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森と林業と田舎の本

2023/09/26

花粉対策予算の真の目論見は

林野庁の「令和6年度林野関係予算概算要求の重点事項」に目を通した。

令和6年度林野庁予算概算要求の概要 

花粉削減・グリーン成長総合対策
・30 年後の花粉発生量の半減に向けてスギ人工林の伐採・植替え等の花粉発生源対策に加え、カーボンニュートラル等の実現に向けて川上から川下までの森林・林業・木材産業政策を総合的に支援する交付金を創設する等の取組を推進

これに222億円である。

なかでも一番手が花粉症対策。

ア 新たな花粉症対策の展開
・森林所有者への協力金を通じた伐採・植替えの促進、横架材のスギ材への置換えに資する集成材工場の整備、建築事業者によるスギJAS構造材の利用拡大、官民を挙げた花粉の少ない苗木の増産、木材加工業者による高性能林業機械の導入、他産業との連携による労働力確保、スギ花粉の飛散防止剤の早期実用化等の取組を支援

これ、本気で考えてるの?

<対策のポイント>
スギ人工林の伐採・植替え等の加速化やスギ材の需要拡大、花粉の少ない苗木の生産拡大、林業の生産性向上及び労働力の確保、花粉の飛散量の
予測、花粉飛散防止剤の早期実用化への支援等を一体的に実施する総合的な花粉症対策を進めます。
<事業目標>
〇 スギ苗木の年間生産量に占める花粉の少ない苗木の割合の増加 (約5割[令和3年度] → 9割以上[令和15年度まで])
〇 スギ花粉の発生量の削減(令和2年度比 約2割削減[令和15年度まで]、5割削減[令和35年度まで])

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すでにYahoo!ニュースなどに書いているから繰り返さないが、苗はどこで生産するのか、その苗は画一的なクローン苗になるのか。誰が植えるのか……とまあ、難問続出であります。

まあ、官邸、というより首相が勝手に決めたことを実行させられるのだから、御愁傷様……と思いかけたが、いやいや、そうではあるまい。シメた、と思っているのではないかと気付いた。なぜなら、花粉症対策という錦の御旗で、一気に予算がつくからだ。しかも、植え替えだよ。ようするに皆伐できるんだよ。

これまで皆伐には補助金をつけにくかった(一時、高度な搬出経費だとのたまわって付けたことがあるが、続かなかった)が、今度は無花粉・少花粉苗に植え替えるという名目で、皆伐を奨励できる。補助金ばらまけば、喜ばれるし権限を振り回せる。そして皆伐すれば木材生産量が増える。「(この政策で)木材生産量が上がった」という点を自らの業績にできる……(出世できるかも?)と喜んでいるのではないか。ヤクを中毒者にどんどん売りつけて儲けるとともに組の地位を上げる売人と一緒。

素材生産者は(補助金で)儲かるし、製材業者も安価な材料が手に入る。燃料不足に行き詰まりがちなバイオマス発電にもごっそり国産材を回せるし、いいことづくめ。
過剰生産で材価が下がって森林所有者が困ってしまう? そんなの知ったこっちゃない(笑)。もちろん、林業の持続性も考えない。だって十数年後に森林資源が底を突いても、自分の任期はそんなに先までないから。カーボンニュートラルに反していることも、世界の動向なんかに目を向けていないからね。

そのうち盗伐も花粉対策だ、と言い出しそうな気がする。

先日、盗伐問題の関係者にインタビューした際に、林野庁に「盗伐を止めさせるための法律改正はできないのか」と打診したところ、「そんなエネルギーない」とあっさり言われたという話が出た。「エネルギーない」とは、新たな政策を提案するようなやる気はないということか。これが幹部なら言いそうなことだが、もっと若手の現場レベルの声なのである。「(林野庁は)若い官僚ほどやる気がない」とは、某霞が関官僚の言葉であった……。

だから、自分から動くのではなく、官邸から降ってきた「花粉症対策」という政策ほど、美味しいものはないのではないかね?

