンランド
ただ、本書を読むと、残し方にはいろいろあれど、多いものは2割ぐらい残すという。しかも広葉樹を選別するらしい。まあ、伐る本数が少なくなれば山主にとっては収入減だろうが、残せば残すほど、生き物のレヒューリアは増える。
そして、広葉樹を残すということは、それが生育すれば針広混交林へと近づくことになる。次の伐採時でも残して、また新たに映えてきた広葉樹も残す……としていけば、植林した針葉樹と天然性広葉樹が入り交じる。針広混交林づくりの手法となり得る。
奈良県では針広混交林づくりを進めているものの、技術的には模索中だ。山林所有者の了解を取るのに難航しているという。広葉樹を植えるということは、金になるスギやヒノキの本数が減ると感じるのだろう。私は、この手法を取り入れてもよいのではないかと思う。減ると言っても、元から映えてきた広葉樹だ。。100年ぐらいかけて2~3度の伐採を実施しつつ完成させるのだ。それは恒続林に近づく。
なお本書は、私が読むより林業家が読んで実践するために使ってほしい。本書には四国の山主が実践に移している事例が載っているが、もっと全国レベルで実践例を増やして各地の条件にあった技術を磨いてほしい。
目次、長いけど、全部転記しておこう。
はじめに
第1部 序論
第1章 なぜ今、保持林業か?……山浦悠一
久万高原町のハリギリ
保持林業とは
人工林と生物多様性
自然保護区の役割とその限界
保護区を取り巻くマトリックスの重要性
世界の人工林経営は環境保全型へ
本書の構成
北海道での大規模実証実験
なぜ保持林業か?
数十年後を思い描きながら、木を残す
第2部 大規模実験の成果
第2章 保持林業の木材生産性……尾崎研一
はじめに
伐採とは
伐採の経費
保持林業の伐採経費
調査結果から考えられること
おわりに
第3章 保持木の生残……明石信廣・雲野 明
はじめに
保持木調査
保持木の死亡率
伐採に対する樹種ごとの反応の違い
気候に左右される保持木の生残
おわりに
第4章 下層植生……明石信廣
はじめに
調査方法
伐採前の植生と人工林の管理の影響
伐採後の種組成の変化と保持林業の効果
おわりに
第5章 外生菌根菌……小長谷啓介
はじめに
外生菌根 ─森林を支える菌との共生
調査方法 ─北海道の大規模実証実験
群状保持区の結果 ─パッチが守る非伐採林の多様性
単木保持区の結果 ─広葉樹保持木の周りに作られた独特な群集
考察 ─見えてきた菌の応答パターン
おわりに ─多様性に配慮した木の残し方は?
第6章 地表性甲虫……山中 聡
はじめに
調査方法
実証実験から分かったこと
オサムシ・ゴミムシ類の応答
腐肉食性シデムシ・糞虫類の応答
おわりに
第7章 コウモリ……河村和洋・赤坂卓美
はじめに
コウモリにとっての森林
森林にとってのコウモリ
調査方法
意外にも活気ある人工林
皆伐の影響、広葉樹保持の効果
おわりに
第8章 鳥類……山浦悠一・雲野 明
はじめに
土地の節約vs共有
調査方法
観察された鳥類
伐採前の広葉樹の役割
各処理の効果
伐採後の広葉樹の役割
おわりに
コラム1 ポツンと残された孤立木で営巣するクマゲラ……雲野 明
コラム2 ヨタカ─伐採で守る遷移初期種……河村和洋
第3部 実験のとりまとめと振り返り
第9章 実証実験の10年間の成果をまとめて……尾崎研一
はじめに
世界で行われている保持林業
成果のとりまとめ
生物多様性保全
伐採地の風景的価値(保健休養機能)
機能間の比較
人工林に適した保持林業
何を保持するのか
どれくらい保持するのか
どのように保持するのか
おわりに
第10章 保持林業を現場で作業して……髙篠和憲・伝法和也・佐藤雅彦
はじめに
伐採作業について
伐採後の保育作業や伐採地の様子
おわりに
第11章 道有林で保持林業を実践して……峯岸敏行
はじめに
道有林について
保持林業の導入に至った経緯について
試験地の設定・活用について
研究成果の活用に向けて
第4部 保持林業の実践
第12章 北海道の社有林で保持林業を実践して……髙森 淳
はじめに
取り組んだ経緯
石井山林の存在
ドイツの森林コンサルタント来訪
アイヌ文化保全としての取り組み
現場での苦労、今後の取り組み
おわりに
第13章 高知県のスギ・ヒノキ人工林で保持林業に取り組んで……瀨戸美文・富田幹次・山浦悠一
はじめに ─本州以南の人工林での保持林業の実証研究の必要性
主伐後の林地で保持された広葉樹の樹種・本数
スギ・ヒノキ人工林における保持林業が鳥類多様性に与える影響v おわりに ─展望
第5部 今後に向けて
第14章 保持林業の課題と展望……山浦悠一
2024年6月28日、ストックホルム
日本でもやればできる
「広葉樹高木は必ずしも容易に残せない」
保持林業は万能薬ではない
オープン・クエスチョン
風倒リスク
施業指針
労働災害の防止
そろそろ次のステップへ
おわりに
用語解説
索引
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