 

2023/09/08

味わい深い全国森林計画案

2024~39年期間とする全国森林計画の素案が出てきたようだ。決定するのは、林政審議会の答申を経てから閣議という手順だろうが、異論をぶって卓袱台返しをする委員や議員はいないだろうから、10月ごろには決まるのだろう。

そこで目玉は、やはり「花粉発生源対策の加速化」である。スギ人工林の伐採や花粉の少ない苗木などの植え替えを促進する。

これ、林野庁も内心忸怩たる思いがあるのではないか、と想像する。首相が大臣や長官までぶっ飛ばして勝手に発言したことが実行に移されるというか移さなくてはならなくなったのだから。

だいたい、多少とも林業かじっていたら無理無茶な計画だとわかるだろうから。でも、ネットニュースのコメント欄を見ていたら、世間は歓迎する声も多いのである。そして森林管理とスギ林減らしは両立すると独自の理論をぶつ素人もいる。

人気取り政策の効果はあったようだ。しかし、「花粉発生源対策」なのだから、何もスギを伐らなくてもいいと解釈できないか。ロボット枝打ち機を導入して、全国のスギの枝打ちを行います、とかなんとかでっち上げて数年待てば、首相は忘れてしまうだろうし、首もすげ替えられている可能性は高いだろう。

「盛土規制法(改正宅地造成等規制法)」もある。盛り土を全国一律の基準で規制するそうだ。知事が指定する規制区域の森林では、渓流となる谷での盛り土を極力避け、技術的基準を守るよう求めた。

林地開発に対する許可制度の見直しも盛り込んだよう。ソーラーなどでも盛り土は盛んだから、規制につながればいいのだけど。

やはり気になるのは、木材生産と再造林の施策である。

15年間で伐採する立木の体積は、8億8899万立方メートルに目標を設定。19~21年の年平均実績よりも、約1000万立方メートル増やす気らしい。

これ、捌け口はあるのか。在庫がだぶついて材価が下がれば、たくさん伐っても利益は薄くなるだけかもしれない。

一方で再造林面積は、9万2000ヘクタールが目標。現在の年平均3万4000ヘクタールだから大幅増だ。これも、人手と苗は足りるの?

林業不適地は「複層林」にするという。複層林面積は、現在の111万ヘクタールから172万7000ヘクタール! 昔の複層林の失敗は繰り返さないでほしいが。

ただ、複層化することを作業管理の省力化……とあるのは解せん。本気で成り立たせようとしたら、むしろ手間は増える。ようするに皆伐しないで間伐後を放置するということなのかしらん?

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昔懐かしい複層林。

とまあ、読めば読むほど味があるよ。

 

2023/09/05

補助金から脱却した国

以前、林業の新ビジネスを考えようという企画で、「いかに補助金を取るか」というビジネスモデルを提案した人物がいる。森林組合出身者だったけど。税金が原資の補助金を取っても何も生産物を生み出さないと思うのだが、それをビジネスと言えるのだろうか。

私が大嫌いなのは「ふるさと納税」である。これって、自治体ごとの税金の分捕り合いであって、ある自治体が他の自治体(たいてい都市)の財源を奪うだけである。何も生み出していない。いや、全額奪うのではなく、3割(実は5割まで行くケースもある)は民間に流れる。寄付した個人に返礼品という名の餌代だけでなく、「さとふる」なんていうブルシット・カンパニー、くそどうでもよい企業がかすめ取っていく。

なかには、いかにふるさと納税を増やすかを仕事にする部署を設けている自治体があるそうだ。他所の税金ぶんどりビジネスモデルか。

ほんま、クソ。

一方で、世界中のほとんどの国で第一次産業は、補助金なしに成り立たないとされる。日本は農林水産、どれも補助金がある。補助金をなくせば農業も林業も消滅するとさえ言われる。だいたい穀物大生産国のアメリカでさえ、莫大な農業補助金があるのだから、なんとも妙な構造だ。

だが、補助金から脱却した国もある。

「補助金なしで、農業は繁栄しない」という神話を覆した国の話。

ニュージーランドでは、ほぼすべての農業補助金を廃止を議会で決めたらしい。ただし1980年代の改革以前は、農産物の最低価格、投入資材補助金、低利融資、税制優遇措置、債務償却など、さまざまな農業支援を行っていたそうだ。それをなくすことに成功したのだ。

そこに載せられているグラフがすごい。一番上と一番下を見てもらいたい。

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スイスも、林業補助金を全廃した。たしか2010年ごろだったと記憶する。それまでは日本に負けないぐらいの補助金が出ていたそうだが、長い議論の末に撤廃することにしたという。どこかに資料ないかな、と思って検索してみると、なんと私自身の記事が出てきたよ。

林業再生の特効薬は「補助金撤廃!」

日本もできないわけがない。でもできるとは思えない。。。だって、当事者は全員やる気がない。補助金の弊害は常に語られるのに、もらって嬉しい補助金、出して支配するのが楽しい行政の組み合わせだ。なぜなら、みんな麻薬中毒患者と麻薬の売人だから。

私の持論は、補助金の必要な分野は、災害などの緊急事態への対処、新規事業の投資や研究開発ぐらいである。
補助金に限らず税金の使い道としては、儲からないけど必要のある分野に限って注ぎ込むべき。具体的には医療、福祉、教育、警察・消防・防衛費である。今後は環境分野も入れるべきかもしれない。

もし林業も農業も、どうしても麻薬もとい補助菌もとい補助金がほしければ、そうした分野に入る工夫をした方がいいよ。林業は国土防衛だとか、林業は福祉だとか。林業で精神病を治そう……なんて風に。

まあ、これ以上書いても愚痴を通り越して罵倒になるから止めておこう(笑)。

2023/08/20

モクレポ・木材輸出、中国は大丈夫?

モクレポ8月号が出た。

ここで私が注目したのは、木材の輸出先と品目。

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金額では、下がっている。品目では丸太が伸びて製材は減っている。なんだかめざす方向の逆ばかり行っていない?

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 丸太は中国が大幅に購入量を増やしたが、逆に製材の落ち込みが目立つ。そして合板は、ほとんどがフィリピン。フィリピン、このところ伸びているなあ。多分、また輸出するのだろう。かつて日本のお家芸だった三角貿易だ。日本は加工ではなく、原料提供国。

やっぱり買ってくれる中国さまさま。

ただ気になるのは、中国の木材輸入量全体だ。激減している。

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昨年の落ち込みは何を意味する。まさかバブル崩壊か。その中で日本が伸ばしたというのは……為替の関係で価格が下落、大安売りになったからか?

肝心の日本の木材の総需要量は、8213万㎥(対前年比110.3%)。内訳は、用材が6714万2000㎥(同109.4%)程度だが、燃料材が1474万2000㎥(同115.1%)と増えている。

国内の消費量は、7887万9000㎥(対前年比110.4%)だが、増加量が大きかったのはパルプ・チップ用材と燃料材。でも、パルプ・チップと燃料材は輸入も増えているんだよ。だから自給率は落ちている。

総数の木材自給率は、41.1%と対前年比で0.7ポイント低下した。

皆さんも、自分でモクレポから今後の傾向を読み取ってみよう。

 

 

 

 

2023/08/09

「サザエさん」4コマ漫画の 吹き出しコンテスト受賞作

林野庁が、「サザエさん」の4コマ漫画を使って、こんな催しをしていた。

サザエさん一家の“もりのわ”話吹き出しコンテストを開催します
~漫画「サザエさん」の吹き出しにセリフを入れよう!~

そして、このほど受賞作の発表があった。

「サザエさん一家の”もりのわ”話 吹き出しコンテスト」の受賞作品を決定しました

4作品が選ばれている。

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読みにくい? そうでしょ(^^;)。詳しくは、リンク先から開いてほしい。

林野庁長官賞受賞作品(ア)
林野庁長官賞受賞作品(イ)
みどりの感謝祭運営委員長賞受賞作品
長谷川町子美術館長賞受賞作品

コンテストは今回が初めてで、7歳から93歳まで計1759作品が集まった。特に16~18歳の応募が多かったそう。

私は、正直……どれも笑えなかった。。(´Д`)。

伝えたいテーマとは別にクスリとでも笑えないと漫画としては辛いね。どんな選考をしたのだろうか。なかなか厳しい。かろうじて、多少の毒とオチがあるのは長谷川町子美術館長賞作品かなあ。

セリフ内容には、次のようなものを入れてほしかったそうだ。

〇日本が森林やそこに育まれる生き物に恵まれていることを伝える内容
〇森林の恵みである木々を「伐って、使って、植えて、育てる」循環利用が大切であることや、そのためにどうしたら良いかのアイディアを伝える内容
〇森林に木々を植え、手入れをしていくことが大事であることや、そのためにどうしたらよいかのアイディアを伝える内容
〇木を暮らしに取り入れたり、木を使って建物を建てること等が、森も暮らしも良くする「ウッド・チェンジ*」のアイディアを伝える内容

※身の回りのものを木に変える、木を暮らしに取り入れる、建築物を木造・木質化するなどの木を利用することにより持続可能な社会にチェンジする行動

なお応募作には、「木を切るのが良くない」という表現が多かったというが、10代には、そうした認識が強いということだろうか。。
ちなみに用意された4コマ漫画は3種類あるのだが、真ん中の一つは受賞作には選ばれなかったみたいね。木を倒すという、もっとも林業に近い図柄なのだが。吹き出しを入れるのが難しかったか、事前検閲で落としたか?

まあ、カミナリの鳴る中で伐採しちゃイカンよ、なんてというと白けるけど。

内容より笑えるかどうかとか、オチがあるかどうかを選考基準にしてほしかったよ。もっとも今どきの「サザエさん」漫画が笑えるのかと言われると、ちょっと口をつぐんでしまうのだが。

2023/08/08

外資が日本の森を?再び

このところ宮崎県で700へクタールの森が買われたが、その会社の社長が中国人とかで話題になっている。

即、外国人(とくに中国人)に日本の森が奪われた、という反応だ。

「魅力ある山じゃない」何のために?都城で‶桁違い”規模の面積の山林買収 外資系企業の目的は

Img_b59317e29867d6b6b3ee4b86816050703049記事より

ややこしいのは、この買収が、即「外資が森を」とは言えないことだ。実際、林野庁の外資買収統計には入っていない。単に社長の国籍だけなのか、あるいはバックに別の資本関係があるのか複雑で、「ステルス買収」となっている。この会社は太陽光発電を扱うらしいから、この森林買収もメガソーラーをここに作るつもりではないかという予測もあるが、今のところ何の動きもない。地形的にも、あまり適地には見えない。

それにしても、宮崎県は、“盗伐のメッカ”で、盗伐被害面積はおそらく700ヘクタールを超えているだろうに、なかなか世間の反応は弱い。またメガソーラーで100ヘクタール単位で森林を買収し皆伐するケースもある。放置林とか再造林放棄とかも何十、何百ヘクタール単位だ。しかし、あまり注目されない。
いっそ、中国人に盗伐してもらう(^^;)というのはどうだろう。容疑者を中国籍だ、と煽るだけでもいいかもしれない。世論は盛り上がり、盗伐摘発に熱心になるかもよ。(-_-)コラッ

ともあれ、買った人物・会社に中国がらみだとわかると、頭を沸騰させる人がそれなりの割合でいる。以前は水源目当てと言ったものだが、今度は太陽光目当てと騒ぐのだろうか。

ちなみに私の意見としては、森林の所有に関して、なんらかの規制というか義務を課すべきだとは思う。ただ外資、外国人というだけで規制するのは法的に問題があるし、定義が混乱する。日本生まれの外国籍ならどうかとか、資本割合が49%ならどうする、とか。やはり全森林所有者に関しての義務を設けるべきだ。

森林の管理放棄していると認定されたら、森林経営管理法で半強制的に自治体の管理下に置くことはできる。ならば、無断伐採や施業内容をチェックして防災上を理由に施業停止命令を出して、事実上の管理権限を取り上げるようにできるのではないか。もちろん日本人でも

重要なのは、国籍とか法的にどうかではなく、森林が破壊されていないかどうか、ではないのか。EUは、EUDR(EU森林減少フリー製品に関する規則) という森林破壊防止規定を作った。合法・非合法ではなく、森林破壊をしていないか、という視点でチェックして持続性に欠けていたら原則購買禁止になる。日本も、同じような規定をつくれないか。そうした覚悟を示してほしい。

2023/08/03

改めてGHQの勧告どおりにしろ!

訳あって、「林業技術」誌の1950年6月号を渉猟する日。

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ここには「カーチャー・デックスター勧告~日本に於ける民有林針葉樹林の経営」という論文が掲載されている。

これって、GHQ、つまり進駐軍総司令部の報告の翻訳である。

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目次を見てもらえばわかるが、進駐軍は、林業の専門家(カーチャー氏とデックスター氏)を呼んで、日本の林業事情を調査させているのだね。37日間かけて日本の林業地を周り、北海道などは飛行機で視察したらしい。

このことは私も以前に紹介したことがあるし、拙著にも何度か取り上げた気がする。少なくても『森と日本人の1500年』にはしっかり取り上げている。

まあ、私が改めて読んだのは別の用件があったからだが、それとは別に感心する。こんなに見事に日本の林業事情を分析していたのか。そして、戦後すぐの日本の森はこんなに荒れていたのか。

ここで詳しい内容には触れないが、「勧告」とあるように、日本のあるべき林業の姿を提言しているところが白眉。それは……

ちゃんと施業案をつくれ!
施業案をつくるための現場の資料の精度を高めろ!
不確実な面積平分法を排して、材積、成長量及び齢級配置を重視しろ!
最終の経済目的として用材生産を高めろ……伐期をもっと延ばせ!
日本の固有事情に合致するように改変せずして、ドイツ林業の方式を盲目的に採用することを止めろ!
より早くからより強くより回数多く間伐を繰り返して材積成長を増大させよ!
急傾斜の皆伐を止めろ!
群状択伐を採用しろ!
皆伐跡地はただちに造林しろ!

……ああ、全部写すのかいやになった。ほかにもいっぱい勧告しているよ。そして、大部分が今でも通用する。ただドイツが皆伐一斉造林するのは、平坦な地形で可能だからだ、とあるが、そのドイツは今皆伐を止めているよ。て、日本は戦前の皆伐こそ少なかった(戦中に大規模にした)のに、今は大展開中。

とりあえず、70年以上前の「勧告」を、今からでもいいからすぐ実行しろ!!

 

2023/07/04

環境省が出すのは「環境白書」ではなかった!

環境省が毎年発行する白書。当然ながら「環境白書」だと思っていた。いや、昔はたしかに「環境白書」というさっぱりした名だったと思う。

ひょんなことで検索してみてびっくり。

今や「環境・循環型社会・生物多様性白書」というのだそう。いつのまに、こんな長くなっていたのか。どんどん付け足して行ったのかね。林野庁の白書は、かつて「林業白書」だったが、現在「森林・林業白書」になっているが、そんなに違和感なかった。しかし、ここまで長いと……。

最新版は、これ。

令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書

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表紙はなかなかイイネ! である。森林・林業白書の表紙はそっけないからね。

なお「令和5年版」となっている。森林・林業白書は、今年発行分が「令和4年度」なのだが。環境省の方が未来を描いている? こうした年代の使い方は、各省庁に任せられているのか。なんとも混乱する元をつくっているように思うが。

目次を拾い読みするだけでも、なかなか興味深い。カーボンニュートラル、生物多様性、里山、木質バイオマス、持続可能な農林水産業……。

そのうち林業部部分を引用する。

(2)林業

森林・林業においては、持続可能な森林経営及び森林の有する公益的機能の発揮を図るため、造林や間伐等の森林整備を実施するとともに、多様な森林づくりのための適正な維持管理に努めるほか、関係省庁の連携の下、木材利用の促進を図りました。

また、森林所有者や境界が不明で整備が進まない森林も見られることから、意欲ある者による施業の集約化の促進を図るため、所有者の確定や境界の明確化等に対する支援を行いました。

ほかにも森林保全や持続的な経営の項目もある。

5 森林の保全と持続可能な経営の推進

世界の森林は、陸地の約31%を占め、面積は約40億haに及びます。一方で、2010年から2020年の間に、植林等による増加分を差し引いて年平均470万ha減少しています。1990年から2000年の間の森林が純減する速度は年平均780万haであり、森林が純減する速度は低下傾向にありますが、減速ペースは鈍化してきています。地球温暖化や生物多様性の損失に深刻な影響を与える森林減少・劣化を抑制するためには、持続可能な森林経営を推進する必要があります。我が国は、持続可能な森林経営の推進に向けた国際的な議論に参画・貢献するとともに、関係各国、各国際機関等と連携を図るなどして森林・林業分野の国際的な政策対話等を推進しています。
(どこがや!とツッコミを入れたい)

「国連森林戦略計画2017-2030」は、国連森林フォーラム(UNFF)での議論を経て2017年4月に国連総会において採択され、我が国もその実施に係る議論に参画しています。

国際熱帯木材機関(ITTO)の第58回理事会が2022年11月に神奈川県横浜市にて開催され(オンライン併用)、ITTOの設置根拠であり、2026年まで延長中の「2006年の国際熱帯木材協定」について、2027年以降の再延長等の必要性について加盟国間で議論を行いました。また、加盟国等から総額約400万米ドルのプロジェクト等に対する拠出が表明され、我が国からは、タイ及びインドネシアにおける持続可能な木材利用の促進等計約1億500万円の拠出を表明しました。

 

ともあれ、今後は環境白書(と、ほか2つ)にも目を通すべきだろう。森林、そして森林保続原則に従う林業に目を向けるのなら。さもないと林業しか視界に入らず、(世界が滅んでも)林業さえ栄えたらいい、という業界脳になるよ。

 

2023/07/02

EUの森林破壊規制と盗伐市場

先日、「欧州の木材DD(デューデリジェンス): 違法伐採から拡大 - CW法改正の参考」という(長いタイトルの)セミナーをオンラインで受講した。講師は、籾井まりさん・ディープグリーンコンサルティング代表。

テーマは、日本のクリーンウッド法が改正されることになったのに合わせて、EUで起きている動きとして、EU木材規則(EUTR)から「森林破壊防止のためのデューディリジェンス義務化に関する規則 」(EUDR)へと移行というか進化しようとしていること。日本ではEU森林破壊防止法と呼ばれているかと思う。

これまでのEUTRは、違法伐採木材の取引を取り締まってきたが、それでは足りないとして、より森林破壊を引き起こす産物の取引規制をめざしたものだ。ここでは相手国にとって合法かどうかではなく、これらの産物のため森林を破壊していないことを証明しなければならない。森林認証を受けていても、自ら確認しなければならないという。具体的には木材や木製家具のほか、大豆やパーム油、牛肉、コーヒー、カカオ、ゴム……までが対象となる。

Photo_20230702130701セミナーで使われた概念図

日本のクリーンウッド法なんて、EU木材規則の足元にも及ばない、中身のないブルシット(くそどうでもよい)法律だった。任意の登録制で罰則もないのだから。それを多少改正して義務化へ向かうことになった(それでもクソだが)ものの、EUはさらに先へと進んでいるのである。

それでもセミナーを聞いていると、必ずしもEUの規制が万全なわけではなく、抜け道もある(グレーな場合はリスク緩和措置を設けるとOK)ようだが、日本はいまだに「違法木材」を禁止せず、合法木材を使いましょうね、と呼びかけているレベル(違法木材とわかっても輸入してOKです!と林野庁は法改正の説明会で連呼していた模様)なのに対して、その意識の差は大きすぎる。

ただ私は、セミナーで「結局、国産材使えば大丈夫でしょ」なんて声が出たのに驚愕した。日本で違法木材がないとでも思ってるの?
私は、盗伐はもちろん、提出した伐採計画に記してある再造林を無視しているケースも違法だと捉えているが、そういう意識がないらしい。私に言えば、日本は世界に冠たる違法木材大国ですよ。

どうも違法木材は、だいたい発展途上国で行われるもので、欧米や日本は国内ではしっかり持続的な林業を行い、違法木材問題とは問題のある木材を輸入することだとでも思っているのか?

アメリカやカナダでも盗伐が深刻化している。年間10億ドルの木材が違法に伐採されているというデータもあるのだ。それも、直径3㍍級、高さ50㍍級の大木が狙われている。アメリカの公共地の伐採される木の10本のうちの1本が盗伐だという推定もある。世界全体では、違法木材市場は推定1570億ドル、20兆円以上だ。

こうした盗伐などを取り締まるのは取引規制だけでは限界ではないかと思える。

さらに言えば、イギリスでは「生物多様性ネットゲイン」政策が進められている。これは開発(森林伐採だけでなく、住宅や道路などの建設も含む)際に、元からの自然より増やす(ネットゲイン)ことが義務づけられたものだ。事業ごとに生物多様性を10%純増させる目標が環境法に明文化されている。移行期間を経た2023年11月からは必須となる。違法だとか合法のレベルではなく、より開発前より自然を増やすことが求められているのだ。

どうやら日本の木材製品をヨーロッパに輸出することは難しくなりそう。ともあれ、時代の意識は先へと進む。日本は……まあ、後ろからついて行く? 行ける?のかな。

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アメリカのレッドウッド国立公園でかつて行われていた伐採

2023/06/05

日経が取り上げた「フォレスター」

日経新聞が、なんとドイツのフォレスターを取り上げ、それを日本の森林官と比較している。

ドイツで医師並み人気の「森林官」 自然の均衡保つ守人 

ドイツで医師やパイロットと並んで子供に人気の職業が、森林を管理・調査するFoerster (ドイツ語で「森林官」の意)だ。日本の半分以下の森林面積ながら、2倍以上の国産木材を伐採・供給し、かつ多様な生物を育む豊かな自然を残すドイツ。森林官は経済合理性と持続可能性とのバランスを保つ「森の守人(もりびと)」の役割を担っている。

ドイツには約5000人の森林官がいる。日本でも林野庁の出先機関である森林事務所に公務員の森林官を置いているが、850人程度にすぎない。ドイツの森林面積は1070万ヘクタールと、日本(2500万ヘクタール)の半分以下で、その手厚さがわかる。

……とまあ、ドイツのフォレスターを持ち上げている。

ドイツ駐在の記者なので、ドイツの実情については信じてよいかと思うが、残念ながら日本の事情については疎いようだ。

もっとも気にかかるのは、最後の余談的につけた明治神宮の森問題。

ドイツ留学で本多が学んだ「天然更新」を実践し、成功したこの森だが、今年3月、その一部の神宮外苑で大規模な再開発計画が始まった。

「目の前の経済的利益のために先人が100年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々を犠牲にすべきではありません」

だが本多静六がつくった神宮の森とは内苑である。現在伐採するかどうかと揉めているのは外苑。こちらは街路樹か公園木みたいなもので、全然別だ。天然更新するわけがない。それをくっつけたらイカン。想像だが、ドイツのフォレスターが現場を見たら伐るのに賛成するのではないか。フォレスターは林業、つまり経済にも通じているから。伐って植えてという循環は認めるだろう。

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内苑(上)と外苑(外苑)。この違いを感じてほしい。

 

なおフォレスターを訳せば、森林官になるわけだが、林野庁の森林官をドイツのフォレスターと同等に見てはイカン。あくまで林野庁の職員である。ドイツの場合は、特別な養成コースがあり、国家資格なわけだが、林野庁の職員にそこまでの技能知識を求められない。

そもそも日本では、かつて(民主党政権時代に)日本型フォレスターという役職を設けようとして、それが自民政権にもどると、この名称が気に食わんと「森林総合監理士」に変えてしまった。これだってペーパー上の資格である。資格ではあり、役職ではない。この資格をとっても仕事内容は、全然森林に関わっていない人が多い。だいたい転勤が多すぎる。それでは森を扱えない。
最近は民間でも資格を修得できるようになってきたが、果たして仕事にできているか。ただ日本では、こちらをフォレスターと呼びがち。

しかし、それとは別に各地に独自のフォレスターと呼ばれる人がいる。自称もある。環境省にも自然保護官がいる。
それぞれを区別するのは厄介だ。たとえば奈良県には奈良県フォレスターと名付けた役職がある。こちらは奈良県職員の森林管理職という転勤のない特別職である。あくまで公務員の役職の中で、森林林業知識を身につけた資格という位置づけになる。資格と役職が一致している希有な例とは思うが、肝心の権限は弱い。

奈良県の条例で定めたから、国の法律を超えることはできない。かろうじて伐採届の受理をするかどうかを決める権限がある程度ではなかろうか。それだって、正確には微妙だが。

権限がない日本の「フォレスター」を、ドイツのフォレスターと比べるのはかわいそう。

せっかくフォレスターを取り上げたのに、惜しい! と思わせる記事なのであった(^_^) 。

 

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